【Web小説】龍と姫と聖剣エクスカリバー⑮

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 先生とおっさんの死体をベッドへ運び、議事堂へ連絡を入れる。
 ジーノの船が星を出たことで、通信が可能になった。
 ヴィジョンを使う十英雄の意思を継ぐ者に襲われたこと、応援として派遣された騎士が殺されてグングニルを奪われていたこと、先生が殺されてエクスカリバーも持っていかれたこと、そして、フィオナも連れて行かれたことを報告した。
 議事堂はすぐに五人の騎士を招集し、政府の正規軍をディスファニーに派遣することを決定。オレたちには、この場で待機が命じられた。
 騎士が二人殺されて、議事堂はようやく重い腰を上げたが……恐らく、手遅れだろう。
 ジーノは自分たちが飛び去った後、議事堂に連絡することは想定している。
 その上でオレたちを見逃した。ということは、例え、十人の騎士と政府の全軍に攻められても勝てる自信があるということだろう。
 議事堂が今からどんなに急いだところで、ディスファニーに到着するのに三日はかかる。
 ジーノはフィオナを使った儀式は半日で終わると言っていた。つまり、古のドラゴンを復活させて向かいうつのだろう。
 事態は議事堂が考えているよりもずっと深刻だ。
 恐らく戦争になる。そして……政府は負ける。
「大丈夫?」
 石の上に座って夜空を眺めていると、ルチアが隣に座って身を寄せてきた。
「ん? 何がだ?」
「仕方なかったと思う。ボクたちじゃ、どうしようもできなかった」
「ああ。そのことか」
 ルチアに言われるまで、命乞いをしたことを忘れていた。……いや、違うな。忘れようとしていた。わざと考えないようにしていただけだ。
 不意にフィオナの後姿がフラッシュバックする。
 同時に心臓の鼓動が高鳴っていく。
 オレは……自分が助かるためにあいつを……見殺しにした。
「あとは議事堂がなんとかしてくれる」
 ルチアがオレの手をそっと握ってくる。
 暖かい。
 今の冷えた体と心には、この温もりは反則的過ぎた。
 反射的にルチアを抱きしめる。
「ルチア……。オレは……。オレは……」
 自然と体が強張り、ルチアをキツク抱きしめてしまう。
 苦しいだろうとわかっているのに、離せなかった。この温もりが消えてしまったら、狂ってしまう。そんな気がしていた。
 そんなオレに、ルチアはポンポンとオレの背中を優しく叩いてくれる。
「大丈夫。大丈夫だから」
 ルチアの優しい声に、無意識に涙が溢れてくる。
 嗚咽が混じり、ついには声を出して泣き出してしまう。
 オレが泣き止むまで、ルチアはずっとオレの頭を撫でてくれていた。

 空には星が輝いている。
 横に寝ているルチアが「綺麗」と呟く。
 確かに寝転がって空を見ていると、本当に星が近くて掴めそうな感覚がする。
 ……だけど、あいつと……フィオナと見たディズの星空の方が綺麗だった気がした。
「エリク。クザール星に行かない?」
「……なんだよ、急に」
「前に言ってた。新婚旅行でクザール星に行きたいって」
「ああ。そんな話、したな」
「うん。だから、行こう」
「……騎士の任務はどうすんだよ?」
「……」
 オレの問いにルチアは何も答えない。先生が死んだ今、オレたちは騎士見習いですらなくなる。
 基本、騎士は自分で弟子を決める。その騎士が死んだとき、違う騎士の弟子になることはほとんどない。それぞれ、重視する才能も違うし、何より他の騎士から学んだ弟子を引き継いで育てるくらいなら、新しい人間を見つけた方が早いからだ。
 恐らく、オレたちは議事堂からヴィジョンの能力を封じられ、下手をすると記憶を消されるだろう。
「なあ、ルチア。これから……お前はどうする気だ?」
「ボクは……。エリクについていく」
「お前は、そればっかだな」
「そう。これからもずっと」
 そう言って、さらに体を寄せてくる。
 ルチアとこれからも、ずっと一緒か。なんか、それもいいかもと思う。
 何もかも忘れて、遠い星で、二人でひっそりと暮らす。そんな生活も悪くないかもしれない。
「冒険家もいいと思う」
「え?」
「色々な星に行く。エリクと一緒なら、きっと楽しい」
「そう……だな」
 と、そのとき、心臓が大きく脈打つ。
『私、お父さんの跡を継いで冒険家になりたかったのよね』
 不意にフィオナの声が頭の中で響いた。
『あなたには心底失望したわ。護衛、失格ね』
『二度と私の前に顔を見せないでちょうだい』
 胸をかきむしりたくなるような、口惜しさと後悔の念。
 フィオナはオレたちを助ける為に、進んで犠牲になった。
 別れ際、あんな突き放すようなことを言ったのは、きっとオレたちが後を追わない為。
 オレが恐怖に震えている間にも、あいつはそこまでオレたちのことを考えてくれていた。
 フィオナの笑顔。いじけた顔。すねた顔。人を馬鹿にしたような顔。
 様々な表情が脳裏に浮かんでいく。
 気分が沈んでいくのが自分でもはっきりとわかる。
 この先の人生、ずっとこんな気持ちでいきていかないとならないんだろうか。
 何かきっかけがあるたびに、フィオナのことを思い出し、そのたびにこんな気持ちを味わい続けることになる。
 ……嫌だ。
 そうか。本当にオレは最低の人間だということを今、完全に理解した。
 結局、オレはいつも自分のためだけにしか生きてこなかった。
 フィオナのペンダントを取り返しに行ったのだって、あいつに怨まれるのが嫌だったから。拾いにいかなかった自分を責めたくなかったからだ。
 ジーノに命乞いをしたのだって、自分が殺されることよりもルチアが死ぬという現実に耐えきれなかっただけだ。
 ……オレは死ぬことよりも、嫌な思いをすることの方が怖い。
 つくづく変な人間だ。だけど、こんな人間に生まれてしまった……育ってしまったのだからなんとか折り合いをつけて生きていかなければならない。
『これは命令よ! 私と友達になりなさい!』
 なるほど。そういうことか。なんてことない。もう、オレの中で答えは出ていたのだ。
 友達を見捨てたという思いのまま、生きることに耐えられない。
 何よりも守りたかったもの。それは自分の気持ちだった。
 そのことに気付いた瞬間、今までの重く不愉快な気分が嘘のように引いていく。
 それなら、やるべきことは決まっている。
 オレはルチアの頭をそっと撫で、目を瞑ったのだった。

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