【Web小説】龍と姫と聖剣エクスカリバー⑤

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第2章
「エリク。肩が凝ったわ。揉みなさい」
「……」
「何よ。そのジト目は? このチャンスを逃したら、こんな美少女に触れる機会なんて一生ないわよ。今回は特別にタダで揉ませてあげるって言ってるのだから、喜んでやりなさいよ」
「お前は肩を揉ませた上に、次回からは金をとる気なのかよ」
宇宙船の中。リビングにはオレ、フィオナ、ルチア、バリス先生の四人がいて、一つのテーブルを囲んでいる。
昼食を食べ終わると、フィオナが何の前触れもなく、傍若無人なことをおっしゃってきた。
「……まったく。お前は本当に我儘な奴だな。王族だから仕方ないのかもしれねーけど」
「あら、心外だわ。私は王族だから我儘なわけじゃないわ。私だから我儘なのよ」
「もっと最低だよ。って、我儘を言ってるって自覚はあるんだな」
「その命令は、例えクライアントでも受け入れるわけにはいかない」
食べ終わった皿を重ねながら、唐突にルチアが口を開いた。
「お、ルチア。いいこと言うじゃねーか。もっと言ってやれ」
「なぜなら、エリクが触れて良い異性はボクだけだから」
「あ、ごめん。やっぱり黙ってくれ」
「あーあ。流石に丸一日、ずっと船の中っていうのは飽きるし、体が鈍るわね」
オレをおちょくるのが飽きたのか、フィオナは椅子の背もたれに寄り掛かり、後ろに大きく伸びをする。
ルチアはフィオナがオレに肩を揉ませることを諦めたのを確認して、皿を持ってキッチンルームへと向かう。
バリス先生はプルプルと震えて、生まれたての小鹿のように弱弱しく立ち上がると、リビングの端にあるソファーへと歩き出した。恐らく、全身の筋肉痛で話をするのも辛いのだろう。昨日からずっとこんな状態だ。
「それにしても、意外だよな」
「何がよ」
オレの言葉に、フィオナはのけ反っていた体を起こし、正面に座るオレの顔にグッと顔を寄せてくる。
不意にフィオナの顔が迫り、少しドギマギしてしまう。
……確かに美人なんだよなぁ。言ったら絶対に調子に乗るから言わねーけど。
そのとき、ルチアがキッチンからマグカップを三つ、盆に乗せて戻ってきた。
それぞれ、オレとフィオナの前に、そして自分の席にマグカップを置く。
カップの中はコーヒーが入っている。ルチアとフィオナはブラックだが、オレのにはミルクがたっぷり入れてある。
オレはルチアに「サンキュー」と呟き、コーヒーを啜りながら、早くなった鼓動を落ち着けていく。
「いや、肩が凝ったとか、宇宙船の中にいるのが飽きたとか言う前に、絶対、飯の文句を言うと思ったんだけどな」
デボンで買い出しをしたと言っても、二週間分の非常食に近い、なんとも質素な缶詰のようなものばかりだった。
一応、バリス先生やルチアはフィオナに気を使って、多少は贅沢なものを買おうとしたらしいが、ほとんど高級な品は売っていなかったみたいだ。
さらに龍石の補給もままならなかったようで、天井に付いている龍石の玉からは、もう微弱な光しか出ていないが取り合えることもままならない。
消耗品である龍石の補給ができなかったのはかなり痛い。オレたちを襲ってきたドラゴンからは龍石は採れたが、あれはあくまでも原石。加工しなければ使えない。
そんな経緯もあり食料も質素なものしか買えなかかったが、護衛期間は一週間なので、何とか説得しようと考えてみたいだ。
ただ、フィオナは出された食事に一切文句をいうことはなかった。
「なんだ、そんなこと。あ、ルチア、コーヒーありがとうね」
フィオナは寄せていた顔を話、再び背もたれに寄り掛かってコーヒーをチビチビと飲み始める。
「私は逆に感謝してるくらいよ。庶民が食べてるものに興味あったしね」
「いや、これが通常食ってわけじゃないんだけどな」
「どんなに不味くっても、慣れないといけないなら慣れなくっちゃ」
「ん? 別に慣れる必要はないんじゃねーの? 遅くても十日後には即位式がある星に着くんだから」
「え? あ、そ、そうね」
なぜかフィオナは慌てた様子で、カップを持ってコーヒーをすすり始める。
「まあ、体が鈍る件も、もうちょい待ってくれ。今日中には修理も終わるはずだから」
ジーノたちに仕掛けられた爆弾は、船の軌道をコントロールする部分とエネルギー部のところを破壊した以外は、ほとんど機体を傷つけることはなかった。
それでもコントロール不能になった船を、ルチアが何とか立て直し、デボンよりも辺境の星、ディズへの不時着に成功した。下手をすると、宇宙空間をさまようところだったので、本当にルチアには感謝だ。
それを言うと、とんでもない見返りを求められるので、口が裂けても言えないのだが。
こうやって考えてみると、オレって結構、言動に制限がかかっている気がする。
「ねえ、修理は一日延びてもいいから、外に散歩に出てみない?」
フィオナがクイッとコーヒーを飲み干してカップをテーブルに置いて、ニッと笑う。
また、好奇心旺盛のフィオナの我儘な発言が始まった。
オレはコーヒーを飲みながら、チラリとソファーに寝ているバリス先生を見る。
「んー。どうだろうな。さすがに奴らは追ってきてないと思うけど……。バリス先生はどう思います?」
「問題は奴らの目的……だろうね」
ゆっくりと起き上がるバリス先生は動くたびに「痛てて」と小さく呟く。
「決まってるわ。私の暗殺よ。あの愚弟……いや、アドネの方かな。とにかく、あのジジイたちが考えそうなことだわ」
ふん、と鼻を鳴らして腕を組み、口をへの字にするフィオナ。
先代のカライオの王であるフィオナの母親には継承権を持つ子供が二人いる。
一人はオレの目の前にいる我儘女、フィオナで、もう一人はフィオナと七つ年が離れている王子だ。
詳しくは分からないが、今、反フィオナ派というより弟派というのが暗躍していて、フィオナを王位継承権から引きずり下ろそうとしているらしい。
さっきはフィオナが王女になった後の国民が可哀想とは思ったが、暗殺という過激な方法は正直気に食わない。
「俺も最初はそう思いましたけどね。暗殺が目的というなら、仕掛けた爆薬の量を増やし、船を破壊させたはずです」
「火薬の量をケチったのよ。どうせ」
肩をすくめて、呆れたようにため息をつくフィオナ。
「いや、それはねーだろ。爆薬ケチるって、どんな暗殺者だよ」
「完全にわざとでしょうね。奴らはプロです。暗殺者としても、戦士としても」
それは、直接戦ったバリス先生が一番わかっているのだろう。バリス先生と戦闘をして生き残った人間は初めて見た。それだけでも驚愕に値するのに、その上、あいつらはヴィジョンを使ってきている。
「先生の言う通りだとして、船を大破させなかったのは意図的だとしても、その目的がまったく理解できませんね」
「エリクには少し難しい問題かもしれないね。政治が絡むと、ただ単に邪魔な人間を消せばいいというわけじゃない」
「え? えーと……」
「つまり、現在、反フィオナ姫派は名言してないにしても、その存在は認識されている。そんな中、即位式で姫が暗殺者に殺されたとなった場合、当然、国民は反フィオナ姫派を疑う。仮に彼らが本当に絡んでいなかったとしてもね」
「まあ……そうでしょうね」
頭がこんがらがってきた。他の二人は分かっているのか気になり、視線を送る。
フィオナは興味なさそうに頬杖ついて、ボーっと天井を見ていた。
ルチアの方はというと、両手を膝の上に置いて、ジーッとオレを見つめている。
無表情で。
小さい頃はそんなルチアに底知れぬ不気味さを感じたものだが、今ではすっかり慣れっこだ。
……結論を言うと、二人とも先生の話を聞いていなかった。
少しでも期待した自分を呪いながら、先生に話の先を促す。
「フィオナ姫がいなくなった場合、当然、継承権は長男である姫の弟に移る。でも、国民的には暗殺を行うような輩が国のトップに立つのを潔く思わない。そうなってしまうと、血筋を辿り、無理やり継承権のあるものを探し出す――もしくは、作り出すなんて連中も出てきかねない」
「……な、なるほど」
「もし、新たに継承権を持つ人間が出てきてしまった場合、返って反フィオナ派は実権を握りづらくなる。それでなくても、暗殺の容疑が国民の意識の中にあるんだからね」
「それと今回の爆薬がどう結びつくんです?」
「恐らく、奴ら……反フィオナ姫派の人間は、まずは姫の誘拐を考えているんだろうね」
「……誘拐?」
思い出してみれば、ジーノは『生きていればいい』などと言っていたし、フィオナを殺そうとは全くしていなかった。
「消息不明であれば、疑いはかかるが、そこまで国民の心を逆撫でしない。姫の安否の方に意識を向けさせることもできるしね。そうして、数年経った後、長男の方に王位を継承させる……という策なんだろう。まあ、そうだとしても、色々と疑問が残る部分もあるけどね」
「また、いつジーノに襲われてもおかしくないってことですよね? 既にこの星に着いてるかもしれない……」
「この星にいるかもしれないけど、すぐに襲ってくることはないと思うよ」
「え? どうしてですか?」
「奴らも回復の時間が必要なはずだからね」
バリス先生はサラリとした口調だったが、それに対してオレは度肝を抜かれて慌ててしまう。
「奴……『ら』、ってどういうことですか? 一人はバリス先生が……」
「残念だが、倒せていない。手ごたえが軽かった」
「じゃあ、また、二人でやってくるわけですね」
急に不安が襲ってくる。ジーノだけであれば、まだ何とかなると……先生がいるから大丈夫だと、どこかでタカをくくっていた。
だけど、二人でくるということはジーノをオレとルチアで対処しなくてはならない。
圧倒的な強さを誇ったジーノを、だ。
「そこまで心配しなくても大丈夫だよ。三日後には一隊増員が来る。しかも、奴らの傷の完治には五日はかかるはずだからね」
「そ、そうなんですか……」
情けないことに安堵してしまう自分がいた。もう一隊来るなら、オレたちの隊で老騎士を、増員で来る隊でジーノを抑えてもらえばいい。
「じゃあ、五日間は逆に安全ってことね?」
今まで興味なさそうに黙って聞いていたフィオナが、急に目を輝かせ始めた。
……とてつもなく嫌な予感がする。
「散策に行くわよ!」
バンとテーブルを叩いて立ち上がり、拳を握ったのだった。

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