【Web小説】僕は結婚したくない⑮

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午後の授業はサボった。
心の整理をつける時間を要求しても誰も文句は言うまい。
月見里さんも、僕が帰る時にはさすがに何も言ってこなかった。
うーん。まさか、伝家の宝刀「友達のままでいましょう」を抜かれるとは思わなかった。
いっそフッて欲しかった。一刀両断して欲しかった。
ということで僕はひとり寂しく下校しているのだった。
まあ、いつも一人なんだけどな。
「いっそ青手木と結婚するか」
その独り言に自分で笑ってしまう。
「……」
一瞬、それも有りかと思った自分に対して腹立たしさを覚える。
好きな人にフラれたから自分を好きと言ってくれた人と付き合う。
うーん。最低な気がする。
っていうか、別に青手木に好きって言われたわけじゃないんだった。
ま、どうにでもなれだ。青手木から慰謝料を請求されたら素直に払おう。一生かけてでも。
なんか自暴自棄になってるのか? 僕。
まあ、分からんでもない。
……いや、自分の気持ちが分からんでもないって。分かるだろ。普通。
「ただいま」
ドアを開けて玄関に入る。
「……」
無反応。
あれ?
いくら待っても青手木がやってこないので素直に靴を脱ぎ、廊下を歩く。
ずーっと突っ立てるのもアホみたいだし。
リビングに入る。
しかし、そこには荒らされた痕跡だけあって肝心の青手木の姿がなかった。
僕の部屋にいるかと思って覗いてみたがやっぱりいない。
うーん。
改めて、リビングの状況を見てみる。
違和感があるのはその荒らされ具合だ。
中途半端過ぎる。
僕が朝、家を出てから今、早退して帰ってくるまで約五時間。
青手木ならこれの倍くらいは荒らしているはずだ。
買い物にでも行ったか?
そう考えて、それはないと頭を振る。
あいつは無類の不器用で、かつ、バカが付くほど真面目だ。
一度一つのことを始めたら猪突猛進。その作業が終わるまで他のことはしない。というより、できない。
ミステリー。
青手木が消えた。
「……」
まあ、いいか。逆にいなくてラッキーだ、くらいに考えよう。
それでなくても、僕はまだ月見里さんにフラレたダメージが抜けてないんだ。
僕はとりあえずベッドの中に潜り込むことにした。
今日はバイトも休みだし。
疲れていたのか、僕は朝まで泥のように眠ったのだった。

次の日、僕は学校を休んだ。
まだ、月見里さんと話しをするどころか、まともに顔を見ることもできなさそうだから。
……完全に休みぐせがついちまったな。
皆勤賞が消えてからタガが外れた感じがする。
さて、学校を休んだはいいが何しよう。
さすがにもう眠くない。寝すぎで少々頭が痛いくらいだ。
バイトまで十時間くらいあるからなぁ。
……リビングをなんとかするか。
青手木が掃除した後片付けをする。
でも、そんなに時間は潰せなかった。
青手木が途中で掃除を放棄したからそれほど散らかっていないのだ。
ふむ。まいったな。
とりあえず、飯を食って勉強してバイオリンの練習などをして時間を潰した。
バイトの時間になったので家を出て、十二時すぎに帰宅する。
家の中は真っ暗だった。
リビングも僕が出ていった時と何も変わらない状態。
なんか調子狂うよなぁ。
椅子に座ってリビングを眺める。
リビングってこんなに広かったっけ?
なんて、どうでもいいことをぼんやりと思う。
……あれ? 考えてみたら一日、青手木の顔を見なかったなんて、久しぶりのことじゃないのか?
妙な話だ。
僕が結婚届けに名前を書く前は青手木の顔なんて一年で数回しか見なかったのに。
風邪でもひいたとか。うーん。それでも、あいつなら普通に来そうだけどなぁ。
あ、もしかしたらメイド長さんが止めたのかも。
それなら、なんとなくありえる気がした。
電話くらいしろよ。それこそ、あいつがよく言う「妻として当たり前のこと」だと思うぞ。
まあ、いい。しょうがないから明日見舞いでも行ってやるか。
そう考えて自分を納得させ、僕は眠りについた。
事態は急展開を迎えていたのに。
のんきに寝てしまっていたのだった。

「イノリくんは学校辞めないよね?」
朝、学校に行き、自分の机に座って教科書を入れていると開口一番、月見里さんに言われた。
「え? あ、うん。別にそんな予定はないけど……」
なんだろう。千金良イノリ自主退学説でも出てるのだろうか?
……一日休んだだけで?
「そっかぁ。じゃあ、青手木さんだけなんだね」
ホッとしたように胸をなでおろす月見里さん。
「……え?」
今サラっと変なこと言わなかった?
「ね、ねえ、月見里さん……」
その時ガラガラっと教室のドアが開く。
「はいはーい。みんな席に座ってねー」
担任が入ってくる。
月見里さんが「それじゃね」と言って席へと戻った。
「じゃあ、青手木さん入って、みんなに挨拶してくれるかなー」
「……」
青手木が無言で教室に入ってくる。
「えっと、昨日も言いましたが、この度、青手木さんは学校を辞めることになりました」
「……え?」
「さ、青手木さん、なにか一言お願い」
「……」
無表情で沈黙する青手木。
「え、えっと……青手木さん?」
「……」
無視。うーん。青手木がこの対応をするのを見るのは久しぶりだ。
……にしても学校を辞める? どういうことだ? 聞いてないぞ。
必死で「どういうことだ」と視線で青手木に問いかけるが黙殺される。
というより、こちらを全く見ようとしない。まるでここに僕が存在していないかのような……いや、以前の青手木と僕の関係に戻ったような、そんな感覚。
「きゅ、急に挨拶なんて言われても困るわよねー」
慌ててフォローを入れる担任。
「じゃあ、みんなから青手木さんに何かメッセージとかないかな? これで最後になるんだし、頑張ってねーとか」
担任がそういうと細谷(月見里さんの友達だ。念のための補足)が手を上げる。
「青手木さん、今回、学校を辞めるのは結婚するからって聞いたんですけどホントですかぁ?」
教室内がザワザワとざわめく。
そして……教室の人間がほぼ全員、僕の方を見る。
なぜ、みんな僕たちの関係を知ってるんだ!
まさかなと思い、チラリと月見里さんの方を見る。
ブンブンと首を横に振って両手で大きく×を作った。
そうだよな。月見里さんが言いふらすとは思えん。……というか、もしかして僕の隠蔽工作が失敗してた?
「……」
細谷の質問に対してなんの反応も示さない青手木。
「こらこらー。そんなプライベートな質問したらダメでしょ! そういうんじゃなくて応援の言葉とかないのー?」
青手木が困っているのかと勘違いしたのか、担任が細谷を注意する。
いや、それ、困ってるんじゃなくて聞いてないだけ。青手木は興味のないことは基本スルーだから。
突然、青手木が歩き出して教室のドアを開ける。
「あれ? 青手木さん? どこ行くのー?」
「帰る」
一言だけ言い残して廊下に出ていく青手木。
「ええー……」
担任は青手木の傍若無人の行動に唖然とする。
……答えてくれただけ大分マシだと思いますよ。
教室内が静まり返り、青手木の廊下を歩く音だけが響く。
おっと、こうしてはいられん。
僕はサッと手を上げる。
「先生。具合悪いので保健室行っていいですか?」
その言葉で我に返ったのか、担任がこちらを見る。
「え、ええ。いいですけどー」
僕はすぐに立ち上がって廊下へと出る。
すると、教室がワッと沸き上がった。
……なぜ?
聞き耳を立てると「え? 青手木さんの後追ったんだよね?」とか「なになに? 駆け落ち?」とか色々な言葉が聞こえてくる。
くそっ! 青手木を追うことバレバレじゃねえか! ちゃんと僕、保健室に行くって言いましたけど?
まあ、今はそんなことより青手木を追うのが先決だ。
いきなり学校を辞めるってどういうことだよ。もしかして、僕が学校に来るなっていうのを変に受け取ったわけじゃねえだろうな。
それだとかなりヤバイ。別に辞めるまでしなくていいって。
そんな的はずれなことを考えながら、僕は青手木を追うために走ったのだった。

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