【Web小説】龍と姫と聖剣エクスカリバー②

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煌々と差し込む、強い日差しは低下している体力を更に減らしていく。
サバンナと砂漠を足したようなこの星は、少し街を離れると、地面に短い草が僅かに生えている他には巨大な岩がゴロゴロと転がっているという何とも殺風景な星だ。
全身の骨にヒビが入っているオレは一人で起き上がることもできず、岩場に寄り掛かるようにして座っている。
「よく頑張ったな。姫に怪我なくって、何よりだ」
そういって笑顔でオレの頭を撫でている金色で短髪の鎧姿の優男は、オレの師匠でありグレイスの騎士のバリス・コルサーノ先生だ。今年で二十八歳になる。
「特に役に立ちませんでしたよ。確かに、頑張って走ってたみたいですけど」
いつの間にか戻ってきていたフィオナが胸の前で腕を組み、オレを見下してくる。
「あと、姫って呼ぶの止めていただきたいんですけど。フィオナという名前があるんですから」
「はは。それは無理という話です。あなたも王家の人間であれば、相応の呼び方をされるのにも慣れておいた方がいいですよ」
バリス先生は笑顔で優しい声で諭す。
フィオナは王族――次期、国を統べる立場になる。だが、それは結局、銀河に広がる一小国の話だ。
広大な銀河――銀河政府の中でも十二人しか選ばれないグレイスの騎士と比べれば、考えるまでもなく先生の方が偉いし、権限を持っている。
それなのに、こっちを見下すような態度を取っていた。
この辺は育ちの問題かもしれない。狭い(と言っても、民家とは比べ物にならないほお広いが)宮廷内で生活していれば、感覚が常識とズレてしまうのも仕方がないというところなんだろう。
「……で? これからどうするんです? まさか、出発初日からこんなことになるとは思いませんでした。この屑……おっと。役立たずを見捨てるんですか? それとも、一旦、カイラオに戻ります?」
フィオナはさすがに暴言かと思い、言い直したようだがあまり変わっていなかった。
「元は、お前が散歩したいなんて言うからこんなことになったんじゃねーか! うぐっ」
叫んだことで全身の骨が軋み、激痛が駆け抜けていく。
「エリク、動かないで。包帯巻きづらい」
さっきから横で、せっせとオレをミイラ男にするかのようにグルグルと包帯を巻いているルチアが、まるで子供を窘める母親のように言う。
同じ十七歳なのに、なぜこんな扱いを受けるのかは謎だ。昔っからこいつはそうなので、今更気になるというほどでもないが。
フィオナの質問に、バリス先生は苦笑いを浮かべて肩をすくめた。
「いやいや。心配には及びませんよ。エリクは置いていかないし、星にも戻らない。時間もないことですしね」
「なら、こんなボロボロのまま強引に進むってことなんですか? まあ、それはそれで面白そうですけど、足手まといになるんじゃないです?」
「……面白いってなんだよ」
「エリク、動かないでって言ってる」
「このくらいの傷なら一、二時間で治せますよ。エリク、そろそろヴィジョンで治癒力を上げ始めてくれ」
「はいはい」
「はい、は一回」
またも、横からルチアが口を出してくる。
本当に面倒くさい。黙っててくれと言いたいところだが、さっき命を救われた手前、あまり邪険にもできない。ここは静かに意識を集中させることにする。
「まあ、どうでもいいですけど。それより、この後の予定を聞かせてもらえるかしら」
二時間ほどで治ると言ったバリス先生とオレをうさん臭そうに見た後、すぐに興味をなくしたのか、フィオナは話題を変えてきた。
「補給は済ませましたから、エリクの傷が治り次第、船に戻りましょう。即位の儀式が行われる『グラーディア星』までは四日ほどで着きますが、儀式の準備のことも考えると結構ギリギリになるかもしれません」
今回、オレたち……というより、バリス先生の元にきた依頼の内容は、フィオナの戴冠式を行うまでの護衛だ。
本来であれば、グレイスの騎士がやるような案件ではなかったが、最近、フィオナが束ねる星々の間で内乱があり、念のためということで依頼が入ってきた。
さらに先代の王であるフィオナの母親の死は病死ではなく暗殺という疑惑も残っている。そうした中、ちょうど任務を終えて帰還していたバリス先生の隊に白羽の矢が立ったのだ。
また少人数なのも、移動しやすいことと儀式を行うまでの間に暗殺者が襲ってくるという観点からだ。守れる人数も限られてくる。
フィオナが住むカライオからグラーディアまでは、超加速艇を使えば三時間ほどで行ける距離なのだが、「普通の船で行きたい」というフィオナたっての願いがあり、面倒だが、こうして普通の船で移動することになった。
母親を亡くし、不憫だと思ったので、ある程度の我儘は許容しようという話の流れもある。
ということで、辺境の星デボンで食糧やらなんやらを色々買い込むことになったのだ。
デボンには数はかなり少ないがEランクのドラゴンがいるということで、オレとフィオナは船で待機し、バリス先生とルチアが買い出し担当として街へと向かった。
二人になった瞬間、フィオナは散歩に出たいと言い出し、オレの静止を振り切りというか完全に無視して外に出たので仕方なく着いて行ったところ、見事にドラゴンに遭遇したのだ。
考えてみれば会った瞬間から、このフィオナには振り回されっぱなしな気がする。
そう思いながらフィオナを見ていると、その視線を遮るようにバリス先生がオレの顔を覗き込んできた。
「エリク、どう? どのくらいで完治できそうかな?」
「え? あ、はい。大体、二時間……いや、一時間半で治します」
「ま、そこまで急がないでも大丈夫だよ。時間がないといっても、一分一秒を争うわけじゃないしね」
バリス先生にそうは言われたが、オレのせいで現在足止めをくっている現状なので、一刻も早く体を回復させないといけない。
体を預けるように岩に寄り掛かっていたのを、座禅のように足を組み直し意識を集中する。精神が水を打ったように静まっていく。
……いい感じだ。
「エリク。ボクも手伝ってあげようか?」
せっかくの集中力もルチアのせいで乱れていく。
「ルチア。そうやってエリクを甘やかさない。これも修行の一環なんだから、一人でやらせてあげて」
「……」
そう言われ、ルチアは不満そうに口を尖らせると、プイっとバリス先生に背を向けて、不機嫌そうに岩場に腕を組んで寄り掛かり、目を瞑ってしまった。
「まったく。ルチアはエリクが関わるとすぐへそを曲げるな」
普段の命令や修行の言いつけは逆らうどころか絶対服従だが、今のようにオレのことが絡むと我儘な子供のように、すぐにふて腐れる。
それは別に先生に対してだけでなく、誰にでもそうなのだ。……昔から。
ルチアが離れたので、改めて精神統一を図る。
イメージ。
ヒビが入った骨が急速に回復していくのを強く想像、意識していく。
そして、右手の人差し指を上げて軽く横に振る。
――ヴィジョン発動。
すると、オレの体が光に包まれていく。同時に全身の痛みが徐々に引いていくのが分かる。
「どうなってるの、これ?」
今度はフィオナがオレの前に立ち、興味深そうに腰を曲げてマジマジと見てきた。
若干、気にはなるが集中力を切ると術が解けてしまうのでイメージする力を強く保ちながら答える。
「ヴィジョンだよ。今は自然治癒力を高めてる」
「ふーん。それって、グレイスの騎士、独特の技よね? やっぱり、不思議な力を持ってないと使えないの?」
「いや、術自体は誰にでも使えるんだ。ただ、かなりの修行は必要だけどな」
「……エリク。禁止事項に触れてるよ」
「あっ! そっか」
バリス先生に窘められ、慌てて口を閉じた。
ヴィジョンはグレイスの騎士特有の術だが、誰にでも使えてしまう、一種の技術に分類されるものになる。
あまりにも強力な効力を持つからこそ、決して一般の人間には教えてはならない。
それが騎士見習いになってから最初に教えられることだった。
それを破れば破門、最悪拘束される恐れもある。
――ヴィジョン。
それは強いイメージを具現化するという術だ。
本来、人間は運動する際、電気信号を送って筋肉を動かすのだが、実はこの電気信号というものは筋肉だけではなく体を構築する細胞一つ一つに対しても行われている。
一般の人間でも、筋力トレーニングをする際、理想的な肉体をイメージしながら行うだけで結果が違ってくるのと同じ現象だ。
それを応用し、通常では微弱で自動的に流れる電気信号を、自らコントロールするとどうなるか?
普段では決して出すことができない力を発揮することや、今、オレが行っている自然治癒力を引き上げるなんてことも可能になってくるのだ。
これは細胞に直接命令を働きかけることで可能になる。
さらにこの術の凄いところは、他者の体に関しても関与できることだろう。
別段、難しいことじゃない。自分の体に対する電気信号を他者に送り付けるだけだ。
電気通信のように、電波を飛ばして相手の細胞をコントロールする。
ルチアがドラゴンの動きを止めたのが、まさにそれだ。
応用としては炎に包まれるという信号を相手の細胞に送ると、細胞は『命令通りに』熱さを感知し、焼け焦げる。
極端な例としては、他人の思考すらもコントロールできてしまう。
古来、カリスマ性がある人間は無意識のうちにヴィジョンを使っていたということが研究によってわかっている。
ただ、この万能ともいえそうなヴィジョンだが、当然弱点もある。
まず、生物にしか効かない。
当然だが、無機質……つまり、岩や機械に対してサイコキネシスのように自由に飛ばすなどできないし、コンピューター内部を狂わせたり操ったりはできないのだ。
また、より強い電気信号――ヴィジョンを操る人間には効かない。
これも当たり前だが、飛ばした信号を、それより強い信号でかき消すことができるのだ。
だから、オレがバリス先生やルチアに対していくら電気信号の命令を飛ばしても、あっさりかき消されるどころか、逆に信号を飛ばし返されでもすれば、抗う方法はない。
「別に気にする必要はないわよ。秘密ごとには慣れてるし」
オレが気まずそう黙ったのを見て、すぐにフィオナはすっと話題から離れるようにオレから数歩下がった。
「今聞いたことも忘れてあげる。……だから、バリスさんもそんな怖い顔をしなであげてください」
バリス先生に振り返って、若干怪訝そうな顔をするフィオナ。
フィオナの言う通り、バリス先生の顔が険しい。
かなり怒ってるのか? と一瞬心配したが、そうではなかった。
「エリク。悪いけど、回復を急いでくれ。不穏な気配を感じる」
先生が空を見上げる。
オレもつられて見てみるが、そこには澄んだような青い空が広がるだけだった。

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