【Web小説】龍と姫と聖剣エクスカリバー①

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第1章
「一つ、お願いがあるのだけど」
晴天の空の下。隣を走る彼女がポツリと呟いた。
絶世、とまではいかないまでも、オレが今まで銀河の星々を飛び回って出会った女の子の中でも五本の指に入るであろう彼女に、そんなことを言われてしまったら、「喜んで!」と叫ぶ男は五万といるだろう。
銀色で長く艶やかな髪。意志の強そうなキリッとした大きな青い瞳。十七歳という子供と大人の中間という幼さと色っぽさが合わさった、何とも言えない色気。
スレンダーな体型ながら、健康的で程よい肉付きをした足がスリットから伸びている。
正直、オレだって、こんな女の子に涙を浮かべて懇願されれば、つい「なんだ?」と応えたくなる。
「私の為に死になさい」
さっきとは打って変わり、さも当たり前のように、こっちを見下し気味に言い放った。
……お願いから命令に変わってるじゃねーかよ。
そんなオレの不満の心情を察したのか、彼女は「ごめんなさい」と目を瞑って頭を降る。
「誤解を招くような言い方をしてしまったようね。言い直すわ。カライオ星王女、フィオナ・カライオの命です。私に代わって後ろの化け物に食われなさい」
「……お前、最低だな」
「何よ。あなたは私の護衛でしょ? 命を張るのは当然じゃない」
「命を賭けるのと命を捨てるのは、ちげーよ」
「なら、さっさと『アレ』を何とかしなさいよ」
「うるせーな。わかってるよ」
走りながら、チラリと後ろを見る。
「グルルルル……」
ドスドスと低い地響きと土煙を巻き上げながら、ドラゴンというより巨大なトカゲといった方がしっくりくるような、三メートルを超す生物が牙をむき出しにしながらオレたちを追ってきていた。
「あの大きさって、『Eランク』じゃなかったかしら」
若干、オレの前を走るフィオナが振り向きもせずに尋ねてきた。
視線を前に戻して加速し、疾走することでフィオナを頭一つ分追い越す。
「『ヴァース』という種族で、『Eランク』でもかなり弱い部類のドラゴンだな」
「……初心者のハンターでも、一人で狩れるって話じゃないの?」
ハンターというのは、政府に雇われている『ドラゴン』だけを狩る人たちのことだ。
危険な仕事の為、許可制になっている。
「へえ、よく知ってんだな」
「これくらい、世間じゃ常識なんでしょ? まあ、あまり皇室内では話さない内容だけれど」
フィオナのスピードが更に増し、オレを再度追い抜く。
と、同時にガチンという歯が噛み合わさる音が後ろで響いた。
ヴァースがフィオナを噛もうと口を閉じたのだろう。
お互い、食われないように必死だ。後ろにいる方が食われる。それが分かっているからこそ、死の徒競走をクライアントである彼女と繰り広げているのであった。
「あなた、グレイスの騎士なんでしょ? グレイスはたった一人でも『Aランク』のドラゴンだって簡単に撃退できるって噂を聞いたことがあるわ」
「オレは騎士見習いだ。まだ騎士になってねえ」
「それにしたって、Eランクくらい……」
「甘いな。オレは見習いの中でも特殊なんだ。Eランクのドラゴンどころか、模擬戦でも勝ったことがない」
「……そう。それなら仕方ないわね」
一瞬罵倒されるんじゃないかと思ったが、思いのほかフィオナはため息をつき、オレを憐れみの目で蔑むだけに止まった。
それはそれで腹が立ったが、フィオナの恐ろしさはここからが本番だった。
「えい」
突如、彼女は走るオレの足を引っ掛けやがった。
「ぐわっ!」
全速力で走っていたせいで、土をまき散らしながら地面を転がる。
「てめえ、何しやがる!」
両手をついて顔を上げると、フィオナは遥か前方を走っていた。
「ごめんなさい。足が滑ったわ」
「嘘つけ! 今、思い切り『えい』って言ったじゃねーかよ!」
「ふん。戦闘で役に立たないなら、体を使って私を守りなさい。それが義務よ」
相変わらず振り向きもせず、言い放つ。
「せめて、私が逃げ切るまでは抵抗してから食われなさいよ」
くそ! なんて、女だ。
護衛対象じゃなきゃ、ぶん殴ってやるところだが、そうも言ってられない。
フィオナの言う通り、あいつが逃げ切るくらいの時間は稼がないと見習いといえども騎士の名が廃る。
もちろん、食われてやるつもりもない。頃合いを見て、逃げるつもりだ。
オレは立ち上がって、腰に差してあるソードを抜いて構える。
「グガアアッ!」
散々逃げ回っていたせいか、ドラゴンは怒り心頭のようで、目を赤くして睨んできた。
瞳の色が赤ということは『火の属性』のようだが、Eランクなら火を噴くなどの特殊なことはやってこないはずだ。恐らく、牙や爪による物理的な攻撃のみだろう。
ドラゴンは一旦立ち止まった後、顔を低くしてタックルするかのように牙を剥いて突っ込んできた。
迫りくる牙がかなりの迫力だが、ここでビビッていては命にかかわる。
短く息を吐き、足に意識を集中する。
イメージ。
五メートルほど飛び上がることで、奴の頭上に避けてそのまま頭にソードを突き刺す、という想像を足に伝える。
ヴィジョン発動。
足の筋力が強化され、ドラゴンの牙が体を貫く前に、イメージ通りにはいかなかったが四メートルほどジャンプすることに成功する。
「よし!」
そのままドラゴンの頭に向かってソードを突き立てようとした瞬間だった。
右肩に重い衝撃が奔る。
尻尾だった。
まさか狙っていたわけではないだろうが、ドラゴンの尻尾がオレを襲う。
イメージ通り、五メートルを飛んでいればそれすらもかわすことができたはずだが、高度が足りなかったせいで、モロに尻尾が当たってしまった。
「ぐはっ!」
鎖骨が折れる鈍い音が体を伝って内側から聞こえる。
再び地面を転がるはめになった。
いくら下が柔らかい土でも、落下した衝撃は容赦なくオレの全身麻痺させるように駆け抜ける。
起き上がるのが遅れた。その隙を逃さず、ドラゴンが牙を剥いてオレに襲い掛かる。
ヤバい!
鋭い剣のような牙がオレを貫こうとした寸前。
ピタリとドラゴンの動きが止まり――ドンという鈍い音が辺りの空気を震わせる。
ドラゴンが白目になり、盛大に横倒れになった。
「エリクはボクがいないとなにもできないのだから、離れちゃダメって言ってる」
倒れたドラゴンの頭上から現れた、両腕に鉄のトンファーを持った小柄で、絵になるような可憐な少女は、オレの幼馴染であり兄弟弟子のルチア・ベルトットだった。
絶命したドラゴンが、巨大な体を一度だけ大きく震わせる.
さっきまで赤く光っていたドラゴンの瞳がが音を立てて、石化していく。
硬質化が終わると、ゴロリと目だった部分が石として転がり落ちる。
それはまるで巨大な宝石のように澄んでいて、綺麗な結晶だ。
――龍石。
銀河がこれほどまでに発展することができた資源とも呼べる石。
様々なエネルギーを秘めた龍石は、政府の資金源の六割を占めているのだという。
そんな高価な石にも目をくれず、ルチアはこっちに走ってきて、心配そうにオレの顔を覗き込んでくる。
「大丈夫?」
「ああ。サンキュー。助かったよ」
ふと、緊張が途切れて、安堵のため息が漏れたのだった。

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