【Web小説】龍と姫と聖剣エクスカリバー⑩

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それから三日間は何事もなく過ぎていった。
ジーノたちの襲撃に内心怯えていたが、現れることもなく杞憂に終わる。
ルチアとバリス先生もリプレクションから回復し、船の修理も完了した。
ちなみに、ルチアは塔に登った時点でリプレクションになっていたのに、無理をしてオレの回復力を上げる為にヴィジョンを使い続けたことで、精神的な衰弱がひどかった。
それも三日寝たことで、何事もなかったように今は平然としている。
……いや、違うな。明らかに精神に障害を負ってしまったようだった。
「新婚旅行はどこに行きたい?」
「ん? なんだ、いきなり?」
昼食で使った食器を洗っていると、隣にルチアが来て手伝ってくれながらふと聞いてくる。
新婚旅行。あまりにも、遠いことにあまり実感がわかない。そもそも恋人すらいないのに結婚のことを考えろというのも酷な話だ。
かといって、無視するのもなんだし、ただ行きたい場所を答える。
「クザール星のカルー蛍を見てみたいかな。ルドー星域で一番綺麗な景色って聞くしな」
「……ロマンチック。いつ行く?」
「新婚旅行だろ? それなら結婚したらすぐじゃねーの」
「結婚式は、任務が終わってから一週間後くらいでいい?」
「なんの話だ?」
「ボクとエリクの結婚式の話」
無表情で、まるで世間話をするかのように淡々とした声で言ってくる。
「ちょっと待て。なんの話だ?」
「だから、ボクとエリクの……」
「なんで、お前と結婚することになってんだよ!」
「……責任とって?」
「なんの責任だよ!」
「男女が一緒に寝た場合は、責任取って結婚しないといけないって、本に書いてあった」
「待て待て待て! いつ、オレがお前と寝た……」
ふと、三日前のことを思い出す。オレの治癒力を上げる為に、隣でヴィジョンを使って疲れて寝ていたときのことを。
「あ、あれは……お前が勝手に隣で寝ただけだろ。どうしてオレがその責任をとらないとならないんだよ!」
必死になるオレを見て、ルチアはフルフルと首を横に振った。
「エリクがとるんじゃなくて、ボクがとる」
「その責任の取り方は間違えてる!」
「?」
何を言っているのか分からないといった風に、小動物のように小首を傾げられる。
これは、どう説得しようと恐らく伝わることはない。伝える努力すら無駄に終わるだろう。こういう場合は、強引にでも話を流すことにしている。
「ルチアが責任をとることはねーよ。オレは気にしてないし。だから、お前も気にするな」
「でも、ボクはエリクと結婚したい」
「……希望を言ってるだけになったぞ」
「?」
再び首を傾げるルチア。
目が覚めてからずっと、この調子で迫ってくる。恐らく、ヴィジョンの使い過ぎで神経が摩耗したせいで、おかしな思考になってしまったのだろう。
治るまでは暖かく見守るしかない。一応は命の恩人だし。
「そろそろ、移動の準備を始めてくれ」
バリス先生がキッチンのドアを開けて、入ってきた。
「え? でも、代わりの騎士を待たないんですか?」
「議事堂と連絡がついたんだが、どうやら三日前から消息が途絶えたらしい」
「ジーノたちに襲われた……?」
「その可能性が大きい。やられたということはないだろうけど、姫の式典の日程もあるし、俺たちの体調も回復したから、このまま俺たちが任務を続行しようと思う。議事堂の了承も得たからな」
「それは賛成ですけど」
フィオナの護衛に関しては、オレ自身続けたいと思っていた。もしオレたちの隊が外されたとしても、何とか頼み込んでオレだけでも護衛に加えてもらおうとしていたくらいだ。
三日前に……オレとしてはもっと前からだが、友達になったのだから無事はこの目で見届けたい。
「ボクは反対です」
隣にいたルチアがやや声を大きくした。
「少なくても、エリクはこの任務から外した方がいいです」
「お、おい! ルチア、お前、何言ってんだよ!」
「うーん。どうして、そう思うのかな?」
バリス先生が目を細めて、顎を指で触る。
「エリクは護衛対象に入れ込み過ぎです。この前の、ダークイーターの件は異常とも言える行動です」
「確かにね」
チラリと先生がこっちを見た。
やばい……。
オレは隣にいるルチアを肘で突きながら、小声で耳打ちする。
「頼む。もうその話は止めてくれ」
「このままだと、隊全体に影響します」
オレの懇願はあっさりと無視して、無感情……というより冷たく言い放つ。
「こ、今度からは気を付けます! だから任務から外すのだけは……」
「反省の色が見えません。同じ失敗を繰り返す可能性があります。即刻、議事堂に戻すことを提案します」
「お前……オレに何か、恨みでもあるのかよ?」
「別に。ボクはただ、事実を言ってるだけ」
ルチアがオレに対して、ここまで言うどころか敵意すら向けるのは初めてだ。
さっきまでの態度から百八十度違っている。やっぱり、精神的に不安定になってるんだろうか。
「罰はこの任務が終わり次第、受けます。どんな罰だろうと。だから、この任務だけは完遂させて……」
「今の言葉が、こだわっているのを示しています。外すべきです」
オレの言葉を打ち消すかのように、ルチアが進言する。ここまで言葉が多いのも本当に珍しいことだ。
それが返ってオレをイラつかせる。
「ルチア! お前、いい加減しろよ!」
「いい加減にするのは、エリクの方!」
胸倉をつかもうとしたが、払いのけられて逆に襟を掴まれて壁に押し付けられた。
「死んだら終わり。次はない」
ポロポロと涙をこぼし、オレの胸元に顔を埋めるルチア。
「ボクは……もう……あんな思いをするのは……嫌」
「……」
何も言えなかった。
リプレクションを起こしているのに、自分の体もボロボロなのに必死にオレの体を治していたとフィオナも言っていた。
オレの体をオレ以上に心配していたんだろう。そんなルチアに対して、オレが何を言えるのか……。
「確かに、ルチアの言うことは正しい。だけど、ルチア自身もエリクに入れ込みすぎだよ。他の隊と合流を果たせていない今、エリクの戦力が抜けるのは厳しいな」
困ったように額をポリポリと掻く先生に、ルチアは顔を上げて食い下がった。
「エリクの分、ボクが働きます。というより、エリクは役に立ちません」
「お前……。自分の意見を通すためなら、容赦ないな」
「役に立つか、どうかは俺が判断するよ。それにエリクに期待しているのは戦闘じゃないからね」
「先生、それはそれで傷つくんですが」
「ああ、ごめんごめん」
苦笑を浮かべて、しまったという表情をする先生。
「結論としては、エリクは任務からは外せない。ただ、今後は勝手な行動をしないことを厳守してもらうよ。当然、単独行動もね」
「は、はい。それはもう、絶対に守ります」
「でも、先生!」
尚も食い下がるルチア。
「エリクへの固執がなければ、騎士を継承してもいいレベルなんだけどな。実に惜しい」
大きくため息を吐く。すぐに表情を引き締め、オレたち二人を見た。
「ルチアは出発の準備。エリクは対空監視。すぐに取りかかって」
先生としての言葉ではなく、騎士として見習いへの命令。
どうあろうと、これには従わなくてはならない。
ルチアも不満そうに口を尖らせたが、すぐに頷いて部屋を出て行く。
オレも続いて出ようとするが、先生に止められる。
「エリク。護衛対象を大切に思うことは大切だよ。だけど、思い過ぎるのは危険だ」
「……どうしてですか?」
「俺たちの仕事は護衛だけじゃない。命令があれば、犯罪者を捕まえる……殺すことだってある」
「わかってます」
「いや、わかっていないよ。もし、仮に……」
不意に船がグラリと揺れる。続いて、艦内放送が流れた。
「三十秒後に飛行を開始します。各自、指定の場所で待機してください」
意見が通らなかった腹いせか、ルチアが素早く離陸の準備をして、荒い操縦で李りうを始めた。
先生とオレは顔を見合わせて、肩をすくめる。
この話は後でと言うように、先生の方が先に出て行く。
オレの方も揺れる船内を転ばないようにして歩く。
このときのオレは先生が何を言いたいかまったくわからなかったが、後々、重くのしかかるように理解することになるのだった。

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