【Web小説】トーテムポールと学校の七不思議㉑

【Web小説】トーテムポールと学校の七不思議㉑

夜の八時。
ようやく外が暗くなり始める時間。とはいえ、校内には生徒はまったくいないので、シンと静まり返っている。
部室内には既に四人と一匹が集まっている状態で、取材前の肩慣らしであるトランプに興じていた。

……犬はさすがに参加してないが。

「そういえば、増える鏡って、場所はいつも同じなの?」

「はい。そういう噂です。あ、達也さん、それダウトです」

「げっ!」

僕の気を紛らわし作戦は失敗し、見破られてしまったので場に出ているトランプを手元へと持ってくる。

「達っちん、分かりやす過ぎ」

「弱者をいたぶるのは、本当に楽しいわね」

「お前、かなり最低発言してるからな。わかってるのか?」

「私の中では最高だからいいのよ」

「はいはい。そうですか」

「はい、は三回よ」

「一回だろ!」

この合宿取材も、要所要所に変わった事件があるが、慣れてしまったせいか最近は少々だらけている気がする。
なんだかんだ言って、三十分もトランプに費やしてしまい、慌てて取材を始める為に廊下へと出た。
真夏とは言え、九時を過ぎれば外は完全に暗い。
もちろん、電気をつけるわけにはいかないから廊下も薄暗くて不気味に見える。

部室にいるときは余裕だった布姫も急に腕を組んできた。
それにつられるように水麗も寄り添ってくる。
唯織ちゃんはと言うと、僕の背中にぴったりとくっついてきた。
パッと見、女の子に囲まれている状態になっていて、少々歩きづらい。

「そういえば、場所って聞いてなかったよな? 鏡が増えるところの」

「あ、すいません。言ってませんでしたね。……えっと、屋上へ行くための階段のところらしいです」

「そんなマニアックな場所かぁ……」

他の学校もそうであるように、うちの学校でも屋上への立ち入りは禁止されている。
屋上へ出る扉は鍵がかかっているので、忍び込もうとする生徒もいない。
だから、その場所には全くと言っていいほど人が寄り付かないのだ。

「前から、ずっと気になってたんだけどさー」

今度は水麗がつぶやくような独り言のような小さな声を出す。

「七不思議の噂って、誰が流してるんだろうね」

「……ああ、言われてみるとそうだな」

「学校の七不思議なんて、大体は作り話が多いんじゃないかしら」

「うん。わたしもそう思ったんだけどさー。結構、噂通りのことが多いよね。ベートーベンの目が光るとか、階段が増えるとか」

「けど、どっちも、どの学校にもありそうなベタベタな七不思議だぜ? 偶然、合っただけなんじゃねーの?」

「そうなのかな?」

「もしかしたら、新聞部以外にも学校に忍び込んでいる人がいるかもしれません」

不意に後ろにいる唯織ちゃんが発言する。
この子は部室にいるときよりも、夜の学校内でのほうが若干声が大きく、はっきりとしゃべるのは興奮気味だからなのかもしれない。

「その線もあり得るっちゃ、あり得るか。この学校、その辺緩いからなー」

用務員のお姉さんがちゃんと見回りすれば、ここまで容易に学校に入るなんてことはできないだろう。
きっと、セキュリティーシステムすら入れてないんだと思う。

よく、あの人、クビにならないよな。

そんなことを話しているうちに、二階へ行く階段へと差し掛かる。
階段が増えると言う七不思議、跳び箱を拝借していた輪入道がいた場所だ。
当然、階段の数は増えてもいないし輪入道ももういない。
それでも何気なく階段の段数を確認しながら登っていく。
当たり前だが、十段までしかなかった。

そのまま、三階まで登る。
三階にはあまり来ることはない。
来年、三年生になれば毎日来ることになるだろう。
行き慣れていないせいか、三階には妙な圧迫感というか威圧感がある。

夜というせいもあるだろう。
不気味さも感じる。

なんとなく、無言になってしまい、それがまた怖さを増長させてしまう。
布姫の震えも大きくなっていくし、後ろにいる唯織ちゃんの息遣いも荒くなっていく。

「はあ、はあ、はあ。……興奮します」

……どうやら唯織ちゃんは怖いのではなく、テンションが上がっているだけのようだ。

水麗はというと、キョロキョロともの珍しそうに三階の風景を見渡している。
結局、怖がっていたのは僕と布姫だけだったみたいだ。

屋上へと続く階段は、三階の端にある。
当然、三階の廊下を歩くことになる。
三階も二階と同じ作りのはずだが、どこか異世界に迷い込んだかのように異質に感じるのはなぜなんだろうか。
それは僕だけじゃなく、他の三人ももの珍しそうに三階の風景を見渡している。
そんな風にして歩いていると、すぐに屋上へ続く階段へと到着した。

「おお! ここが現場だね!」

妙に気分が高揚している水麗と唯織ちゃんは、到着するなり二人で駆け出すように階段を昇っていく。
ホント頼もしいと思う反面、自分の器の小ささを感じてしまう。
布姫はというと、僕の腕にへばりつき、まったく動こうとしない。
調査は断固拒否という意思すら感じる。

「うーん。異常なしだね」

「……鏡を置けそうな場所はここくらいですよね」

上の方で水麗と唯織ちゃんの声が聞こえてくる。
さっそく調査を開始したみたいだが、空振りに終わったようだ。
屋上への階段なんて短いから、調査なんてすぐに終わってしまう。
何もなかったと聞いたせいか、意思のように動かなかった布姫も、ようやく階段を登ろうという意思を示す。

まあ、まだ僕にくっついたままなのだが。

階段を上り始めると、すぐに二人の姿が確認できた。
二人は屋上に出るドアの横の壁を見ている。
さっき、唯織ちゃんが言った通り、鏡を置くにはそのスペースしかないだろう。
だが、そこには鏡はない。

「置いてあった形跡もなさそうなのか?」

「うん。特には……」

水麗が沈んだ表情でコクリと頷く。
一応、僕も見てみようと思い、階段を登る。
横にいる布姫は行きたくないのか、足取りが重い。
その布姫が僕の腕を掴んでいるのだから、疑似的な二人三脚の状態だ。
二人のスピードが違えば当然、バランスも崩れる。

「おっと」

転びそうになり、慌てて壁に手をつく。
少しだけ冷汗が額ににじみ出る。僕が転げ落ちれば、布姫も巻き込んでしまうところだった。
ただ、布姫にもっとスピードを上げろよ、とは言えないので僕が登る速度を落とさないと……。
そこまで考えていた時に、ふと、壁についた手の感触の違和感に気づく。
壁の方をチラリと見る。

パッと見ると、特に変わったところはない。
けど、明らかに手触りが違う。
目を凝らして、よーく見てみる。

「……スベスベだ」

「え? スケベだ?」

「違ぇよ! どう聞いたら、間違えられるんだ! 字数も違うし! 」

僕と布姫がいつものやり取りをしていると、水麗と唯織ちゃんが下りてきた。

「どうかしたの?」

「あ、いや、この壁、なんか変じゃねーか?」

僕が壁を指差すと、水麗と唯織ちゃんが壁に顔を近づけていく。

「佐藤くんが言うには、佐藤くんがスケベで変態らしいのよ」

「壁だっつってんだろ! どんなカミングアウトだよ! あと、僕は変って言ったんだ! 変態って言ったんじゃない!」

「仮にそうだとしても、佐藤くんが変態なのは変わらないわ」

腰に手を当て、威張るように胸を張り、ニヤリと笑う布姫。
……なぜ、この女はここまで自信満々に人を貶めることができるんだろうか。

「ホントだ……」

「水麗!?」

「本当ですね……」

「唯織ちゃんまで!」

「ふふふふ。ここにいる全員が、佐藤くんのことをスケベで変態と思っているのよ。これはもう、統計的に全世界の女性がそう思ってると言っていいのじゃないかしら?」

「そんな極端な統計があるか! それに、一つだけ言いたい。男は皆、スケベで変態だ。僕だけじゃない」

「……自分が変態だと認めたわね?」

「うっ! しまった! 誘導尋問だ!」

「いやいや。そうじゃなくって、壁が変なのが本当だってことだよ」

やや呆れ気味で、水麗がこっちを見る。

……ごめんなさい。
そんな目で見ないで。この女が全部悪いんです。

「妙にツルツルしてます。……というより、綺麗……という感じでしょうか?」

唯織ちゃんが壁を指で擦っている。
僕も改めて壁を見てみると、確かに磨いたような跡があった。

「……これが鏡の正体……なんでしょうか?」

「うーん。どうだろ? いくら磨いたって言っても、姿が映るってほどでもないからなぁ」

「そうだな。多分、明るくても顔が写ることはないから、さすがにこれで鏡と間違えるってことはないと思うけど」

「でも、噂なんて誇張されることが多いんじゃないかしら?」

「それも一理あるな」

妙にツルツルした壁の前で、僕たちは首を傾ける。
だが、いくら考えてもこれだけの情報で真相は分かりそうもなかった。

「どうしよっか?」

「跳び箱の時と同じように、犯人が現れるまで待つか?」

「……さすがにここで何時間も待つのはきびしいんじゃないかしら?」

階段を見下ろす布姫。

前は体育館倉庫で、マットがあったから寝転がることで数時間は大丈夫だったが、今回はタイルの上で、しかも階段だ。
布姫の言うようにここで数時間、来るかもわからない犯人を待つのは辛い。

「……諦めるんですか……?」

唯織ちゃんが物凄い悲しそうな顔をする。
そんな顔をされると、ちょっと胸が痛くなってきてしまう。
今度こそは妖怪を見れるかと期待してたんだろうか?

「あの……先輩たちは……その……部室で待っていてください。あたしがここで待っているので……」

「いや、さすがにそれは、ちょっとなぁ……」

「それじゃさ、ここの階段から一番近い教室で待機してるっていうのはどうかな?」

腕を組んで少し考え込んでいた水麗が提案してくる。

「いいんじゃないか? 教室なら机とか並べたら寝転がれるし」

「机の上? 冗談じゃないわ。私にそんな場所で寝ろっていうの?」

「お前……音楽室の床で寝てたじゃねーか」

「あら? そうだったかしら?」

「大体、なんで、寝る気満々なんだよ」

「眠いからよ」

「……清々しいな」
とにかく、水麗の案を採用し、屋上の階段から一番近い教室の中で待つことにした。

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