【Web小説】龍と姫と聖剣エクスカリバー③

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一時間後。
取りあえず、歩くのに支障がない程度に回復した時点で足早に出発することになった。
歩くたびに若干、骨が軋むような感覚があるが、この辺は船に戻ってから治せばいいだろう。
今は、何故か焦り気味のバリス先生の言う通り、船に急ぐことに集中するしかない。
「あの……そこまで急ぐ必要、あるんですか?」
軽く駆け足で荒野を進みながら、フィオナが不満の声を上げた。
これはオレに気を使ってとかではなく、純粋にもっとこの星を見たかったという思いからだろう。
最初に先生やルチアの買い出しにも着いていきたいと騒いだくらいだ。
「姫には申し訳ありませんが、護衛中はこっちの指示に従ってもらいます。理由は後で説明しますので、今はとにかく急いでください」
「まあ、国とそういう契約を結んだようですし、極力は従います」
今回に関してはやけにすんなりと受け入れるフィオナ。
この星はそこまで観光的なものもないし、単純に飽きただけなのかもしれない。
「エリク。荷物貸して。持つわ」
既に買い出しした物をパンパンに詰め込んだカバンを背負っている状態で、ルチアが右手を差し出してくる。どうやら、オレの唯一の所持品であるソードを持つと主張しているようだ。
「いや、いい。というか、これを手放したら騎士見習いとして何かを失うと思うんだが」
「大丈夫。見習いを辞めたら、ボクが養うから」
「意味わかんねーよ」
こんなつまらない会話でも、ズキズキとあばら骨が痛む。早く、船に帰りたい。などと考えていたときだった。
突然、先頭を進んでいたバリス先生が立ち止まる。当然のようにオレたちもストップした。
船は目の前なのに、と不思議に思ったがすぐに理由がわかる。
船の入り口付近に黒いフードを被った人影が二つあることに気付く。
バリス先生はオレたちを後ろに下がらせ、オレとルチアに耳打ちする。
「俺が奴らを引き付ける。お前たちは姫を護衛しながら船に戻ってくれ。最悪、俺は置いていっていい。その場合は騎士団の議事堂へ行くんだ」
「あいつら、敵なんですか? それならオレたちも戦います」
オレの問いに、バリス先生は二人組に視線を送って様子を見る。
「いや、嬉しいが……気持ちだけもらっておく。今回は絶対に戦闘に加わろうとしないでくれ。これは命令だ」
「わかりました。エリク、行こう」
納得いかないオレをよそにルチアが頷き、オレの腕をグイグイと引っ張る。
三人で話していると、二人組がこちらに向かって歩いてきた。
「そう身構えないで欲しい。ワシらはあなた方の敵ではない」
三メートルほどの距離になっても、フードを深く被っているため顔は見えない。
今、言葉を発したのは若干、体格が小さい方だ。それでも、ゆうにオレの二回りくらい上回るほどの体格をしている。
背丈は二人とも百八十センチくらい。バリス先生より頭一つ分、オレからしたら二つ分高い。
ちなみに、ルチアはオレと同じくらいで、フィオナはオレより五センチくらい上だ。
「そんなに殺気をまき散らして言われてもね」
バリス先生の言葉に二人は肩をすくめるような仕草をした。
「本当に危害を加えるつもりはないんだ。――姫を渡してくれればね」
低い声と共に、オレでもはっきりと分かるほど殺気が増幅する。
戦闘には参加するなと言われていたが、思わずソードの柄に手をかけてしまう。
じっとりと汗が噴き出す中、フィオナは涼しい顔をしてフードの男の方をジッと見ていた。戦闘の素人だから殺気を感じ取れていないのか……。それでも、この状況でこんな表情をできるフィオナは純粋に凄いと思う。
「エリク。しっかりして」
後ろにいたルチアがポンと肩を叩いてくれたおかげで、僅かにだが冷静になることができた。
ソードの柄から手を離し、フィオナの横に立ってバリス先生の合図を見逃さないように後姿を見る。
「姫は渡さないと言ったら、どうする気……かな?」
「そのときは力づくで」
ピンと張りつめた空気で場が支配される。
「どうせ、姫は奪われることになるんです。何も痛い思いをすることはないでしょう」
今まで黙っていた体格の良い方の男が、初めて声を発した。
声の質は若い印象を受ける。
「こっちも任務なんでね。仮にそうだとしても、素直に引くわけにはいかないかな」
「なにも、任務で死ぬこともあるまい」
「まあ、使命に殉ずるというのも、私は好きですが」
二人は肩を震わせて笑い、それぞれフードがついた羽織を脱ぎ、武器を構える。
低い声で体格が若干小さい方は、白髪の壮麗な老騎士といった顔だった。年齢でいうと五十くらいだろうか。如何にも頑固そうなきつく鋭い目に、右眉の端に剣で斬られたような傷跡がある。
武器はロングソード。切っ先から柄までが黒く塗ってあった。
もう一人の男は二十代前半で、長い金髪を後ろで括った美少年といえる面持ちだった。
武器は槍。薙刀のような形状だが、切っ先が異常に大きい。まるで古代の武器、斬馬刀のようだ。
どちらも黒い鎧に身を包んでいる。鎧の上からでも鍛え抜かれていることは容易にわかるほどだ。
「あら、これはなかなか良い男ね」
緊迫した中、フィオナだけが緊張感のない声で、場にそぐわない台詞を吐く。
オレはフィオナの腕をつかみ、耳元でささやく。
「合図したら着いてきてくれ」
「なに? こんな時にナンパ? 時と場合を選んでくれないかしら」
「それは、こっちの台詞だ!」
「エリク。ボクがいるのに、ナンパは許されない」
「ルチア、お前も何言ってるんだ。というか、なんでオレのナンパとお前が関係するんだよ」
「震えて動けなくなるよりはいいけど、もう少し気合を入れてもらえると助かる」
オレたちの会話を聞いて、僅かに肩を落としたバリス先生が気合を入れなおすように短く息を吐き、腰の剣を抜く。
剣というよりレイピアに近い、細い刀身で斬るより突くに特化した仕様になっている。
「さてと、いきますか」
バリス先生が剣を下ろしたまま、その場で二、三度小さく跳ねた。
その様子を見て、オレはルチアと顔を見合わせて頷く。
バリス先生が四度目のジャンプをし、二人組がお互いに合図することなく、同時に走り出した瞬間だった。
「なにっ!」
老騎士の方が、立ち止まり左右を見渡す。
バリス先生が地面を着地する刹那、こつ然とその姿を消したのだ。
「行くぞ!」
オレが先頭で間にフィオナを挟み、後方をルチアという隊列で船に向かって走る。
「くっ! 逃がすかっ!」
老騎士がこっちに向かって手をかざした。
「あんたたちの相手は俺でしょ」
背後に立っているバリス先生が老騎士の眉間目がけて剣を突き上げる。――が。
高い金属音が響く。
若い方の男が剣を槍で弾いたのだ。
「やるね」
バリス先生は数歩下がりながらも、けん制するように黒い騎士たちに向けて剣を構える。
「貴様……何をした?」
戸惑いの色を隠せない老騎士。
それはそうだろう。急に消えたと思った相手が自分の背後に現れたんだから。
種明かしをすると、あれはバリス先生のヴィジョンの能力だ。
瞬時に足の筋力を極限まで引き上げる。その状態での動きはまさに電光石火。
バリス先生のあの技は、仲間から『閃光』と呼ばれている。
「地の利も得たし、姫も無事に船に着きそうだ。ってわけで、ここは退いた方がいいんじゃないかな?」
バリス先生の言う通り、奴らの背後に回ったことで先生の方が船側に近いし、オレたちもすぐに船の入り口に着こうかという位置だ。
「あなたの強さは本物のようですが、戦いはこれからですよ」
若い男の方が、オレたちに向けて右手の人差し指をかざす。
……何をするつもりだ?
あいつらからは五メートル以上離れている。何か飛び道具を使ったとしても余裕でかわせるし、弾くことも可能だ。あいつには現状、オレたちに対して打つ手はないはず。
――だが、男が指を横に振った刹那。
「うぐっ!」
「きゃあっ!」
「……っ!」
オレたち三人が同時に声を上げ、地面に膝をつく。フィオナに至っては倒れ込んでしまうほどだった。

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