【Web小説】龍と姫と聖剣エクスカリバー⑬

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「この銀河の巫女なのよ」
「へー。お前が? 邪神でも祭ってるのか?」
「あんたみたいなゴミには、私の神聖さはわからないのよ。本当に不幸ね。いっそ死んだら?」
「お前に神聖さを感じられる人間が、この銀河にいるんだろうか? 相当なド変態か悪魔しか無理なんじゃねーか?」
「それなら、あんたが一番の信者になる素質があるってことね。全銀河を見渡しても、あんた以上の変態はいないもの」
「おいおい。こんな紳士を捕まえて、変態って。お前の価値基準って、どうなってんだ」
「自覚のない変態って、本当に手がつけられないわ。こうやって話している間も、頭の中では私を何度も犯してるんでしょ?」
「はん! お前を? 冗談じゃない。頼まれたって無理だね」
「あら、ごめんなさい。人間相手は無理だったわね」
「違う。エリクはボク以外とはしない」
 不毛な言い争いにルチアが乱入してきて、さらに混沌としてくる。
「あー。ちょっといいかな。痴話喧嘩は後にしてもらって、継承の儀が終わったというのは、どういうことか説明してもらえますか?」
 バリス先生がパンパンと手を叩き、終わりが見えなかった罵倒合戦が集結する。
「えーと、遥か昔、この銀河に星を食い荒らすほどの強大なドラゴンが存在していたことは知っているかしら?」
「あ、ああ。もちろんだ。あれだろ? 星に影響を与えるほどの力を持ってるんだろ?」
「意外ね。あんたは絶対に知らないと思ってたのに」
 心底驚いたようにフィオナがオレを見る。確かに知っていたが、知ったのはほんの数時間前で、バリス先生に聞いただけだったのだが、馬鹿正直に言うつもりはない。
「そのドラゴンを封印したのが、私たちの祖先であるカライオ家なのよ」
「銀河の巫女というのは、カライオ家がずっとそのドラゴンを見張っていた、ということですかね?」
 だが、先生の問いにはフィオナは首を横に振る。
「脅威なんてものは、月日が経つにつれて忘れられていくものよ。例え、どんな強大なものだったとしてもね。カライオ家の権力は次第に弱くなり、ついには星の王程度に落ちていったわ」
「それで、カライオ家は巫女の役目だけ引き継いでいったというわけですね」
「いいえ。脅威は忘れられていくもの。これはカライオ家も例外ではなかったわ。巫女の役目は忘れられ、王としての権力だけが残ったの」
 フィオナは自虐的に笑う。まるで自傷行為のように。
「ん? でも、それじゃおかしくねえか? 継承の儀でカライオ家だけは思い出すだろ。フィオナのようにさ」
「王を引き継ぐ継承の儀は重ねるごとに簡略化されていったみたいね」
「え? ということは……」
「あの龍石に触れるという工程は行われなくなったみたいね。当然、先代のお母様もやってないわ」
 フィオナの話を聞いて、なんとなく腑に落ちる。そんな重要な役目があるなら、継承権のフィオナはもちろん、国民や他の星の人間も知っているはずだ。
 それが今や、噂の類、それも星伝説的な扱いになっているなんて……。
 腑に落ちた反面、痛みをすぐに忘れてしまっていく人間に対して複雑な気分になる。
「皮肉よね。王を継承したくないって思ってた私が、役目を思い出すなんて」
 その言葉にザワリと胸に嫌な予感が奔った。さっきの自虐的な笑い。それは、役目を忘れていた一族と役目から逃げよとした自分への罪を一身に受けようとしているんじゃないんだろうか。
「なあ、役目ってなんだよ? まさか、生贄になるとか、そんなふざけたもんじゃねえだろうな?」
 オレの顔を見て仰々しく、わざとらしくため息を吐いた。いつもの人を馬鹿にしたような目で見てくる。
「ちょっと頭を捻ってみればわかると思うのだけれど。王を継承した者が死んじゃったら、血筋が絶えるし、死んだあとは王の役目はどうなるのよ?」
「あ、ああ……。そういえばそうか……」
 王の役目なんてそれこそ、王がやらなくても宰相あたりが代わりに行うなんてざらにあることだし、血筋は逆に広がっていくものだ。
 ただ、今は反論よりも生贄なんかにはならないという方に心底安堵する。
「では、役目って一体、どんなものなんです?」
「別に何もしないわ。強いて言えば、巫女だってことを忘れないこと……かしら」
「それって、意味あるのかよ?」
「ないって思ったから、継承の儀から外したんでしょうね。で、唯一の役目である巫女の自覚も失ったってわけ」
「……ぐだぐだだな」
「そうね。まるであんたのよう」
「……なんでだよ」
 隙があればオレを罵倒するのは止めてほしい。
 先生は難しい表情を変えずに、さらに質問を重ねる。
「それは平時の場合は、ってことですよね? 有事の際の巫女の役目はなんです?」
 その問いにピクリとフィオナの目の下あたりが動いた。
「巫女の自覚を持つだけというのなら、なにもカライオ家じゃなくてもいいはずですよね? 特別な力があるからこその王じゃないんですか?」
「……」
 数秒、先生を真剣な目でジッと見た後、降参というかのように肩をすくめるフィオナ。
「さすが天下の騎士様ね。そう。あなたの言う通り、何かあったときに対処するのがカライオ家の役目よ」
「まさか、それが生贄ってわけじゃないよなっ!」
 思わず叫ぶような大声を出してしまった。フィオナはビクっと驚いたかのように体を震わせたあと、キッとオレを睨んできた。
「なによ。そんなに私を殺したいわけ? 大丈夫よ。もし、そうだとしてもあんたを身代りにするから」
「……それもありなら、巫女の意味がねーんじゃねーかよ」
「よく昔話であるじゃない。身代りに食べられて、化け物の腹の中から切り裂いて殺す的な話」
「オレにそれをやれっていうのかよ」
「冗談よ。でも、ま。心配してくれてありがと」
 ニコリと笑みを浮かべるフィオナ。その素直さが逆にオレを不安にさせる。
「生贄なんて、野蛮で意味のないことはしないわ。なにせ、相手は星を飲むほどの化け物よ。人ひとり食べたところで、腹の足しにもならないわ」
「そういうもんか?」
「あまり勿体つけることでもないし、言ってしまうと、役目っていうのは見張り番よ」
「見張り番?」
「厳密にいうと見張りながら、復活しないように結界を補強していくことよ」
「カライオ家の王族には結界をはる特殊な能力があるということですね?」
 フィオナは先生の問いに首を若干傾げる。
「どちらかというと、特殊な能力があるというより他の人間よりも才能がちょっとだけあるって感じかしら。結界は能力というより技術に近いものよ」
「いやいや。技術って。ドラゴンを封じ込める技術なんて聞いたことねえぞ。そんな簡単なものじゃないだろ」
「ヴィジョン」
 ポツリとフィオナが呟く。
「あなたたち、騎士で言うヴィジョンというのがぴったりと当てはまるんじゃないかしら。確か、誰にでも出来うる技術……。そう言ってたわよね」
 確かにヴィジョンは誰にでも使える技術だ。だけど、使いこなすためには膨大な時間をかけた訓練が必要になってくる。
「しかし、あなたたち王族は、その技術の継承をしてこなかったんですよね? それなら結界を張るという技術は失われた……ということですか?」
「この龍石は記憶を蓄積して、それを触った人に流し込むという特殊な力があるみたい」
 先ほど触れた龍石を指差すフィオナ。
「なるほど……。それで先ほど、継承の儀が終わったと言ったんですね」
「ええ。結界を張る知識はもちろん、カライオ家の歴史を無理やり勉強させられた気分だわ」
「勉強っつっても、勝手に知識が流れ込んでくるんだろ? 便利じゃねーか。……でも、それじゃ、別にカライオ家の人間じゃなくてもいいってことにならないか?」
「この石は変に高性能みたいね。カライオ家の血筋じゃないと反応しないようになってるのよ」
 淡々と話すフィオナをバリス先生がジッと見つめる。そして、核心を突く言葉を放つ
「今は、その有事の際、というわけなんですよね?」
「……あら? どうしてわかったのかしら? まさか、あなた、カライオの血をひいているとかいうオチじゃないわよね?」
「ははは。違います。ちょっと気になる噂を聞いたもので」
 そこでオレはハッとする。伝説のドラゴン。それが実在するとフィオナに聞いたばかりだ。
 そのドラゴンを目覚めさせようとしている人間がいる。もしくは、封印が弱まっている……と先生は言っていた。
「……結界が弱まっているのか?」
「ええ。そうよ」
 あっさりと認めて、頷くフィオナ。
「原因はわからないけど、ここ数年で急激に弱まってきてるの」
「その結界って、どうやって張るんだ? 危険なのか?」
「いいえ。簡単よ。方法さえ知っていれば、あんただってできるわよ」
「具体的には?」
 そこでフィオナが苦笑いをして肩をすくめて答える。
「そのドラゴンが眠っている星に行って、封印の間で祈るだけよ」
「どのくらいの期間だ?」
「んー、そうね。ざっと百年くらいかしら。まあ、私の代だ終わりそうにないから、次の王に持ち越し……かな?」
「それって……お前は一生、そこに縛られるってことだよな?」
「ええ。そうよ」
「それで……いいのか?」
 そこで初めて、フィオナはオレから顔を逸らした。軽く下唇を噛み、両手で服の裾を強くつかんでいる。
「仕方ないじゃない。銀河を犠牲にしてまで我ままを通すほど、強くないわ」
「けど……」
「我がままを押し通しても、私を賛美するいなくなっちゃたら意味もないし」
 また人を馬鹿にしたような笑みに戻る。……いや、そうじゃない。きっと、フィオナが馬鹿にしているのは人じゃなくって、自分の人生なんじゃないか。ふと、そう思ってしまうほど、フィオナは簡単に自分のこれからの歩む道を諦めてしまった。
「……」
 本人が諦めてしまった状態で何を言っても、きっと届かない。今頃、船で「一緒に来てくれない?」と言われた時、何も言えなかったことにジワジワと後悔の念が頭をもたげてくる。
 ただ、あのとき、なんて答えればよかったかなんて今でも思いつかない。
「さ、今度はその星までの護衛をしてもらうわよ。だから、そんなしょげかえってる場合じゃないの」
 フィオナが俯いていたオレの頬をグッと掴んでつねってきた。
「あんたはいつもみたいにヘラヘラ笑ってなさい。……私の分も。ね?」
 顔をあげると、フィオナと目が合う。微笑んでいるのに、どこか悲しそうに感じる。
「その星はどこにあるんです?」
「この星から半日進んだところにある、惑星ディスファニーよ」
 バリス先生とフィオナがこの後のことを話し合っていたが、全然耳に入ってこない。
 ルチアがオレの隣に来て、そっと手をつないでくる。
「……大丈夫?」
「ああ。平気だ」
 かろうじて、声を出したがかすれてしまう。
 ルチアや先生がずっとオレに、フィオナ……依頼主となれ合うのは止めろと言っていた。さすがにここまで予期していたわけじゃないだろうが、必ず訪れる別れを思って言ってくれてたんだと、今更気づく。
 確かに、これは結構くるものがある。
「さ、二人とも、一旦船に戻ろう」
 先に歩き出していた先生に呼ばれて、オレとルチアは歩き出す。
 来るときは警戒していためか、三十分がすごく長く感じたが、船に戻るときはあっさりと着いてしまった。
 ただ、ここでオレたち全員が、神殿に行くときにはなぜあれほど警戒していたのかを忘れていたことに気付く。
 フィオナから聞いた話があまりにも壮大過ぎて、そっちに気を取られ過ぎていた。
 そう。問題は何一つ解決していなかったのに。
 なぜ、この星に人が誰もいなかったのか。
 それは船の前に行ったときに、分かることになった。

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