【Web小説】龍と姫と聖剣エクスカリバー⑫

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 儀式をする星、グラーディアに無事フィオナを送り届ければ任務はひと段落する。
 全員がそう思っていた。
 だが、状況は悪化の一途を辿るだろうと、誰も何も言わないがそう感じたはずだ。
 船を指定された着陸ポイントに降ろし、四人で外に出てみるとその異常さに気付く。
「……誰も、いない?」
 グラーディアは成層火山に覆われた星で、気候は暖かいが極端に雨が降らない星だ。
 動物はほとんど生息してなく、植物もあまり育たないサバンナが広がっている。
 もちろん、人間も住めるような環境ではないので誰もいないのは当然といえば当然なんだが、今はフィオナの儀式のために神官あたりが待機しているはずだと思っていた。
 フィオナもそう言っていたし、依頼を受けた時もそう聞いていたのだ。
「なに? 神殿を見つけるところから試練が始まってるとか、かしら?」
「神殿の場所とか知らねえのか?」
「いざってときのために、地図をもらってるわ」
「それなら、試練にならんだろ。お使いじゃないんだし」
「うるさいわね。言ってみただけよ」
 フィオナが手のひらサイズの薄いプラスチックの板――『S-pond』を取り出す。通信機を兼ねた装置で色々な機能がついている。電源を入れ、地図アプリを起動させているようだが、「あれ?」と何度も画面を連打し始める。
「どうしたんだ?」
「通信ができない……」
 画面を覗いてみると、電源は確かに入っているがずっと読み込み中になっている。
 通信の強さを示すアイコンがNGになっていた。
 ルチアも自分のS-pondを取り出し、操作していたがすぐに電源を切ってポケットに戻す。
「議事堂に連絡してみます」
「そうだね。頼むよ」
 バリス先生が頷くのを見て、ルチアはすぐに船の中へと走っていった。
「んー。どうも嫌な予感がするな」
 先生が視線を周囲に送る。オレも釣られて辺りを見渡してみるが、特に変わったものは見えない。
「たまたまなんじゃないですか? ほら、到着時間を間違えてるとか」
「はあ? そんなのあり得ないわ。この私がわざわざこんな星に来てあげてるのよ。二十四時間体制で待機しているべきだわ」
「……お前ほど唯我独尊って言葉、似合うやついねえよな」
「ないとは思うけど、仮にこっちの到着時間を間違えて出迎えがないととしても、通信が死んでるっていうのはおかしいかな」
 バリス先生が辺りに気を配りながら、チラリとフィオナの画面を見る。
「そもそも通信が弱い星だとか、フィオナのが壊れたとか」
「最新機種よ、これ。あんたの化石みたいな旧型とは違うわ」
「通信ができない星ならあらかじめ、注意があるだろうし、万が一に持たせてくれたのが地図のアプリっていうのはないと思うよ。その場合は紙の地図を渡すはずだ」
「……あ、そうか」
「それに、きっと船の通信機も反応しないだろうね」
「え?」
 そのとき、ちょうどルチアが船から出てきた。
「通信が遮断されてます」
「やっぱりか……」
 困ったように頭をガシガシと掻くバリス先生。
「一旦、星から出て、通信しましょうか?」
「迷うところだけど……。神殿の方に行ってみようか。みんな警戒を解かないようにね。ルチアは最後尾、エリクは姫の隣を頼む」
「わ、わかりました」
 先頭をバリス先生、その後ろをオレとフィオナ、そして一番後ろがルチアというひし形のような陣形でサバンナを進む。
 時折、後ろから「エリクの隣がいい」という呟きが聞こえてきたが、無視する。
 先生は事前に神殿の場所は聞いていたようなので、迷わずに行くことができた。
 徒歩で約三十分。山の麓というより、岩山を切り抜いて、その中に神殿を建てたような作りをしている。
 思ったより大きくなく、二階建ての一軒家程度だ。様相は城を小さくしたような、煌びやかでどこか気品のある建物だった。
 神殿の前まで来ると、明らかに違和感が濃くなる。
 人の気配が全くしない。
「建物内でも、陣形は崩さないようにね」
 ステンドグラスが埋め込まれている両開きのドアを開けて、中に入る。
 正面は広場のようなものになっていて、その奥には祭壇のようなものが鎮座していた。
 向かい合うように五人掛けの椅子が平行に縦に五列、横に四列で並んでいる。
 恐らくはあそこで儀式をするのだろう。
 オレたちは警戒しながら建物内を巡回する。数個の部屋を見つけたが、そこにも人の姿はない。
 結局、二時間かけて建物内を見て回ったが、人どころか生き物、植物すら見つけることができなかった。もぬけの殻というやつだ。
「争った形跡はありませんでしたね」
「船に戻るべきだと思います」
 オレとルチアの言葉が耳に入っているのかどうかわからないが、先生は広場の椅子に寄り掛かりながら顎に手を置いて考えごとをし始める。
「うわ……。結構、面倒くさいのね」
 いつの間にか祭壇の上に置いてあった本をペラペラとめくって、フィオナが呟く。
「おい、離れるなって言っただろ」
「見て、これ。儀式ってこんなにやらなきゃならないのよ」
 少し声を荒げたオレに全く構うことなく、フィオナが見ていた本を開いて向けてきた。
 確かにズラッと、文字が並んでいる。いわゆるスケジュール表みたいなものだった。
「いや、聞けよ、人の話」
 本を取り上げようとするが、スッと手元に引っ込められ、またペラペラと本をめくり出した。
 本当にマイペースな奴だ。こんな不気味な雰囲気の中、よく呑気に本なんか読んでられるな。
 呆れ半分、感心半分でフィオナを見ていると、チラリと本からオレの方に視線を向けてくる。
「気が散るから、エロい目で見ないでくれない?」
「とんだ言いがかりだよ!」
「あら? これ面白いわね。ちょっと、このページ見てちょうだい」
「いや、その前に前言を撤回しろ。オレの沽券にかかわる」
「大丈夫よ。あんたにそんなものないから。それより、これを見なさいってば」
 そう言って、目の前に本を開いて押し付けてくる。
「逆に見づれーよ」
 本を奪い取り、開かれているページを見てみる。そのページは神殿の見取り図だった。
「……これのどこが面白いんだよ? お前、部屋フェチなのか?」
「私はあんたみたいな特殊な性癖はないわよ。そうじゃなくって、ここを見て」
 何気にひどいことを言われた気がするが、反論する隙も空気もなかったので、素直にフィオナの指したところを見る。
 四角が書かれているということは、ドアを意味するのだろう。
「……で?」
「あんたと話してると本当に疲れるわね」
 やれやれと言った具合に首を振って大げさにため息を吐かれる。なんだろう。すごく傷つく。
 フィオナとそんなやり取りをしていると、ひょこっとルチアがオレの隣にやってきて、本を覗き込んでくる。
「……隠し扉?」
「さすがルチアね。正解よ!」
「へ?」
 よーく目を凝らして見てみると、フィオナが指した部分は確かにドアなのにその先に続く部屋が書いてない。それに、さっき神殿内を捜索したときはこんなところにドアなんてなかったはずだ。
「……ただの書き間違えなんじゃねーのか?」
 苦し紛れに発した言葉に、フィオナは心底ウンザリしたような表情でオレを見る。
「あのねえ。これは継承の儀式にかかわる重要な本なのよ。間違いがあるのをそのままにしておくわけないとは考えないのかしら?」
「……うっ」
「確認する価値は十分にありそうだね。姫。俺たちもそこに入っても構いませんか?」
 バリス先生も同じく本を覗き込んだあと、フィオナに問いかけた。
「どうなんでしょうね。本来なら部外者は立ち入り禁止なんでしょうけど、今は非常事態のようですし。そもそも止める人自体いないんですから、構わないんじゃないです?」
 相変わらず、バリス先生に話すときはやや冷たいというか、一線置いている感じがする。ルチアに対しては若干、砕けた話し方をするけど、オレと話すときみたいに毒を吐くことはない。
 総合的に考えて馬鹿にされているんだろうか。
「機密は絶対守るということで、同行をお願いできますかね? もしかしたら、この異常事態に関して、何か情報を得られるかもしれませんから」
「別に構わないと思いますよ。仮にこのことが見つかったとしても、私がもみけしますので」
「そう言ってもらえると心強いですね」
 という話し合いの元、四人で隠し扉がある場所へ移動する。
 何の変哲もない壁。普通に行き止まりになっていた。別にポスターやタペストリーが貼られてるわけでも、何か装置らしきものがついてるわけでもない。
「やっぱり、書き間違えじゃねーのか?」
 壁を触りながらフィオナの方を見ると、不機嫌そうに睨んできた。
「なに、勝ち誇った顔してるのよ。ちょっとどきなさい」
 ツカツカと横に来ると、ドンとオレを突き飛ばしてくる。
「そんなに簡単に見つかったら隠し扉の意味……きゃあっ!」
 オレと同じようにフィオナが壁を触っていると、突如壁が光り出す。
 ちょうど人が一人通れるくらいの長方形の穴が出来上がる。どちらかというと、急に壁が消えたような感じだった。
 壁を押すように触っていたので、フィオナは前のめりに倒れそうになる。
「危ねぇ!」
 咄嗟に腕をつかむ。
 壁が消えた先は階段になっていた。しかも、結構深い。
 そのまま落ちて行ったら、怪我をしていたかもしれないほどだ。
「びっくりしたぁ。ありがとう」
 階段を見下ろしながらフィオナが礼を言ってきた。随分と素直だなと思っていると。
「あ、礼を言ってしまったわ。ちょっと。損したじゃない。謝りなさいよ」
「お前、傍若無人過ぎだろ」
 階段は五百メートルほど続いていて、さらにその先に扉がある。
「どういう仕掛けかわからないけど、きっと姫の一族……血筋かな。とにかく、継承者が触ると開くようになってるみたいだね」
 バリス先生がオレの横にきて、ポンと頭に手を乗せて「よく反応したね」と褒めてくれた。それだけで、フィオナを助けた甲斐があったと思える。
「俺が先に降りる。次にエリク、姫、ルチアの順で着いてきてくれ」
 先生が先陣を切って階段を下りていき、オレたちも言う通りの順番で降りる。
 扉の前まで来たとき、またフィオナじゃないと開かないんじゃないかと思ってるとあっさりと先生でも開くことができた。
 その先は広い鍾乳洞だった。四人が横並びで進めるほどの道幅がある。
 天井も四メートルはあるかと思うほど高い。
 特殊な鉱石が混じっているのか、所々から発光して中が青く輝いている。
 幻想的なほど綺麗な光景だった。
「さ、行くよ」
 三人とも鍾乳洞内に見とれていると、先生が警戒しながら進んでいく。
 鍾乳洞は思ったよりも長く続いていた。大体四十分ほど進んだころだった。
 急に広場のように空間が空いた場所に出る。
 壁や天井に白い線で壁画が描かれていた。見る限り、ドラゴンと人を表してるようだ。
 その広場の中心には五十センチくらいの高さの四角い石柱がある。断面には石板がついていて、上方には黒い黒曜石のような恐らく龍石であろう石がはめ込まれていた。
 石板には文字も書かれているが、なんて書いてあるかは読めない。
「姫。読めますか?」
 先生の問いに、フルフルと首を横に振るフィオナ。
「もしかしたら、先ほどの壁のように触れるとなにか起きるかもしれません。ちょと触ってみてもらえます?」
 今度はオレも、先生もルチアも何が起きてもすぐに対処できるような体勢をとる。
 フィオナがやや緊張した面持ちで頷き、チラリとオレの方を見てから龍石に触れる。
 今の視線は「何かあったら頼むわよ」というものではなく「わかってるわね? 何かあったらぶっ殺すわよ」という意味が込められていた。
 ゆっくりと右手を伸ばし、中指の腹が触れた瞬間、またも壁の時と同様に石柱が光り始めた。
 三人が一斉に警戒を強めるが、石柱は光る以外は特に何事も起こるような雰囲気はない。
 数秒の沈黙。
「……なにも、起こりませんね」
 沈黙に耐えきれずに、思わず思ったことを口にしてしまう。
「儀式用のパフォーマンスなのかもしれないね。継承の証として、これほどわかりやすいものもないだろうし」
 そう、バリス先生が言った瞬間だった。
 フィオナがポロポロと涙を流し始める。
 ――そして。
「継承の儀が終わったわ」
 そう呟いたのだった。

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