【Web小説】トーテムポールと学校の七不思議⑦

【Web小説】トーテムポールと学校の七不思議⑦

次の日の朝。
掲示板の前に、パラパラと人が集まり貼ってあるものに目を向けている。
「や、やれば、で、できるじゃない! そうそう。私、佐藤くんなら、ちゃんとやれるって信じてたんだ。だから、敢えて厳しい試練を与えたってわけ。ほら、生徒の全力を出させるように促すのも生徒会長の役目だからさ」
元気とポニーテールがトレードマークの生徒会長が頬を引きつらせながら、掲示板に張り出された新聞を遠くから眺めている。
女ながらも敏腕……とはお世辞にも言えない、この生徒会長は人望だけでこの地位まで上り詰めた人だ。
いや、人望というよりは自然と人に好かれるような、そんな人のように感じる。
ほぼノリで生徒会の仕事をこなし、その尻拭いに追われているという生徒会執行部。
それでも、この人を生徒会長から降ろそうなんて声は聞いたことがない。
今回のことだって、大して僕のことを調べもせずに、あんな条件を出してきたのだろう。
僕が記事を書くだなんて、まったく考えてもいなかったみたいだ。
……まあ、一年以上、記事を一つも書いてなかったのだから当然かもしれないけど。
ただ、布姫が言ったように三行の文章で「記事だ!」とごねることだって可能だったはずだ。
だけど、自然と僕はちゃんと記事が書けなかった場合は、あの部室を明け渡そうと思っていた。
そういうところがこの人の凄い所であり、生徒会長になれたのだろうと思う。
「結構、盛況じゃない。次の記事も期待してるわ。……さてと、オカルト改革推進部の部室の宛を探し直さないと。もう一度、隅々まで校内を見て回ろうかしら」
顎に手を当て、思案顔でテクテクと歩き去っていく生徒会長。
オカルト改革推進部って……。僕たちの新聞部の部室はそんな怪しい部に取られるところだったのか。危ない、危ない。
僕もそろそろ教室に戻ろうと振り向く。
「部室は取られずに済んだみたいね」
いきなり目の前に現れたのは、眼の下にクマがくっきりと浮き出ている布姫だった。
あの後、僕は部室で、布姫と水麗が爆睡する中、一人で記事を書きあげた。
内容はというと、さすがにねつ造したものを書くのは気が引けたので、本当のことと濁した言葉で誤魔化すような、結局何が言いたいのかわからないような、そんなフワッとしたものを書いたのだった。
「まあな。これで、当分は心配しなくていいんじゃねーかな」
「ふうん」
対して興味もなさそうに、布姫は掲示板の方を見る。
まだ授業までは時間があるにしても、足を止めて僕の記事を見てくれている生徒がいて、それを見て何事かと、他の生徒も足を止めていた。
「で? どうかしら?」
「なにがだ?」
「記事を書いてみて」
「うーん。すっげー、辛いし、面倒くさいし、何度も投げ出したくなったけど……書き終えた時の達成感は、なんとも言えねーよ」
「そう。良かったわね」
布姫がふふ、っと優しく笑みを浮かべる。
「それに、こうやって書いたものを他の人に読んでもらえるっていうのも、なんか嬉しいよな」
「あらあら、随分と天狗になっているようね。いい? 人の感想というのは残酷よ。自分が見たくもない聞きたくもない、批評がくることだってあるわ」
「わ、わかってるさ」
「そうかしら? 作家って、かなり精神的に強くないとやっていけないわよ」
「か、覚悟してる」
「なら、私が放課後にでもダメ出ししてあげるわ」
「お、お前の毒舌なら慣れてるから大丈夫だ」
「うふふふ。楽しみだわ。覚悟を決めた人間の心をへし折る。こんなに楽しい娯楽は無いわ」
「お前は悪魔かっ!」
しゃれにならん。本当に、こいつならどんな強固な心の持ち主であろうとたやすく、シャープペンの芯を折るくらいの感覚でやりそうだ。
「お、お手柔らかに……」
「死にたくなったら言ってね。楽に死ねる方法を一緒に考えてあげるわ」
「知ってるんじゃねーのかよ! しかも、お前、死ぬ方法を探すプロセスも楽しむつもりだろ!」
「ああ、ゾクゾクしてきたわ」
髪を口の端で噛み、恍惚の表情を浮かべている。
「お前、絶対、将来犯罪者として新聞に載りそうだよな」
「あら、馬鹿にしないでくれるかしら」
「ん? 善悪の区別くらいは出来てるっていうのか?」
「捕まるようなヘマはしないわ」
「そっちかよ!」
こいつなら、やり遂げそうで本当に怖い。
「号外! 号外ーー!」
水麗がバタバタと両腕を振り回しながら、走ってくる。
「いや、水麗。人がせっかく、新聞部初の記事を書いたのに、それを打ち消すようなことをするなよ」
「二人とも、ちょっと来て!」
僕と布姫の腕を掴み、いつにも増して強引に引っ張る水麗。
「お、おい! 危ないって!」
「まずは何があったのか話してくれないかしら」
「百聞は一見にしかずー!」
スピードを落とすことなく、中庭に出るドアを蹴って開け、上靴のまま外へと飛び出す。
僕らも当然、そのまま地面へ出る。
入るとき、靴の裏を拭かないとなぁ、などと考えていると、水麗がピタリと立ち止まった。
校舎の裏側にある妙なスペース。
そこは……そう、願いが叶うという不思議なトーテムポールがある場所だ。
まあ、トーテムポールと言っても、ただの四角い木の柱が刺さっているだけなのだけど。
「見て! これ!」
水麗が地面すれすれの下の方を指さす。
そこには何か、顔のような模様が掘られている。というか、本来はこういうのが、たくさん彫られているのが、トーテムポールのはずだ。
「ね? 模様が浮き出てるんだよ! 不思議だね!」
興奮気味で僕の袖を掴んで、ゆすってくる。
脳も揺れるから、止めて。
「元々掘られてたんじゃないのかしら? 昨日は暗かったし、見落としただけなのかも」
布姫がなんとも、現実的で夢をぶち壊すようなことを口にする。
……僕もそう思ったけど、言うなよ。
「ふっふーーん! そ、れ、が、違うのでしたー!」
両手を腰に当て、ぐいっと胸を前に逸らす。
うわっ! すげえ胸が強調されてる! デカい! こ、こいつ、化け物かっ!
「死にたい?」
ヌッと僕の前に顔を出す布姫。その眼は虫のように冷たく残酷な色に包まれている。
なぜ、お前が文句を言う?
「これ、昨日の写真!」
水麗が制服の内ポケットから一枚の写真を出した。
……いつの間に現像したんだろか?
とにかく、僕らはその写真を受け取って、覗き込んでみる。
フラッシュをたいていた為、あの暗さでもはっきりと映っていた。
確かに、今、模様が浮き出ているところには何も掘られていなかった。
「どういうことかしら? 昨日の夜、誰かが慌てて掘った、とか?」
「なんでこのタイミングなんだよ。それに、慌てる意味がわからん」
「ほら、本当はちゃんと掘るつもりだったけど、面倒くさくなって、まあ、どうせ誰も見ないしこのままでいいやって思ってたのに、見つかっちゃったから慌てたとか。佐藤くんみたいに」
「なぜ、最後に僕の名前を出した!?」
確かに、その状況だと僕と同じ感じだが。
「そこで、わたしは一つの仮説を立てたのでした」
人差し指を立て、したり顔をする水麗。
「新たに出てきた、この模様。何かに似てると思わない?」
「ん? 何かに?」
水麗に言われて、改めてマジマジと見てみる。
目らしきものが二つに、大きな口。……人間の顔? それにしては、なんか違和感がある。でも、最近、こんなのを見たような気が……。
そこで、僕はハッとした。
「河童……?」
「正解っ!」
布姫のつぶやきに、水麗がビシッと両手の人差し指を差す。
「河童? 河童……かぁ?」
もう一度、よーく見てみると、口がひし形になっている。これが口ばしに見えなくもないけど……。少し強引な気もする。
「で? 河童だから、どうなんだ?」
「チッチッチッ! 佐藤くんはまだまだだねぇ。昨日、わたしたちは河童に会ったよね?」
「ん? まあ、会ったって言えば会ったけど、未だに信じられねえぞ?」
「もしかしたら、体を緑に塗った、フィン(足ヒレ)を着けた子供かも知れないしね」
「ごめん。そっちの方が信じられねえ」
「んー。そこまで言われちゃったら、ちょっと自信なくなっちゃったんだけど……わたしが捕まえたのは子供じゃなかったと思うんだけどなぁ」
少しだけ、困った顔をした水麗がしゃがんでトーテムポールの模様を見る。
「でもさ、こう考えてみたらしっくりこない?」
ちょんちょんと、人差し指で河童の口ばしの部分を突いている。
「事件を解決したから、一つ開放された……」
「解決? 開放?」
水麗がバッと立ち上がって、ビシッと僕たちに指を差す。
「わたしたちは、学校の七不思議の謎を一つ解いた。そのご褒美として、トーテムポールに模様が一つ浮き出てきたの。これを上まで集めたら、願いが叶うんじゃないかな?」
「……ちょっと飛躍し過ぎじゃないか?」
「そうね。それなら夜に佐藤くんが、私たちを楽しませるために掘った、という方が、真実味があるわ」
「ねーよ! 昨日の夜はずっと一緒にいたじゃねーかよ! それに、お前たちを楽しませるために、僕はそこまで体を張らない!」
「張りなさいよ」
「なんでだよ!」
「まあまあ、二人とも。わたしもまだ半信半疑なんだけどさー」
水麗が僕と布姫の間に入ってくる。
「……半分は信じてるんだ?」
「とにかくさー、もう一個やってみない?」
「もう一個?」
布姫がリスのように首を傾げた。
「学校の七不思議。もう一つだけ調べてみて、検証するってどうかな?」
「えー、面倒じゃないか?」
「そうね。夜は眠くなるし」
「でもさー。七不思議を調べるってことは、また学校にお泊りできるってことだよ?」
「……いや、忍び込んだだけで、正式な許可はもらってないけどな。その理由で貰える気もしないし」
あまり乗り気でない、僕とは裏腹に布姫の目が鋭さを増した。
「面白いわね。やってみましょう」
「は? お前、眠くなるって言ってたじゃねーかよ!」
「昼間寝ればいいじゃない」
「昼は授業中だ!」
「文句は言われないわ。佐藤くんと違ってね」
「ぐっ!」
悔しいことに、布姫は成績が良い上に先生受けもいい。例え、授業中に寝ていたとしても注意されないだろう。というか、そもそも、寝てる事にすら気づかれないように細工しそうだ。
「それに、佐藤くんはもっと書くということをしないとダメよ。だから、ドンドン、記事を書きなさい」
「そうそう。もしかしたら、活動をアピールしたら用務員室も部室として使えるようになるかもしれないよ?」
「さすがにそれは無理だろ」
用務員のお姉さんはどうするんだよ。
「さすがに毎日というのはキツイから、週に一回にしましょう」
「それなら金曜日とかの方がいいかもね。次の日休みだし」
「そうね。そうしましょう」
「待て! 部長の僕を差し置いて、大事なことを決めるなっ!」
「じゃあ、佐藤くん。金曜の放課後から、取材合宿をするから、そのつもりで」
「……」
僕の抗議の声はあっさりと却下される。いや、聞いてもくれなかった。
なんだかよくわからないが、こうして、僕たち新聞部は学校の七不思議を調べることになったのだった。

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