【シナリオブログ】ここはホーリー・ジェネラル・ホスピタル ④

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〇 シーン 11
  静かな道を歩く、アンナ。
  ×    ×    ×
クリスト「お前にこの仕事は向いてない。何かある前に……取り返しのつかないことになる前に……辞めるんだ」
  ×    ×    ×
  立ち止まる、アンナ。

アンナ「……」

  ポツポツと雨が降り始める。
  そして、ザーっと勢いが増す。
  そこに、携帯の着信音。
  ピッと通話ボタンを押す、アンナ。

アンナ「(明るく)あ、お母さん? なあに?」
母親「田舎のお爺ちゃんから、みかん届いたのよ。送るかい?」
アンナ「あ、ホント? 食べる食べる」
母親「……アンナ、何かあったの?」
アンナ「へ? なんで?」
母親「ねえ、アンナ。お母さんはね、正直、その仕事は危険だから辞めて欲しいって思ってる。でもね、あんたが、小さい頃から頑張ってきたのも見てきたわ」
アンナ「……」
母親「後悔しないように頑張りなさい。それで疲れたら、いつでも帰ってきていいんだからね」
アンナ「……うん。わかった」
母親「それじゃ、みかん送るからね」

  ピッという携帯を切る音。

アンナ「……ありがとう。お母さん。ちょっとだけ、勇気でたよ」

  雨の音が響く。

〇 シーン 12
  ミーティング室。朝。

ディルク「というわけで、先ほど、バロンの子供が来た。処分は、明日の朝、行う」
エリー「あの……医院長、処分は誰が担当するんですか?」
ディルク「クリストだ。ぜひ、自分にやらせて欲しいと要望があった」
エリー「え? でも、まだ入院中では?」
ディルク「明日、一時的に退院するようだな。それより、エリーくん。アンナくんは、どうした?」
エリー「熱があったので、休ませました。昨日、雨に濡れて……」
ディルク「ふむ。まあ、ちょうど良いかもしれんな。後で、胸を揉みに……いや、お見舞いに行くか」
エリー「一文字も合ってませんよ」

  そこに、バタバタと遠くから足音がして、ドアの前で立ち止まり、ドアが開く。

アンナ「すいません、遅れました!」
エリー「アンナ! どうしたの? 今日は、休めって言ったでしょ」
アンナ「何、言ってんのよ。風邪なんか、もう治ったって。ほら、元気だけが私の取り柄だしさ」
ディルク「そうか? まだ、熱があるみたいだが?」
アンナ「ぎゃー」

  エリーがディルクを殴る。

ディルク「ぐおっ!」
エリー「お尻を触って、熱を見るのは止めてください」
ディルク「エリーくん、なにも、グーで殴ることはないだろう。グーで」
エリー「申し訳ありません。手元に、鉄パイプがなかったもので」
アンナ「ねえ、エリー。十号室の鍵ってどこにあったっけ?」
エリー「え? 十号室? どうして、そんなところの鍵が必要なの?」
アンナ「バロンの子供は、そこにいるんでしょ? 他の部屋は、いっぱいだしさ」
エリー「見に行くつもりなら、止めておいた方が良いと思う」
ディルク「そうだな。変に情が移ると辛いだけだぞ」
アンナ「いえ、処分されるからこそ、ちゃんとこの目で見ておきたいんです。自分の仕事がどういうものか、ちゃんと見ておきたいんです」
ディルク「……むう。わかった」
エリー「私も一緒に行くわ」
アンナ「うん」

〇 シーン 13
  十号室。
  ドアが開き、アンナとエリーが入ってくる。

エリー「ここよ」
アンナ「この部屋、檻しかないんだね」
エリー「ここは、処分される動物しか入らないところだからね」

  遠くから、ガシャガシャと檻の中で暴れるような音がする。

バロンの子供「お母さん! どこ? 怖いよ」

  アンナとエリーが歩みよる。

アンナ「この子が……」
エリー「うん」
バロンの子供「え? なに? だ、だれ?」
アンナ「……」
バロンの子供「ねえ、お母さんどこ? お母さんに会いたい!」
アンナ「(涙声で)……ごめんね。ごめんね。私、君のお母さん、助けられなかった」
バロンの子供「お母さん! お母さん!」
エリー「……アンナ」
アンナ「(涙をぬぐって)エリー、私ね、この子たちの声が聞こえるの」
エリー「え? 幻獣たちの声がってこと?」
アンナ「今まで黙っててごめんね。信じられないと思うし、不気味がられるかと思って」
エリー「……別に、不気味って思わないけど」
アンナ「昔はね、それで虐められてた。妄想癖があるとか、変人だとかって言われてね」
エリー「アンナ……」
アンナ「友達がいなかった私は、いつも森の中で、一人で遊んでた。そんな時、子供のユニコーンに出会ったの」
エリー「ユニコーンって、あのユニコーン? 滅多に人の前に出てこないっていう?」
アンナ「そう。あの子のお母さんは、密猟者に捕まったんだって。私も、お父さんを亡くした頃だったからね。あの子の気持ちは、何となく分かったわ」
エリー「……」
アンナ「あの子と仲良くなってから、あの子と一つの約束をしたの」
エリー「約束?」
アンナ「人に、幻獣の声が聞こえることを言わないこと」
エリー「どうして?」
アンナ「悪用されるから。あの子のお母さんも、幻獣の声が聞こえる人間に追い詰められて……それで、捕まったんだって」
エリー「……そんな」
アンナ「周りの人に気味が悪がられたし、あの子との約束だったし、もう人の前で幻獣の声が聞こえることを言うのは辞めたんだ。でも……そんな時だった」
  ×   ×   ×
  アンナの回想。
  森の中。ターンという銃の音。

アンナ幼少期「ああっ! ゆーちゃん!」
ユニコーン「うう……」
密猟者「ちっ! 足を狙ったつもりが、首に当たっちまったぜ」
ユニコーン「痛い……痛いよぅ」
アンナ幼少期「ねえ、大丈夫? ゆーちゃん」
密猟者「(歩み寄って)ユニコーンと人間が一緒にいるなんて、珍しいな」
アンナ幼少期「ゆーちゃん、ゆーちゃん!」
密猟者「お嬢ちゃん。もしかして、幻獣の声が聞こえるのかい?」
アンナ幼少期「え?」
密猟者「もしそうなら、おじさんにちょっと、協力して欲しいんだけどな」
アンナ幼少期「え?」
密猟者「放っておいたら、こいつは死んじまう。けど、今、医者を呼べば、こいつは助かるかもしれねえ」
アンナ幼少期「じゃあ、すぐ呼んでよ!」
密猟者「じゃあ、本当のことを言ってくれ。もし、聞こえるなら一緒に来て欲しいんだ」
アンナ幼少期「(泣きながら)聞こえないもん。ホントだよ!」
密猟者「まいったなぁ。それじゃ、こいつを殺さないといけない。ユニコーンは、死体でも金になるんだ」
アンナ幼少期「……うう」

  その時、銃声が響きわたる。

警察1「警察だ! 密猟の罪で逮捕する」
密猟者「げ、しまった!」
警察1「よし、そのまま動くな」
密猟者「く、くそ……」
  
  警察2が、アンナたちの方に走り寄る。

警察2「君、大丈夫かい?」
アンナ幼少期「お医者さん呼んで! ゆーちゃんが」
警察2「分かった。(無線で)ユニコーンが、銃で撃たれてる。至急、獣医を呼んでくれ」
アンナ幼少期「ゆーちゃん、ゆーちゃん」
ユニコーン「アンナ……。今までありがとう」
アンナ幼少期「ヤダ! 死なないで!」
ユニコーン「本当に……楽し……かった」
アンナ幼少期「ゆーちゃん! ゆーちゃーん」
  ×   ×   ×
アンナ「……その時、私に知識があれば、ゆーちゃんを救えたかもしれない。私の初めての友達を……ね」
エリー「……でも、それは」
アンナ「うん。多分、今の私でも、きっとゆーちゃんは助けられないと思う。でもね、あの時、誓ったんだ。目の前で傷ついてる幻獣がいたら、絶対に助けてみせるって」
エリー「……」
アンナ「だからさ、クリストがやったことは許せなかった。魔獣に堕ちたからって、殺すなんて」
エリー「……アンナ」
アンナ「だけどさ、それが仕事だって言われたら、どうしようもないよね。(涙をこらえて)助けるだけが、この仕事じゃなかったんだね。私、この仕事に幻想を抱きすぎたのかなぁ」
エリー「……辞めるの?」
アンナ「ま、まさか。……私には、まだやらなくっちゃならないことがあるもん。それまでは、辞めないよ」
エリー「……そっか」
バロンの子供「お母さん、お母さん……」
アンナ「……そうだよ」

5へ続く