【シナリオブログ】妖怪退治は放課後に 第1話②

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○ シーン 4
  生物研究会室。
  カタカタと、パソコンを打つ音。

夏姫「お前、鼻血出てるぞ」
和馬「え? あっ、本当だ。先輩に殴られたからだ」
夏姫「まったく。お前はホント、ひ弱だよな。だから特訓してやるって言ってんのに」
和馬「……足に鉄球をつけて、川に突き落とすって、どこの時代の死刑ですか!」
夏姫「そんなんじゃ、この先、やっていけねえぞ」
和馬「あー、騙された。一体、これのどこが『生物研究』なんですか? 動物なんか、一匹もいないじゃないですか!」
夏姫「いるだろ。ここに。三匹も」
和馬「三匹って……。僕と夏姫先輩と、雫先輩のことですか?」
夏姫「地上の生物の中で、一番やっかいで、手に負えないのが人間だ。その人間を監視、管理する。立派な『生物研究』じゃねぇか」
和馬「うう……絶対、詐欺だ。動物好きな人が、僕と同じような間違いを起こさないように、名前変えた方がいいですよ」
雫「(打つのを止めて)創立した時から、この名称。今更変えることはできない」
夏姫「だってよ」
和馬「あうう……」

  ドアがノックされ、扉が開く。
  入って来たのは、宮下京香(28)。

宮下「いたいた。お、雫は今日、こっちか」
雫「……宮下先生」
夏姫「宮下が生研の部室に来るなんて、珍しいな」
宮下「ちょっと、頼みごとがあるんだよ」
和馬「頼みごと、ですか?」
宮下「噂で聞いてないか? ほら、三日前に生徒が倒れたって……」
雫「居残りしていた生徒が、倒れるという事件」
宮下「そう、そう。それだ。さすがだな」
夏姫「雫、詳しく説明してくれ」
雫「夜、一人で居残りしている生徒が、気絶した状態で見つかったという事件。その生徒は、未だ、目が覚めていないという話」
夏姫「ふーん。で? 俺たちに、どうしろってんだ?」
宮下「調べて欲しいんだよ」
和馬「調べるって……何をですか?」
宮下「事故なのか、事件なのか。簡単に言うと、人為的なものなのか、どうかだな」
夏姫「(嬉々として)犯人探しか! いいぜ。見つけてボコボコにしてやるよ」
和馬「先輩、落ち着いてください。あの……事件の可能性がありそうなんですか? それなら、僕たちよりも、警察の方が……」
宮下「警察沙汰にすると、教頭がうるさいんだよ。それに、警察に言っても相手にされそうにないしな」
雫「争った形跡、および外傷がない……」
宮下「そう。生徒には全く異常がないんだ。これがな」
和馬「それじゃあ、そもそも犯人なんて……」
宮下「それがな、実は……。同じように倒れた生徒が他にもいるんだよ」
夏姫「……雫、詳しいデータあるか?」
雫「(パソコンを打つ)一人でいる時に、同様の症状で倒れた生徒は、三日前の生徒で四人目。いずれも、まだ目が覚めていない」
宮下「四人とも、一人でいるところっていうのが、ちょっとな……」
夏姫「放課後に四人連続、同じ症状か……」
宮下「それに、万が一、今回のことが……」
夏姫「生徒の悪戯なら、公になる前に手を打っておきたいってところか」
宮下「こんな時のための生研だろ。違うか?」
和馬「生徒会は、なんて言ってるんですか?」
宮下「生研に廻せ、の一点張りだ。そもそも、生徒会は学校運営が主な仕事で、こういう治安維持の仕事は生研の役割だからな」
和馬「まぁ、それは、そうですけど……」
宮下「というわけで、頼むぞ」
夏姫「犯人を見つけるのはいいんだけどよ……。問題は犯人が何をやってるか、だろ?」
宮下「(ため息)そこが、頭が痛いところだ。医者にも、目覚めない原因がわからないって言われてな……」
夏姫「医者にもわからないのに、俺たちがわかるはずねえと思うぞ」
雫「専門家が見抜けないような知識を、生徒がもってるとも思えない」
夏姫「だよな。やっぱ、偶然じゃねえのか」
宮下「本人の証言が取れないし、目撃者がいないから、何とも言えないんだがな。まあ、犯人がいないに、こしたことはない。ただ……(急に怪談を話すような口調で)あともう一つ気になることがあってな……」
和馬「(生唾を飲んで)なんですか?」
宮下「あくまで噂なんだが、幽霊の仕業だって話もあるんだ」
和馬「ええっ! 幽霊!?」
夏姫「なるほど。医者にも、原因がわからないとなると、そんな噂もたつってか」
宮下「ああ。生徒たちも、変に怯えてしまってな。親からも苦情が出てるんだよ」
夏姫「俺ら、そういうのは専門外だぞ」
宮下「そこを何とか、適当に頼む」
和馬「適当って……」
夏姫「じゃあ、何日か調査して、何も出なかったら、それで終了ってことでいいか?」
宮下「OKだ。お前たちが調査した後、同じことが起こったら、その時はしょうがない。教頭を説得して、警察に相談してみるよ」

  宮下がドアを開けて、出て行く。

和馬「ホントに、幽霊の仕業なんですかね?」
雫「状況から見て、人為的な可能性は低い」
夏姫「よし! じゃあ、頼んだぞ。和馬」
和馬「なんで、僕なんですか!」
夏姫「お前、寺の息子だろ」
和馬「遠縁のおじさんがやってるだけです。僕が、お祓いとかできるわけじゃありませんよ。ここは、支部長の先輩が行くべきです」
夏姫「お、俺は……、その、あれだ」
和馬「あれ? ……もしかして、先輩、幽霊とか苦手なんですか?」
夏姫「(モジモジして)わ、悪いかよっ」
和馬「(ボソッと)か、可愛い……。先輩が、普通の女の子に見える」
夏姫「(小声で)幽霊は……、殴れないから、面白くない……」
和馬「(コソッと)よし! 今のは、聞こえなかったことにしよう」
夏姫「じゃあ、和馬、頼んだぞ」
和馬「(諦めて)はい、はい……」
夏姫「雫。四人が倒れた場所や状況の資料、出してやれ。関連しそうなのも全部だ」
雫「……わかった」
和馬「早速、今夜から張り込んでみます」
夏姫「ま、数日の我慢だ。……案外、お前、悪運が強いからな。初日から、ビンゴなんてこともあるかもな」
和馬「冗談でも、やめてくださいよ」
夏姫「まあ、何かあったら、すぐ電話しろ。相手が人間なら、すぐに殴りに行ってやる」
和馬「……幽霊より、先輩の方が怖いです」
夏姫「あん? なんか、言ったか?」
和馬「い、いえ。じゃあ、今日の放課後から、調査始めますね」
夏姫「(真剣な声で)なあ、和馬。現場に行く前に、一応、あいつの所に寄って行け」
和馬「……あいつ?」
夏姫「占星クラブの蘆屋千愛だ」
和馬「せん……せい、クラブ、ですか?」
夏姫「占うに、星って書いて、占星クラブ」
雫「吉兆を占う、陰陽師の術のこと……」
夏姫「そこの部長をやってるやつだ」
和馬「その人に会って、どうするんです?」
夏姫「会えば、解かる。とにかく、この手の話に詳しいんだよ。今回の事件が、幽霊が絡んでるのか、ただの悪戯なのかも、きっと見破ってくれるはずだ」

○ シーン 5
  和馬が、放課後の廊下を歩いている。

和馬「なーんて言われたけど、ホントかな。……っと、『占星クラブ』のプレートがあるってことは、ここかぁ。……って、うわっ、旧家庭科室だ。部員一人しかいないのに、随分良いところ使ってるなぁ」

  コンコンと、和馬がドアをノックする。
  しかし、全く反応が無い。

和馬「いないのかな? 先輩、放課後なら絶対いるって言ってたのに。……どうしよう。放送部に呼び出してもらうかなぁ。……ん? あれ? ちょっとドア開いてる」

  和馬がギィっとドアを開ける。

和馬「(小声で)お邪魔しまーす。蘆屋先輩、いらっしゃいます……」

  柔らかい風が、和馬を包む。

和馬「うわ……(呆然と)綺麗な人」

  蘆屋千愛(17)が、ペラリとページをめくる。

和馬「(見惚れて)……天使みたいだ」
千愛「用がないなら、消えてくれないかしら。……邪魔だから」
和馬「悪魔だった!」
千愛「聞こえなかったの? 本を読むのに、気が散るのよ。帰って」
和馬「……」
千愛「それとも占いの依頼かしら?」
和馬「……えっと、い、いや、あの……」
千愛「(面倒そうに)仕方ないわね。占ってあげる。……結果は、明日死ぬと出たわ」
和馬「何一つ、占いの動作してませんよね」
千愛「占星なんて名前が悪かったかしら。占いなんて文字を入れたのが失敗。うっとうしいにも程があるわ」
和馬「えっと、僕は、『生研』の芹澤和馬です」
千愛「……生研? ああ、夏姫のところの」
和馬「実は先輩に頼みたい事があって……」
千愛「どんな事件?」
和馬「え?」
千愛「(本をパタンと閉じ、ため息)どうせ事件の依頼でしょ? ぼさっとしてないで、概要を話してくれないかしら?」
和馬「ひ、引き受けてくれるんですか?」
千愛「引き受けるかどうかは、話を聞いて判断するわ。だから、早く話してくれない?」
和馬「あ、はい。実はですね……」

  時間経過。

千愛「……なるほど」
和馬「あの、何か分かりましたか?」
千愛「ええ。生徒が倒れた原因が分かったわ」
和馬「本当ですか! じゃあ、犯人は何をしたんですか?」
千愛「犯人? ずいぶん、間の抜けたことを言うのね。この事件に犯『人』はいないわ」
和馬「え? じゃあ、事故ってことですか?」
千愛「(大きくため息)そんなわけないでしょ。四人も同じような症状で倒れているのよ。しかも、外傷はないって話なんだから」
和馬「それは、何か……、そう、ガスのようなものが、発生して……」
千愛「頭の悪い人間と話すと、疲れるわね」
和馬「初対面なのに、ひどい言いようですね」
千愛「まあ、いいわ。で、ガスだったかしら? 仮に医者にも分からない、未知のガスが発生したとして……。今度は被害者が四人じゃ、おかしくないかしら?」
和馬「あっ、確かに、この学校の生徒の数に対して少ない……」
千愛「それに、事件は放課後、つまり日が沈んでからしか、起こってない」
和馬「それじゃ、一体……?」
千愛「十中八九、変化の仕業ね」
和馬「……変化?」
千愛「いわゆる、幽霊、妖怪、怪異と呼ばれる存在のことよ」
和馬「ま、まさか。そんなのいるわけが……」
千愛「襲われた四人……。まだ目覚めてないのでしょ? 恐らく、大量に霊力を抜かれんだわ」
和馬「れ、霊力……ですか?」
千愛「一週間もすれば、意識は回復すると思うけど、無視できる被害ではないわね」
和馬「じゃあ、どうすれば……」
千愛「変化を調伏するのよ。放っておいたら、犠牲者は増えていく一方だわ」
和馬「ぜひ、事件解決に協力して下さい」
千愛「……今回は、助言だけじゃないから、報酬をいただくわ。いいわね」
和馬「ぼ、僕、そんなにお金持ってませんよ」
千愛「言わなくても、顔を見れば分かるわ」
和馬「僕、そんな貧乏臭い顔ですか?」
千愛「……この『占星クラブ』を正式な部に昇格させるっていうのは、どうかしら? 『生研』の権力なら、簡単でしょ?」
和馬「そんな、無茶ですよ。メンバーだって、一人で、活動内容も不明って、そんな部、認めることできませんよ!」
千愛「それなら、交渉は決裂。自分たちで、何とかするのね。まあ、あなたたちも、霊力を抜かれるのがオチだと思うけど」
和馬「蘆屋先輩は、なんとも思わないんですか? 現に、ここの生徒が、化け物に襲われたんですよ!」
千愛「他人の為に、命を賭けるほど、お人よしじゃないわ」
和馬「い、命……」
千愛「人外の者……変化を相手にするのよ。一歩、間違えれば、被害者の四人と同じ状態になりかねない。それほどの事態に、報酬を求めるのは、当然だと思うけれど?」
和馬「……分かりました。条件を飲みます。ただ、蘆屋先輩が、本当にそういう力を持っているか、証明してくれませんか?」
千愛「……今のが私の作り話で、あなたを利用して、利益を得ようとしてるかもしれないってことね?」
和馬「……失礼な考え方かもしれませんが、そういうことです」
千愛「へえ……。ちゃんと考えてるのね。感心したわ。あなたの評価を、サルからチンパンジーに上げてあげる」
和馬「微妙な上がり方ですね。……って、評価がサルになってることにビックリしましたよ!」
千愛「……ゴリラの方が良かったかしら?」
和馬「下がりました! 最初より、下がっちゃいましたよ。ちゃんと人間として認識してください」
千愛「この白い、四角い和紙は、霊符と言って、術を発動するために必要な札よ」
和馬「僕の意見は、基本、スルーなんですね」
千愛「これに、血で文呪を書く」
和馬「針なんて出して、どうするんです? うわっ、指に刺した。痛くないんですか?」
千愛「これを、折り畳み……。できたわ」
和馬「……鶴?」
千愛「……発」
和馬「え? ……飛んだ?」

  ゆっくりとした、鳥の羽ばたき音。

和馬「ど、どうなってるんですか? 紙の鶴が飛ぶなんて……」
千愛「式神って言葉、聞いたことないかしら? これがそうよ。……で? どうかしら?」
和馬「……すごい」

1話-3へ続く