【Web小説】僕は結婚したくない⑳

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 月曜日。朝。
 僕は体育館に呼び出された。青手木に。
 もちろん、あの後結婚式は取り止めになった。
 青手木のお母さんが笑いながら僕のところにやってきて「娘をよろしくねー」と言ったのが印象的だった。
 雄一には「本人が望んでないなら結婚は白紙ね」とスッパリと言っていた。
 うーん。あの人、なんか憎めないんだよな。
 で、最後に一言。
「千金良くん。シオと結婚しても良いから私の愛人にならない?」
 まあ、丁重にお断りさせていただいた。なんのエロゲーだよ。
 あと、そうそう、青手木は学校を辞めるのも取り消した。正式に学校を退学する日は今日だったので問題なかったそうだ。
 まあ、あいつは学校を辞めなくても、ほとんど来ないんだろうけど。
「イノリさん」
 青手木が体育館のドアを開けて入ってくる。
 もちろん、今はホームルーム中の時間なので体育館には誰もいない。
「いきなり呼び出して申し訳ありません」
 深々と頭を下げる青手木。
「別にいいさ」
「……婚姻届は持ってきていただけたでしょうか?」
「ああ、これだろ?」
 僕は言われた通り、セロテープだらけの僕と青手木の名前が書かれた結婚届けを出した。
「失礼します」
 受け取った青手木はいきなり破きだした。
「お、おい! なにすんだよ!」
「イノリさん」
 青手木が不意に僕の胸に飛び込んでくる。
「あ、青手木?」
 青手木が顔を上げる。
 顔が近い。お互いの息がかかるほどに。
「イノリさんは言ってくれました。私に好きという気持ちを教えてくれると」
「あ、ああ……」
「それはもう必要ありません」
「え?」
「だって、もうわかりましたから。好きになる気持ちというものが」
「……」
「イノリさん、大好きです」
「……青手木」
「でも、もう一つイノリさんは言いました。結婚は好きな人同士でするものだと」
「う、うん」
「イノリさんが私のことを好きじゃないってことはわかってます。私の結婚を止めたのは愛情じゃなく、私への同情だったんですよね?」
「い、いや……それは……」
「だから今度は、私がイノリさんを惚れさせて見せます」
「……」
「そしたら……。その時は私と結婚してくれますか?」
 あの、青手木が頬を染めていた。恥ずかしそうな表情で僕を見上げている。
「あ、う、うん……」
 僕は思わず、そう答えてしまった。
 突然、青手木が頬にキスしてきた!
「……っ!」
「それでは結婚前提のお付き合いからお願いしますね」
 そう言って――笑った。
 微笑み。
 初めて見る青手木の笑顔。
 それは……そう、月見里さんに匹敵するくらいの可愛いさだった。
 でもさ、青手木。付き合うのもお互い好き同士じゃないとダメなんだぜ。
 ……でも、ま、いいか。
 その時だった。
 バン! と勢い良く体育館のドアが開く。
「イノリくん、いい度胸だね。付き合って四日で浮気ですか」
 こめかみに血管を浮き出した月見里さんがそこに立っていた。
 その手にはモップを持っている。モップは掃除道具なはずなのに凶器にしか見えない不可思議。これは学校の七不思議に加えないといけないな。
「い、いや、その、月見里さん、これは……」
「言い訳無用! 天誅―――――!」
「ぎゃーーーーー」
 月見里さんがモップを振り上げて襲ってきたのだった。

 結婚。
 それは、誰でも一度は夢見るもの。
 もちろん、僕もそうだ。
 結婚してみたい。そう思うことはある。
 ある。確かにある。
 けど、それはまだまだ先の話で今ではない。
 そう。
 まだ――僕は結婚したくない。

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