○ 病院・瀬羅の病室
瀬羅がベッドの上で上半身だけを起こし、立っている瑞樹の話を聞いている。
瀬羅「いい話じゃねーか。迷う事ないだろ」
瑞樹「え?」
瀬羅「今、お前の中で、どうしようか、悩んでるんだろ? だったら、消防士は辞めた方がいいな。迷いがある奴が現場にいると、迷惑だ」
瑞樹「そう……ですよね」
瀬羅「ま、お前がいない方が、課長も頭抱えなくて済む分、楽になるだろ。それに、俺もすぐ現場復帰するからな」
瑞樹が瀬羅に頭を下げ、病室から出ようとする。
瀬羅「雨宮」
立ち止まって、振り返る瑞樹。
瀬羅「他人の意見じゃなく、お前がどうしたいかで、決めろ」
瑞樹「……」
○ 瑞樹の家・瑞樹の部屋
机に座り、美雪の写真をジッと見ている瑞樹。
写真の横にある『white snow』の化粧品が目に入る。
瑞樹「……」
パタンと写真を伏せる。
○ 街・通り
瑞樹と仙石が腕を組んで歩いている。
仙石「式は来年の六月とかどうかな?」
瑞樹「もう、気が早いって」
鹿瀬陸(8)が駆け寄ってくる。
鹿瀬「お姉ちゃん!」
瑞樹「え?」
鹿瀬の母親がやってくる。
母親「もう、りっくん、走っちゃダメでしょ。……って、あら、消防士さん。あの時は、本当にありがとうございました」
母親が頭を下げる。
鹿瀬「助けてくれて、ありがとう!」
瑞樹「……」
母親「陸を助けてくれた時に、顔に火傷したって聞きましたけど……大丈夫でした?」
瑞樹「ええ……まあ」
母親「あなたのおかけで、陸も無事、退院できました。本当に、なんとお礼を言ったら」
鹿瀬「俺を助けてくれたときのお姉ちゃん、すっごく、カッコよかった!」
鹿瀬と母親が頭を下げて、行ってしまう。
瑞樹「……」
仙石「瑞樹さん?」
瑞樹「そっか……。私の火傷は……人を助けた証だったんだ……」
その時、サイレンを鳴らしながら、消防車が通っていく。
周りの人たちが、ざわめき始める。
青年1「近くで火事だってよ」
青年2「見に行こうぜ」
瑞樹「……」
消防車が行った方向を見る瑞樹。
そこに、芝崎がやってくる。
芝崎「なんで、こんなところにいるんだよ!」
瑞樹「あなたは……」
芝崎「俺は火を消してる君の、生き生きした顔が見たいんだ! せっかく、用意してやってんのにさ!」
瑞樹「やっぱり、あなたが……」
芝崎「君、火を消すのが好きなんだろ? だから、俺が火事を作ってやるんだ。言ってみれば、俺と君はパートナーみたいな……」
瑞樹が芝崎をぶん殴る。
瑞樹「勘違いしないで。私は火を消すのが好きなんじゃない。人を助けたいだけなの」
仙石「……瑞樹さん」
瑞樹「(微笑んで)ごめんね、隆則さん。私、自分の本当の気持ちに、ようやく気付けた」
瑞樹が消防車の方へ走っていく。
瑞樹「(振り向いて)あ、そいつ、警察に突き出しておいて!」
言い終えた後、真っ直ぐ前を見る瑞樹。
○ 同・ビル
ビルから炎と煙が吹き出している。
石尾や瀬羅たちが消火活動をしている。
隊員の一人が、担架で運ばれていく。
石尾「軽い脳震盪だ。そこに寝かせておけばいい。それより、消火、急げ!」
そこに、瑞樹がやってくる。
瑞樹「状況を教えてください。手伝います」
石尾「雨宮……。馬鹿言え、防火服も着てないのに……」
瑞樹が脳震盪を起こした隊員から防火服を脱がして、着る。
瑞樹「これでも問題ありません」
石尾「いや、そういう問題じゃ……」
瀬羅が瑞樹の目を見る。
瀬羅「(笑みを浮かべて)迷いはないみたいだな。(石尾に)手伝ってもらいましょう」
石尾「いや、そういうわけには……」
瀬羅「いいか、雨宮。人を助けるだけじゃなく、自分も生きて帰る。それが消防士だ」
瑞樹「(笑みを浮かべて)はい!」
女性「人よ! まだ、三階に人が取り残されてる!」
瀬羅「雨宮、行くぞ!」
瑞樹「はい!」
瀬羅と瑞樹が建物に入っていく。
石尾「お、おい! ……ったく。他の奴は、消火活動しつつ、雨宮たちをバックアップだ!」
現場では慌ただしく、消火活動が行われていく。
終わり。