【Web小説】僕は結婚したくない⑲

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土曜の夜。
僕は机に向かって悩んでいた。
視線の先には紙吹雪に使えそうなほど細切れになった紙と四角いはがき状の紙がある。
まあ、言ってしまうと、青手木が破った結婚届けの残骸と青手木の結婚式の招待状だ。
なぜ、そんなものを僕が持っているのか?
まず、結婚届け。
ぶっちゃけ拾いました。破られて、その場に捨てられたとき。青手木がいなくなってから女々しく拾い集めていたのだ。
で、結婚式の招待状に関しては上着のポケットに入ってた。
確かにあの時、受け取らずに帰ったのだが、恐らくメイドさんが隙を見てポケットに入れたんだろう。……寝てたときかな? まあ、気絶していたとも言うが。
で、本題。
なんで、僕がこの紙たちを前に悩んでいるのか。
――どっちに行くか。
いやー。我ながらバッカじゃねーのって思う。
すでに婚約者じゃなくなった青手木の結婚式と、彼女である(ここ大事)月見里さんの弓道の大会。
どう考えても弓道の大会だろ。悩むことじゃない。
よし! 決めた! 僕は弓道の大会に行く。青手木のことなんて知ったことか。僕にはようやく春が訪れたんだぞ! これからは月見里さんとの桃色の学園生活が待っているんだからな。わはははは!
……。
僕は大きくため息をついて机の引き出しを開け、セロテープを出したのだった。

時々、自分の頭がおかしいんじゃないかって思う。
ホント有り得ねえって。
日曜。午前十一時半。僕は今、教会の前にいます。
もちろん、弓道の大会の会場が教会というわけじゃない。
周りには礼服を着た人がいっぱいいる。
その中で、私服の僕は目立つことこの上ない。よくつまみ出されないものだ。
間もなく結婚式が始まるはずだ。神父さんらしい人が出てきたし。
それにしても天気良いなぁ。まさに弓道日和。今頃、屋内で弓道をしている月見里さんはさぞかしいい気分で矢を放っているだろう。
……すいません。現実逃避しました。
なんで、こっちに来たか。正直、僕自身もわからない。
いや、きっと気持ちの整理をつけたかったんだと思う。確かに青手木には色々迷惑をかけられたし、あいつに関わってから大変だった。
でも、あいつは僕や月見里さんと同じだ。ずっとひとりだった。……いや、ひとりでいた時間は僕や月見里さんより長かっただろう。
そんな青手木に僕はシンパシーを感じていたのかもしれない。
だから、見届けたかったんだと思う。
最後には幸せになれるんだろうか、と。
……結果は見えてるのに。ある意味、僕は絶望を見に来ているようなものだ。……とんだドMさんだな、僕は。
突然、音楽が鳴り響く。と、同時に拍手と歓声があがる。
青手木がウェディングドレス姿で赤い絨毯を歩いていく。
普通、脇には父親が付き添ったりしそうなものだが一人で歩いている。娘の結婚式だからと来るような父親ではないようだ。
それにしても、相変わらずの無表情だな。もう少し嬉しそうな顔をしたらどうなんだ? 門出だろ?
青手木が神父の前で立ち止まる。
曲が止まり、違う曲が流れ始める。
そして、今度は雄一がタキシード姿でやってくる。
けっ! 格好つけてんじゃねーよ。おっさんが!
雄一も一人で赤い絨毯の上を歩き、青手木の隣で立ち止まる。
なんでこんなに心臓が痛ぇんだよ。くそっ!
神父がなにやら言っている。どうせ「健やかなときも病めるときも」とか定型文を言ってるんだろうけどな。
全然、聞こえねえ。てか、なんだ? すげームカつく。
雄一の顔を見たからか? ほんの二三日前に殴られたんだよな。
いや、あの時よりムカツキ度が高けぇ。
なんで、お前が青手木の隣にいるんだよ!
お前、青手木のこと好きじゃねえんだろ!
隣に立つなよ! そこに立っていいのは青手木が好きで、青手木を幸せにできる奴だけだ!
「それでは、誓いのキスを」
神父がそう言った。その言葉だけはハッキリと聞こえた。
突然、僕の頭にあの日の青手木の顔が浮かぶ。
僕の隣で「ひとりは嫌です」と言った青手木の顔。
ひとりは嫌だから結婚して家族が欲しいと言っていた青手木。
でも、あいつと……雄一と結婚したところで青手木はひとりのままだ。幸せなんて絶対になれない。
おいおい。だからどーしたって話だよ。大体、青手木がそれで良いって言ったんだぞ。それに僕にはどうすることもできない。
雄一が青手木のベールを上げる。
くそ、くそ、くそ!
なんだよ! 見たくないなら立ち去ればいいだけだろ! なんなんだよ、僕は!
青手木が目をつぶった。
雄一も目をつぶり、青手木の唇に顔を近づけていく。
そして、二人の唇が重なる……直前だった。
「ちょっと待てよっ!」
誰かが叫んだことで雄一はその動きを止めた。
よし! 偉いぞ! ナイスだ!
それにしても一体誰だ? この最高の仕事をしたのは?
……僕だった。
気づいたら僕は赤い絨毯の上へと踊り出ていた。
一斉にみんなの視線が集まる。
僕は目をつぶり、深呼吸する。
落ち着いた。これが僕のリラックス法だ。
僕は青手木の前へと歩く。
「小僧、また殴られたいのか?」
雄一が恨めしそうに睨んでくる。
ふん。ムカつくか? まあ、式を邪魔されたんだから当然か。
ざまあみろ。
「青手木。お前、本当にこれでいいのか?」
青手木が目を開いて僕を見る。なんの感情もこもっていない無表情で。
「前も言った。私は満足」
「青手木……」
「おい! 早くこいつをつまみ出せ!」
雄一の声でハッと我に返ったのか、脇に控えていた体格の良い男たちがやってきて僕の腕を掴む。
「離せ!」
僕は必死にその手を振りほどく。
「青手木! 僕が結婚してやる! だからこの結婚はやめろ!」
「……」
「ふん。ガキが馬鹿なことを」
「こいつはお前の金と体が目的なんだ!」
大声で言ってやった。
「き、貴様!」
おお。怒ってる、怒ってる。けど、ホントのことだろ? オプションで体が目的というのもつけてやったぞ。感謝しろ。
「……あなたも一緒でしょ」
青手木がつぶやく。
……ああ。確かにそう言ったことあるね。てか、よく覚えんな。
お前のそういうところ面倒くせえよ。
「気が済んだか、ガキ? 後でどうなるか、わかってるだろうな? おい、早く連れていけ!」
「はっ!」
今度は四五人がやってきて僕の体をつかむ。
振りほどこうとしてもビクともしない。
ズルズルと引きずられていく。
待て。まだ僕は……。
青手木は雄一の方を向いて目を閉じる。
「早く続きを」
「あ、ああ」
再びキスをしようとする二人。
「僕は絶対にお前を一人にしない!」
青手木が目を開き、僕の方を見る。
「僕は言ったよな! 結婚は好きな人同士でするものだって。で、お前は答えた。好きになるっていうのがどういうことかわからないって」
無言でうなずく青手木。
「僕が教えてやる!」
「え?」
「僕がお前を惚れさせてやる! だから結婚するなっ!」
「……」
静まり返る式場。
ここだ。このタイミングだ。僕はポケットに手を入れる。
「青手木。お前、雄一との結婚届けは出したのか?」
ゆっくりと首を振る青手木。
「じゃあ、お前は結婚できない」
「な、何を言ってるんだ? お前」
雄一が顔をしかめる。
僕はポケットから一枚の紙を出す。
昨日徹夜してつなぎ合わせたもの。
――結婚届け。
「青手木! お前の負けだ。僕と結婚しろ」
「ふふ……。ホント馬鹿なガキだ。そんなもの、この場で奪い取ればいいだろ」
……あ、しまった。
「おい、早く連れていけ。ついでにその紙も奪い取っておけ」
「はい」
ズルズルと僕は引きずられていく。
万事休す。作戦は失敗に終わりました。
「待って!」
大きな声だった。はっきりと意志がこもった声。
だから、僕は最初その声が青手木のものだと気づかなかった。
あいつがあんな声を出すなんて思わなかったのだ。
「その人から手を離して」
今度は普通の大きさの声だったが迫力があった。
男たちも思わず僕から手を離す。
青手木が僕の前に歩いてくる。
そして、僕の目の前で立ち止まってジッと僕を見る。
「……青手木?」
「イノリさん」
「は、はい……」
青手木は三つ指ついて頭を下げる。
「不束者ですが宜しくお願いします」

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