【ボイスドラマ】たとえば、ニコルズ家の可憐な妹について③

【ボイスドラマ】たとえば、ニコルズ家の可憐な妹について③

〇 シーン7
  店内。

スチュアート「じゃあ、シンシア自身も、どうして狙われてるのか分からないの?」
シンシア「ええ。歩いていたら、急に追いかけられて……」
ジェラルド「うーん。可愛い」
スチュアート「となると、誘拐が目的だろうね。シンシアは、どこの家の子供? 上流貴族なんでしょ?」
シンシア「え?」
スチュアート「着てる服。随分といいものみたいだけど」
シンシア「あ……それは……」
ジェラルド「いいじゃねえか! そんなことはどうでも。それより、シンシア、頼みがある」
シンシア「な、なんでしょう?」
ジェラルド「俺たちの妹になってくれねえか?」
シンシア「えっと、どういうことでしょう?」
スチュアート「別に難しいことじゃないよ。ただ単に、僕たちのことをお兄ちゃんと呼んでくれればいいんだ」
シンシア「……はあ」
スチュアート「毎朝起こしにきてくれるとか、甘えた声でお願いするとかは、これからゆっくり覚えていこう」
シンシア「良くわかりませんけど、お兄様って呼べばいいんですか?」
ジェラルド「! もう一回言ってくれ!」
シンシア「……お兄様」
ジェラルド「もう一度!」
シンシア「お兄様」

  ジェラルドがバタリと倒れる。

スチュアート「兄さん、しっかり」
ジェラルド「スチュアート。もう悔いはない。シンシアを頼んだぞ……」
スチュアート「いけない! 兄さんが萌え死んでしまう」
シンシア「お兄様、大丈夫ですか?」
ジェラルド「(血を吐く)がふっ! ……ああ、綺麗な花畑が見える……」
スチュアート「兄さん、帰って来て! 兄さーーーん」

〇 シーン8
  廃屋。

ジェラルド「……なあ、スチュアート。どうして、ここに戻ってくるんだ?」
スチュアート「シンシアを妹にするためには、奴らをつぶさないといけないだろ。それにはちょっと時間がかかりそうだからね。それまでの潜伏場所さ」
ジェラルド「ここだと、奴らにバレてるだろ。すぐ見つかっちまうんじゃねえか?」
スチュアート「ふふ。兄さん。そこが盲点さ。きっとあいつ等もそう思っているはずだよ」
ジェラルド「どういうことだ?」
スチュアート「一度、僕たちはここから移動したでしょ。アイツ等は僕たちが他の場所に逃げたと思ってるはずさ。だからここにいるとは思わない。今頃他の所を必死に探してるだろうさ」
ジェラルド「さすが俺の弟!」
スチュアート「まあね。兄さんにも僕の爪の垢を飲んで欲しいくらいだよ」

  バンとドアが開く。

男1「チェスター様、いました」
チェスター「……まだ逃げずにいるとはね。相当な馬鹿か、よほど死にたいとみえる」
ジェラルド「……スチュアート?」
スチュアート「くそっ、裏をかかれた」
チェスター「今回は部下を百人連れてきた。今、泣いて謝れば半殺しのあとドラム缶に入れて沈めるくらいで勘弁してあげるよ」
ジェラルド「ふん。ド変態にシンシアを渡すわけにはいかねえなっ!」
シンシア「お兄様、無理です。逃げてください」
ジェラルド「(ブッと鼻血を吹く)ぶほっ」
スチュアート「シンシアは後ろで下がって見てて。ああ、戦いが終わるまでは『お兄様』と言うのは禁止しておいてほしい。兄さんが鼻血の出しすぎで死んでしまうからね」
チェスター「(ため息)やれやれ。筋金入りの馬鹿みたいだな。……やれ」
男「おおお!」

  大勢がニコルズ兄弟に襲いかかる。

〇 シーン9
  百人の男たちが倒れている。
  かろうじて立っているジェラルドとスチュアート。

チェスター「ほう。まさか、百人、本当に倒すとはな。恐れ入った」
ジェラルド「(ゼーゼーと苦しそうな呼吸)……あとは……お前……一人……だぜ」
チェスター「そのようだな」
ジェラルド「うおお!」

  ジェラルドがチェスターに向かって拳をくりだす。
  そして、ドンという銃声の音。

ジェラルド「ぐあっ!(倒れる)」
チェスター「ジェラルド・ニコルズ。随分と手こずらせてくれたな」
ジェラルド「……く、くそ」
スチュアート「兄さん!」
シンシア「お兄様!」
チェスター「まあ、素人の割にはよく頑張った方だ。……が、マフィアに手を出したのは、少々はしゃぎすぎたな」
ジェラルド「シンシアは……妹は絶対に守る」
チェスター「ああ。あの世から、しっかり見守ってやってくれ」
スチュアート「逃げて! 兄さーーーん!」

  ドン! という銃声が響く。

ジェラルド「くっ」
チェスター「ほう。この状態でよくよけたな」
スチュアート「(小声で)……シンシア。頼みがある」
シンシア「(小声で)なんでしょうか?」
チェスター「だが、奇跡は二度起こらない」
スチュアート「そう。奇跡は起こらない。……起こすもの」
チェスター「ん?」
スチュアート「シンシア!」
シンシア「は、はい!」
チェスター「何をする気だ?」
シンシア「(深呼吸をして)お兄ちゃん!」
ジェラルド「うおおおおおお!」
チェスター「な、なにっ! 立ち上がっただと」
ジェラルド「お前の負けだ」
チェスター「ふん。頭のネジが取れたのか?」

  連続で銃を放つチェスター。
  それを避け続けるジェラルド。

チェスター「馬鹿な。当たらない!」
ジェラルド「シンシアが『お兄ちゃん』と言った時点で、お前の敗北は決まっている」
チェスター「ふざけるなぁ!」
ジェラルド「ふん!」

  ジェラルドがチェスターを殴り飛ばす。

チェスター「ぐわあああああ!(倒れる)」
ジェラルド「思い知ったか。偉大なる兄の力を」
チェスター「く、くそ……(気絶する)」
スチュアート「兄さん、大丈夫?」
ジェラルド「ああ。なんとかな」

  その時、ドアが開く。

シンシアの父「シンシア!」
ジェラルド「なんだ? この親父。こいつらの味方か?」
シンシア「お父様!」
スチュアート「なっ!」
ジェラルド「くそっ!(シンシアを掴む)」
シンシア「きゃっ!」
ジェラルド「動くなっ! 動けばシンシアにイタズラするぞっ!」
シンシアの父「な、何をするっ!」
ジェラルド「シンシアは俺たちの妹になったんだ。絶対に返さんぞっ!」
スチュアート「え? 兄さん? 気持ちはわかるけど、それは……」
シンシアの父「何を馬鹿なことを……」
シンシア「大丈夫です。お兄様。私はお兄様の妹ですよ」
ジェラルド「……シンシア」
シンシア「私がきっちりお父様にお話します。だから、信じて待っててください」
スチュアート「シンシア……」

  シンシアが父親の方に歩いていく。

シンシア「お父様、私……」
シンシアの父「この! 我がまま娘めっ!」
シンシア「きゃあっ!」
シンシアの父「お尻ペンペンの刑だ」

  シンシアにお尻ペンペンする父親。

ジェラルド「テメェ! 何、羨ましいことしてんだ、こらぁ!」
シンシア「ふえーん。ごめんなさい。だって、お父様、ちっとも私にかまってくれないから……」
シンシアの父「忙しいから仕方ないだろう」
シンシア「お父様、そればっかり。私、寂しかったの。家出したら心配してくれるかなって思って……」
シンシアの父「……(手を止める)」
シンシア「それなのに……部下の人を使って、迎えにこさせるなんて……(泣きじゃくる)」
チェスター「うう……(ハッとして)ボ、ボス!」
ジェラルド「……なあ、スチュアート。話しの流れがよくわからないんだが?」
スチュアート「兄さん、僕もだよ」
シンシア「(泣きながら)しかも、お尻ペンペンまで、チェスターに許すなんて……」
シンシアの父「……シンシア」
シンシア「お父様の馬鹿―――」
シンシアの父「……悪かった。お前の為にこの街を支配して、プレゼントしようと思ったのに……逆にお前に寂しい想いをさせてたんだな……」
シンシア「……」
シンシアの父「帰ろう」
シンシア「え?」
シンシアの父「前の街に帰って、しばらく二人でゆっくりしよう」
シンシア「お父様っ! 大好き!」

  シンシアと父親が歩き去っていく。

ジェラルド「……なあ、スチュアート。俺には、何が起きたかわからないんだが……」
スチュアート「兄さん、僕もだよ」

  その時、壁がぶち壊れる激しい音が響く。

キャロン「馬鹿兄貴ども……」
ジェラルド「キャ、キャロン!」
キャロン「帰ってこねえと思ったら、こんなところで何してんだよ!」
スチュアート「こ、これは人助けで……」
キャロン「人助け? なんで、こんなに屍が転がってんだ?」
ジェラルド「それは……」
キャロン「で? 誰を助けたって?」
スチュアート「いや……その……」
キャロン「ふん!(殴る)」
ジェラルド「ぎゃあ!」
キャロン「ふん!」
スチュアート「がふっ!」
キャロン「また、暴れやがって! 帰るぞ!」

  ズルズルと引きづられていく、ジェラルドとスチュアート。

ジェラルド(N)「……こうして俺たちの妹探しは失敗に終わったのだが、俺は絶対に諦めない。本当の妹を見つける為、俺たちの戦いは続いていくのだ……」

終わり

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