【Web小説】龍と姫と聖剣エクスカリバー⑥

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いくらジーノたちが襲ってくる確率は低いと言っても、わざわざ街に出て危険な思いをすることもない。
だが、フィオナを論破できず、というか全くこちらの言うことを聞こうとしない上に、これ以上船に監禁するようなら暴れると脅され、仕方なくバリス先生も折れたのだった。
逆に人ごみにいる方が見つけづらいということもあり、オレとルチアの護衛付という条件で街に行くことを了承したバリス先生。
不時着した星、ディズは、かなりの辺境の星で文明が千年以上遅れているらしい。
船の修理を自分たちでやっていたのは街の人たちを巻き込みたくないという理由もあるが、そもそも直すことができる技師がいないためだった。
だけど、文明の遅れは街の活気とはまた別の話で、街の中は活気に満ちていた。
「ほらほら、エリク。見て見て! あれは何かしら!」
ディズの主要都市の中の一つ『キュベレー』には、十万人が住んでいると言われている。そんな都市が、あと二つある以外にこの半分くらいの規模の街が五個あるらしい。
星の割合からすると八割の場所が未開拓地で、近くの星の企業が目をつけていると聞いたことがある。
文明が遅れているといっても、道は赤レンガの石畳で綺麗に舗装されているし、家も木造でありながらバランスが取れた装飾が入り混じって、見ていて飽きないほどの煌びやかで色の濃い家が多かった。
見渡すと、家の壁の色を塗り直している最中のものも数件あった。おしゃれな人間が多いみたいだ。
その中で一際目を引いたのは、街の中心にまるで天空から巨大な槍が落ちてきて刺さったかのような高く白い塔。
円柱型で半径一キロ、高さ五百メートルといったところか。壁には窓はなく、天井部に展望台のようなものがある。
灯台か何かなんだろうか。海ではなく山に囲まれている街なので、山から見ての目印なのかもしれない。
気候も暑すぎず、半袖であれば十分涼しいくらいだ。
フィオナの格好も、さっきまでのドレス風の煌びやかなものではなく、ノースリーブでシンプルな白のワンピースに小さな青い宝石のアクセサリーがついたネックレスをしている。
オレは鎧を脱ぎ黒のTシャツに八分丈の灰色のハーフパンツ。ルチアも同じように鎧姿ではなく白のワイシャツに、チェックのミニスカートだ。
街の人たちも民族服のように統一されているわけではなく、色々な服装をした十代から二十代の男女がたくさんいる。
昼なのに、この学校に行っているであろう年代の人たちがいるってことは、今は昼休みか、今日が休日なのか……。
街の大通りの広い道には馬車が行き交い、道を挟むように露店が立ち並んでいる。
露店の前にも人が溢れ、雑踏が響く。
「おい! あんまり先に行くなよ!」
人々を縫うようにして歩くが、なかなか進めない。というのも……。
「エリク。迷子になるんだから、手を離さないようにね」
後ろを歩くルチアがオレの手をがっちりと掴んでいるから、思うように歩けないのだ。
確かに人がごった返しているけど、はぐれるほど子どもではない。それに、万が一でも離れていけないのはフィオナの方で、どちらかというとオレよりも、フィオナと手をつないでいて欲しい。
だが、何度言っても、そこは譲ってくれないので諦めた。
「ねえ、おばちゃん。これってなに? 食べ物なのかしら?」
「あらあら、お目が高いわね。これはね……」
追いついてみるとフィオナが店番をしている女の人と談笑していた。
フィオナのこんな自然な笑顔を見るのは初めてだった。先生やルチアと話すときはどこか距離をおいたような、若干張りつめたような表情をするし、オレと話すときは完全に見下したようなバカにしたような視線を送ってくる。
今のフィオナは年相応の、どこにでもいるような女の子のようにはしゃいでいた。
……いつもこうしてれば、可愛いのにな。勿体ない。
などと考えながら見ていると、不意に右手の骨が音を立てて砕けた。
ヴィジョンを使い、握力を上げたルチアがオレの右手を握りつぶしたのだ。
「ぐおっ!」
激痛に悶えながら振り返ると、無表情のルチアがジッとオレを見ている。
「お、お前……なにを……?」
「不純」
「な、何がだよ……」
浮かんでくる涙を左手で拭いながら、激痛の中、ヴィジョンを発動させる。
最近、骨が折れることが多いよな。
数秒で痛みが引き、回復してきたということは、恐らくルチアの方でもヴィジョンを使ってオレの治癒力を上げてくれているのだろう。
治すくらいなら、最初から痛めつけないで欲しい。
「ふふふ。まけてもらっちゃった。って、何やってるの、あなたたち」
紙袋を持ったフィオナが戻ってくると、呆れたような目でオレたちを見てくる。
「な、なんでもない。それより、あんまり一人で先に行くなよ」
「別にいいじゃない。あいつらは襲ってこないんだから」
「そうは言っても、何があるかわからんだろ」
「そのときは、あなたたちが何とかしてくれるんでしょ? 期待してるわ」
ポンと肩を叩かれる。そう言われてしまうと、頷かざるを得ない。それでなくても、デボンの星ではオレはほとんど護衛として役に立っていないんだから、そろそろ良いところを見せておかないと。
「そろそろ帰った方がいい。修理もまだ終わっていないし」
「はあ? 何言ってるのよ。これからが本番じゃない!」
ルチアの言葉に眉をひそめるフィオナ。
さすがに今から帰るのは少し早いとは思うが、ここからが本番という感覚はなかった。
「まあまあ。昼飯食って、一時間くらいブラブラして帰ろうぜ」
「あんたまで……意味がわからないわ。街は夜の方が楽しいって母様も言っていたし」
「……なんで、女王が夜遊びを推進してんだよ」
「ねえ、ルチア。夜に外で一緒にいる男女は高確率で恋人になれるらしいわ。母様も、それで落としたって言ってたもの」
「……」
ビクリと体を震わせ、電池の切れた時計のようにピタリと動きを止めるルチア。
「あのなぁ、フィオナ。ルチアを仲間に取り入れようたって無駄だぞ。大体、ルチアはそういう恋愛感情には疎いからな」
「なるほどね。ルチアが本当に可哀想だわ」
やれやれと呆れたように肩をすくめられる。一体、なんのことかわからず、どういうことか問いただそうとしたとき、クイクイと袖を引っ張られた。
振り向くと、ルチアが無表情でジッとオレを見上げている。
「夜まで街にいよう」
「なんでだよっ!」
なぜ、頑固といってもいいくらいのルチアがフィオナ一言で懐柔されたのか。船にいる男はオレとバリス先生しかいないのに。
まあ、とは言ってもルチアも年頃の女の子だ。そういう話題にも弱いのだろう。
完全に二対一という状況になり、さらに発言力の割合でいうと九対一になってしまったので、オレとしては白旗を上げるしかない。
ジーノたちさえ現れなければ、例えドラゴンが出たところで何とかなるだろう。今はルチアもいることだし。
ということで、しょうがなく折れようとしたところに、店のおばちゃんが心配そうな表情でオレたちに話しかけてきた。
「あんたたち、ここの星の人間じゃないようだけど……。悪いことは言わないから、日没までには宿か船に帰った方がいいよ」
「大丈夫よ。私の護衛の、この子、とっても強いんだから。変態の一人や二人、すぐに半殺しにできるわ」
フィオナがニコリと笑って、右手の親指を立ててルチアを指す。
……護衛にオレは入っていなかった。Eランクのドラゴンに負けたオレは、フィオナの中では護衛として認識されていないようだ。代わりに、変態の部分でチラリとオレの方に視線を向けたところから、そういう扱いなんだろう。
なぜ、そうなったかはわからないが。
「立ち振る舞いかしらね。そこはかとなく、変態の気を感じるわ」
「……心の中を読むのは止めろ。それに、そこはかとなくって、どうしようもねえじゃねーかよ」
「ええ。どうしようもないわね」
「……お前な」
店のおばちゃんは辺りを見渡し、戸惑いの表情で声をひそめる。
「この辺りというか……この星はここ十年で一気に開発されたのよ。そりゃ、景気の方も良くなったんだけどねぇ……。でも、その歪もあるのよ」
「歪……ですか?」
「とにかく、夜になる前に帰るんだよ」
そう言い残して、おばちゃんは店の奥に入ってしまった。
「……フィオナ。どうする?」
「お昼ご飯を食べながら、ゆっくり考えましょ」
「諦めてはいねえんだな」
腹が減っていたということもあり、オレたちは手ごろな店に入り、少し遅い昼食をとることにしたのだった。

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