【シナリオブログ】スタンプゲーム①

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  電車の中。電車の振動音が響く。

貴志(N)「夏休みも終わり、世の中の学生は、
みんな学校という戦場に戻る事になる。僕もその例外ではない。だけど、今日だけは違う。今日のぼくの戦場は……」

アナウンス「次は木の下、木の下です」

  電車が止まり、プシューっとドアが開く。

貴志(N)「駅だ!」

  タイトル『スタンプ・ゲーム』

  駅内。人々が足早に歩いている。
  様々なアナウンス。
  松戸貴志(11)が迷いながら歩いている。

貴志「えーと……。あった」

  貴志、スタンプ台のところまで走る。

貴志「えっと、『スタンプラリー参加シート』……。あ、これだ」

スタンプシートを取り、スタンプを持つ。

貴志「ここに押せばいいのかなぁ」
将太「おい! トロトロすんなよ」
貴志「え? あ、ごめん」
将太「待ってらんねえ。貸せ!(スタンプを奪う)」

  竹馬将太(11)がスタンプシートに、バンっとスタンプを押す。

貴志「あ……」
将太「何だよ? 文句あるのか?」
貴志「い、いや。別に……」
将太「お前、もう帰った方がいいぞ」
貴志「え?」
将太「どうせ、お前も『ガオレイン』のキー
ホルダーが狙いなんだろ? お前みたいな
トロくせえやつじゃ、無理だ。あきらめて
学校にでも行けよ。じゃあな」
貴志「……」

  将太が去っていく。
  後から、梅比良良子(11)が歩み寄ってくる。

良子「感じ悪―い」
貴志「うわっ!」
良子「あ、ごめん。おどろかせちゃった? で
も、あんたも少しは、言い返したら?」
貴志「へへへ(苦笑い)」
良子「ま、気にしない方がいいよ」

  良子がバンとスタンプを押す。

貴志「あっ。ぼくの方が先なのに……」
良子「え、なに?」
貴志「う、ううん。なんでもない」
良子「そう。じゃあ、お互いがんばろうね」

  良子が走り去っていく。
  貴志、ため息をついて、ポンと自分の分のスタンプを押す。

貴志(N)「ぼく以外にも、参加している人が
いるとは思ってもいなかった。平日だから
って、甘くみていたのかもしれない。さっ
きの男の子の言うように、ぼくには無理か
もしれない。でも、これだけはあきらめる
わけにはいかないんだ。今日が最終日。絶
対にキーホルダーを手に入れるんだ」

  駅内。
  貴志が息を切らせながら走っている。
  遠くで、言い争う声。

将太「お前、横入りすんなよ!」
良子「何言ってんの。私の方が先だったわよ」
貴志「あ、さっきの……」
将太「ふざけんなよっ」

  貴志、ごくりと唾を飲み込み、忍び足で二人に近づく。

良子「こういう時は、レディファーストでし
ょ。気が利かないわね」
将太「なんで、お前に気を利かせねえとなんねえんだよ!」

  二人が言い争う中、貴志がポンとスタンプを押す。

将太「あ、お前。何、勝手に押してんだよ」
貴志「ひっ」

  貴志、慌てて逃げる。
  後で二回スタンプが押される音。
  そして、将太と良子が追ってくる。

将太「待て、こら」
良子「そうよ、待ちなさいよ」
貴志「ごめんなさーい」

  駅を抜け、人ごみの中を逃げる貴志。それを追う将太と良子。
  横断歩道を疾走する三人。
  貴志が裏道に入る。騒音が無くなり、三人の走る足音だけが響く。

将太「(息が切れ切れ)お、おい。て、てめえ。
逃げ、きれる、と……思って」
貴志「着いてこないでよー」

  表通りに出る。再び騒音が聞こえてくる。
  そのまま、駅に入る。
  聞こえてくる、駅内のアナウンス。
  スタンプ台まで走る貴志。

貴志「ねえ、今度は先に押させてあげるから、ゆるしてよ」
将太「(息を切らせて)今度は……だと?」
良子「(息を切らせて)何、言って……。あれ? もう次の駅?」
将太「あん? ……そういえば」
貴志「ね、ほら。先に押していいから」
将太「おい。お前、どんな魔法使った?」
貴志「いや、ただの近道だよ……」
良子「電車よりも、全然早いじゃない」
将太「お前。他にもこんな道知ってんのか?」
貴志「……う、うん。地図とか見て、色々調
べたから」
良子「へー、君、すごいね」
貴志「(照れて)……そ、そんなこと、ないよ」
将太「でも、ずるいぞ」
貴志「……え?」

  電車内。ほとんど人は乗っていない。
  将太の声が響いている。

貴志(N)「一緒について来る事になったふたりは竹馬将太くんと梅比良良子ちゃん。ふたりとも、ぼくと同じ五年生らしい。……将太くんは、何か怖くて、ぼくは苦手だ。でも、ほめられたのは、ちょっとうれしい」

将太「で、こうなるんだけど……。おい、貴志、聞いてんのか?」
貴志「え? あ、ごめんなさい。……なに?」
将太「だから、回るルートだよ。このまま順番に回ってたんじゃ、時間がかかるからな。貴志が知ってる近道を使うには、桜塚駅と横橋駅を後回しにして、一気に森下台駅に行った方がいいと思うんだけど、お前はどう思う?」
貴志「あ、うん。それでいいと思う」
良子「へえー。すごい。色々と考えてるんだ」
将太「(得意気に)まあな」
良子「見た目はバカそうなのに、意外ね」
将太「うるせえよ。……ん? 貴志どうかしたのか? さっきからだまってっけど」
貴志「え? いや、……なんでもないよ」
将太「まあ、おれたちはライバルだからな。仲よくしたくないってのも分かるけどな」
貴志「べ、べつにそんなんじゃ……」
良子「将太、やめなよ。これから一緒に回る
んだから、仲よくしなよ」
将太「良子。お前、かんたんにもらえると思ってるかもしれないけど、あまいぞ。平日は、用意しているキーホルダーの数がずっと少なくなるんだ。さらに今日は最終日だからな。おれたちみたいに、学校休んで参加してるやつも多い」
良子「ま、まじ?」
将太「はっきり言って、土日よりももらうのはむずかしい」
良子「そんなぁ。今日、学校サボったの意味ないじゃん」
将太「だから、おれたちはライバルだって言ったんだ」
良子「じゃあ、将太がもらえたら、私にちょうだいよ」
将太「は? 何でだよ」
良子「わたしは、どうしてもキーホルダーが欲しいのよ」
将太「おれだって、欲しいんだ。ゆずれねえ」
良子「ふん。ケチ。……貴志くんは、ゆずってくれるよね?」
貴志「……ごめん。ぼくも、どうしても欲しいんだ」
貴志・将太・良子「……」

  電車が止まる。

アナウンス「森下台。森下台」

貴志(N)「やっぱり、キーホルダーをもらうのは難しいみたいだ。でも、絶対にもらうからね、栄一くん」

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