【Web小説】僕は結婚したくない⑤

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リビング。
僕はちゃぶ台の前に乱暴に座る。そして、わざと不機嫌な顔をする。あくまで本当は食べたくないのに無理やり食べされられるという雰囲気を出すためだ。
チラリとちゃぶ台の上を見ると、そこには料理が並んでいた。
出来立てなのか、湯気が立っている。
さすが女の子が作っただけのことはある。色鮮やかで、美味しそうだった。
オーソドックスな卵焼きに始まり、肉じゃがに一口大に切ってあるステーキ。野菜とお肉の炒め物。それに付け合せのレタスも新鮮で美味しそうだった。
うわ、すげえ。久々のご馳走だ。
……おっと、危ない危ない。不機嫌な顔、不機嫌な顔。
「気に入っていただけて嬉しいです」
青手木がお盆を持って歩いて来る。嬉しいなら笑顔くらい浮かべたらどうだ。顔の表情が一ミリたりとも動かなかったぞ。
「べ、別に喜んでなんかない」
「口元が緩んでました」
……くそ、戻すのが遅かったか。
でも、せっかく僕の為に作ってくれたのに、迷惑そうにするのは人としてどうだろう。ここは素直に受け入れておくか。
「どうぞ」
青手木は僕の前に味噌汁とご飯を置いた。
味噌汁はワカメと豆腐が入っている。
ご飯も炊きたてなのか美味しそうに光り輝いていた。
「あれ? ……お前、自分の分は?」
「もちろん食べてきました」
……てっきり一緒に食べるんだと思ってた。夫婦は一緒に食べるのが当たり前とか言って。が、まあ良い。
すると青手木は僕の正面に座るかと思いきや、横に座る。
「……なんでそこに座る?」
「役目を果たすためです」
「役目?」
「これです」
青手木は足置きに置いてあった箸を手に取る。そして卵焼きをつかんで、こちらに差し向ける。
「あーん」
……なんだこれ? 普通、頬を染めながらとかやるやつじゃないのか? 無表情でって……。
青手木は箸を僕の口の前で止める。
僕が口を開けるのを待っているのだろう。
それにしても、その姿勢で微動だにしないとは。
こいつ、まさか精巧なロボットかなんかじゃないのか?
人間というよりも、作り物と言われた方が妙に納得するぞ。
と、まあ、そんなことばかり考えていても埒があかない。
諦めて僕は両手を合わせて「いただきます」と言ってから、ゆっくりと口を開ける。
青手木は箸を僕の喉の奥まで突っ込み、つかんでいた卵焼きを放す。
つまり、直接卵焼きを胃の中に落としたのだ。
なんてことしやがる!
そう叫ぼうとした時だった。
腹部に物凄い衝撃が走った。
「ぐっ!」
僕は青手木をチラリと見る。
まさか、あの「あーん」は囮で、油断した僕の腹を殴ったのか?(それくらいの衝撃があった)。
……いや、まさかな。
青手木の左手は膝の上にあるし、第一そんなことをする理由が見当たらない。
青手木は次に肉じゃがのイモを箸でつかみ、再び僕の口の前に持ってくる。
「あーん」
「ちょっと待て、青手木」
「……なんでしょうか?」
「今度は、ちゃんと噛ませてくれ」
「わかりました」
せっかくのご馳走だからな。ゆっくりと味わいたい。
今度は僕の口の中で、イモを落としてくれる。
あっ、しまった。自分で食うって言えば良かっ……。
「ぐわっ!」
何かが口の中で爆発した。
なん……だと?
完璧に舌が麻痺して全く味が分からない。
……そんなことより、一体どういう仕組みなんだ?
噛んだ瞬間爆発するような衝撃を受ける料理なんて聞いたことない。
青手木はイモの中に爆弾でも詰めたのか?
さっきの腹の衝撃も卵焼きが起こしたということか。
「美味しいですか?」
首をかしげて、青手木が尋ねてくる。
……いや、そういう次元の話しではない気がするんだが。
「料理の先生にも褒められたんです」
……え? マジですか。
「熊も殺せると言われました」
「褒めてねえだろ!」
……熊も殺せるって。僕を殺す気なのか?
「……なあ、青手木。僕は財産とか無いぞ」
「……?」
あれ? 反応が薄い。違うのか? 僕の遺産が目的じゃないのか。
まあ、そうだよな。青手木は金持ちの娘なんだから。
それなら、なぜ僕を殺す必要がある?
……あれか? 未亡人とかに憧れてるとかか?
未亡人……。萌えるのか?
「あーん」
僕の思考を無視するかのように、青手木はステーキを箸でつかんで僕の口元へと持ってくる。
卵焼きやイモがあの威力だ。ステーキとなると、どんな衝撃が襲ってくるか想像するだけでも恐ろしい。
そこで僕は一計を案じることにした。
「なあ、青手木。これ、味見したか?」
料理下手な奴の、ほとんどは味見をしない。
そして、その恐ろしいものを平気で他人に食べさせてくる。
それならどうすればいいか。
簡単なことだ。本人に食べさせてみればいい。
そうすれば、これは食べ物ではないと認識してくれるはずだ。
まさか、危険物と認識しながらも「食べろ」とは言ってこないだろう。もし、それで言ってきたら、確実に青手木は僕を殺しにきているということだ。
「もちろん、味見しました」
「……なにっ!」
青手木の口から全くの予想外の衝撃的な発言が飛び出す。
「え? これ、食ったのか?」
青手木はコクンと頷く。
ば、馬鹿な。
「な、なんともなかったのか?」
「……?」
まるで、僕が何を言っているのかわからないといった感じで首をかしげる青手木。
「と、とにかく食べてみろよ」
もしかしたら、この料理は時間が経つと爆発物に変わる仕組みになっているのかもしれない。
もしくは僕を殺すつもりで味見をしたと嘘をついたかだ。
「はい」
青手木は僕の口の前まで持ってきていたステーキをあっさりと自分の口へと放り込む。
……どうやら、前者だったようだ。
悪いな、青手木。自分で作ったものだ。責任持って自分で処理してくれ。
「美味しいです」
平然と相変わらずの無表情で言う、青手木。
我慢しているのかと思い、顔を見るが汗一つかいていない。……ブラフではないみたいだ。
……マズイな。
どうやら青手木の味覚はすでに崩壊しているようだ。
つまり、この料理を危険物だと認識してもらうことは不可能。
……十七年か。短い人生だったな。
僕は深呼吸して、青手木の拷問を受ける覚悟を決めたのだった。

十五分後。
僕はなんとか現世に留まっていた。
脂汗を流し這いつくばっているが、かろうじて生き延びた。
二三度意識が遠のいたが、そのたびに脳裏に月見里さんの顔が浮かんで耐えることができた。
ありがとう。月見里さん。あなたは僕の命の恩人です。
最後の付け合せのレタスを食べさせられた時(なんと驚くことにレタスも爆発物だった。調理されていないのにだ)僕は「こんな物食えるか」と言う言葉が口から出かかった。
だが、僕は食べ物を粗末にしないことをポリシーとしている。
そこを曲げるくらいなら死んだほうがマシだ。
まあ、あれを食べ物と分類するのかという議論は置いておいて。
それに僕の為に作ってくれた物だ。残さず食べるのが礼儀というものだろう。
とにかく僕は青手木の拷問を受けきった。
汗を拭って息を整え、僕は青手木の前へ座り直す。
そして両手を合わせる。
「ご馳走様でした」
いただきますで始まり、ご馳走様で終わる。
それが僕の流儀だ。
そんな僕の言葉が聞こえなかったかのように全く反応しない青手木。
「……」
ジッと僕の顔を見てくる(もちろん無表情)。
……やっぱりちょっとテレるな。
青手木は少し(いや、物凄くか)奇抜な行動を取るが、かなりの美人だ。そんな青手木に見られると緊張してしまう。
こうして見ると男共が騒ぐもの分からんでもない。
まあ、月見里さんには負けるけどな。
「どうした?」
「イノリさんが初めてです」
「なにがだ?」
「私の料理を食べて倒れなかったのは」
「そんな物を食べさせるなよ!」
ふざけんな! 自分の料理が危険って知ってたんじゃねえかよ!
それに初めてって……。よく死ななかったな、僕。
「イノリさんとは好みが合うようです。これなら結婚生活も上手くいくはずです」
目の前で悶絶していたのに好みが合うって……。
こんなものを毎日食わされたら1ヶ月で死ぬ自信があるぞ。
早く青手木に嫌われなくては。まさか命の危険まで関わってくるとは思わなかった。

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