【シナリオブログ】人生オークション⑤

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○  公園
がっくり項垂れる裕介の肩をポンと叩く木原。

○  公園
肩を落として俯いている裕介。
隣にいる木原が裕介の肩を叩き、おにぎりを渡す。
にっこりと笑って、食べる裕介。

○  そば屋・事務所
店主と裕介が向かい合っている。
裕介の履歴書を見て、渋い顔をしている店主。チラリと裕介を見ると、裕介は固い表情をしている。

○  公園
裕介と木原が並んで座っている。
裕介「中退ってだけで落とされるんだもんな」
木原「あら、そうかしら?」
裕介「絶対そうだよ。だって、みんな俺の履歴書見て、渋い顔するもん」
木原「確かに、それもあるかもしれないけど……。裕介君、笑ってる?」
裕介「え?」
木原「いい? 人はね、学歴が高い人よりも、一緒に働きたいって思う人の方が良いはずよ」
裕介「……一緒に働きたい?」
木原「そうよ。いつも沈んだ顔をしている人といつも笑顔の人、裕介君はどっちと一緒にいたい?」
裕介「そりゃ……笑顔の人、かな?」
木原「でしょ? 裕介君はいつも張りつめた表情をしてるわ。だから、きっとそれが面接のときに出てるんじゃないかしら?」
裕介「……」
木原「にっこりしてみて」
裕介「……でも、急には笑えないよ」
木原「無理してでも笑ってみるの。笑ってるとね、自然と笑顔になる出来事が、あっちから寄ってくるものよ」
裕介「……」
ぎこちないが、笑って見せる裕介。
木原「うん。とっても、素敵」
裕介が照れて、笑う。

○  家電量販店・事務室
面接を受けている裕介。
店長が裕介の履歴書を見て、眉をひそめるが、チラリと裕介を見る。
裕介は少しぎこちないが笑みを浮かべる。
店長が笑みを浮かべて頷く。

○  公園
裕介が笑顔で走ってくる。
ベンチに座っている木原の手を握る。
にっこりと微笑む木原。

○  ファミリーレストラン
木原と裕介が向かい合わせで座り、テーブルには料理が並んでいる。
裕介「こういうの久しぶりな気がする」
木原「あら、そう? そういえば、よく一緒にいた二人はどうしたの? 最近、見ないけど……」
裕介「……」
木原「喧嘩でもした?」
裕介「あ、いや、そういうわけじゃなくて」
木原「気まずいのは分かるけど、思い切って謝った方がいいわよ。ああいうのって、意外と相手も仲直りしたいって思ってるものだから」
裕介「……」
木原「会いたくても、会えなくなる前に、ね」
裕介「……木原さんは何か、後悔していることがあるの?」
木原「え?」
裕介「ほら、いつも公園のベンチで一人だし。家族とか、見ないなって思って」
木原「……」
裕介「あ、ごめんなさい。立ち入ったこと聞いちゃって……」
木原「ちょうど一年前になるかしらね。娘夫婦が、家族旅行を計画してくれたの。だけどね、当日、私が風邪をこじらせちゃって」
裕介「……」
木原「旅館とか予約してたし、孫も楽しみにしてたから、みんなで行って来てってお願いしたわ。……そして、向かってる途中で事故にあって……」
裕介「嫌な思い出を思い出させちゃって、すいません」
木原「ううん。いいの。話す人がいるって、だけで良かったから」
裕介「話す人……」
木原「そう。例えつらい思い出だったとしても、誰かと一緒じゃないと話すこともできないでしょ?」
裕介「俺は……思い出と一緒に、そういう大事な人も売っちゃったのか……」
木原「え?」
裕介「あ、いや。なんでもないよ」
木原「じゃあ、食べよっか。今日は裕介君の就職祝いなんだから、たくさん食べてね」
裕介「(笑って)大げさだなぁ。バイト決まっただけだよ」
木原「それでも一歩前進。おめでたいことには変わりないでしょ?」
裕介「うん。ありがと」
料理を食べ始める裕介。それを見て、微笑む木原。

○  街中・公園横の通り(夕方)
裕介と木原がファミリーレストランから出てくる。
裕介「すっかり遅くなっちゃったね。家まで送ろうか?」
木原「ううん。大丈夫……きゃっ!」
木原の足がもつれて転ぶ。
裕介「木原さん!」
木原「平気。ちょっと足元が暗かったから、足がもつれちゃって……」
裕介「やっぱり、家まで送るよ。ご馳走にもなったし」
木原「そうかい? ありがとうね」
裕介が木原の手を握り、ゆっくりと歩く。

○  家電量販店
笑顔で接客をしている裕介。
商品を持って、レジへと向かう。

○  公園
ベンチに並んで座る裕介と木原。
木原「仕事も大分慣れたようだね」
裕介「うん。なんかさ、最近、仕事が楽しいんだ。なんていうかな。人と接することが嬉しいって言うか……」
木原「へえ。それは良かったねぇ」
裕介「これも木原さんのおかげだよ。あのとき、木原さんが声をかけてくれなかったら、きっと俺……のたれ死んでたかも」
木原「大げさよ。私は大したことしてないわ」
裕介「そんなことないよ。あ、そうだ。もうすぐ、初給料が出るからさ、それでなんか奢らせてよ」
木原「止めておきなよ。せっかくの給料なんだから、大切に使いなさい」
裕介「うん。大事な人に使うんだから、大切に使ってることにならないかな?」
木原「……大事な人?」
裕介「(照れて)木原さんは、なんかもう、家族って感じがするんだ。……迷惑かな?」
木原「ううん。すごく嬉しいよ」
裕介「じゃあ、木原さん、何欲しい?」
木原「うーん。急に言われても分からないわ」
裕介「なら、今から選びに行こう!」
木原「(笑って)随分と気が早いね」
裕介が立ち上がり、木原も立ち上がる。
歩き出そうとするが、木原の足がもつれて転ぶ。
裕介「木原さん!」
木原「大丈夫だよ。いやだねぇ。本当、年は取りたくないよ」
裕介が手を差し伸べ、その手を握って立ち上がる木原。

○  家電量販店・店内
フロアを一生懸命掃除している裕介。

○  同・倉庫
商品の個数をチェックする裕介。

○  同・事務所
皆が返っていく中、机でマニュアルを読んでいる裕介。
その様子と陰から見ている店長。
にっこりと微笑む。

○  公園
木陰にシートを引き、その上に座る裕介と木原。
木原がバスケットから、お弁当を出す。
裕介「本当にこんなんで良いの?」
木原「なんでもいいって言ったでしょ? だから、時間を貰うことにしたんだよ」
裕介「だからって、ピクニック? それに、いつもの公園だし……」
木原「昔、孫や娘夫婦とこうして、ここでお昼ご飯を食べたんだよ。……また、こうすることができるなんてねえ。嬉しいよ」
裕介「(微笑んで)じゃあ、遠慮なく、いただきまーす!」
裕介が弁当を掴んで食べ始める。
木原「あ、飲み物持ってくるの、忘れたよ。ちょっと買ってくるね」
木原が立ち上がろうとして、転ぶ。
裕介「大丈夫?」
木原「ああ、大丈夫、大丈夫」
木原が立ち上がって、歩いていく。

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