【Webライトノベル】チャーリー・バロットと墓場の女王④

【Webライトノベル】チャーリー・バロットと墓場の女王④

「おいおい、なにボーっとしてんねん。昨日の興奮がまだ治まらんのか?」

 ホウキを持ちながら考え事をしている僕に、ボブがポンと肩を叩いた。
 応接室内を所狭しとゾンビたちが掃除しているので騒がしい。

「まあ、生体でアメリア様に踏まれたんやから、当然っちゃ、当然やろうな。どや? 気持ちよかったんか?」

 まぶたがなく、むき出しになった目を輝かせてボブがにじり寄ってくる。

「僕はお前らと違って変態じゃないんだ」

「いいよなー、チャーリーは。俺なんて、まだ一度も踏まれたことねーぞ」

 今は夏なので使われていない、レンガで作られた暖炉の、煙突掃除をしていたゾンビが「よっこらしょ」とジジくさい掛け声をかけながら下りてくる。

「チャーリーはアメリア様のお気に入りだかならな」

「生体の方が、イジメ甲斐があるのかも。俺も今度の給料で『体』買おうかな」

 頭蓋骨に三角巾を巻き、並んで窓を拭いている二人組が振り返ってケタケタ笑う。

「体は腐らないから楽だけど、飯食うのが面倒だし飯代が馬鹿にならないんだよ」

「そうそう。俺も前に『顔』買ったけど、金無くて一ヶ月飯食わなかったら腐っちまったもん」

「うわっ、もったいなっ!」

 床をモップがけしていたゾンビと言うよりただの髑髏の男と、ソファーのホコリを乾拭きしているゾンビが会話に混じってくる。

「なあなあ、チャーリー。その体譲ってくれへん? お、俺、アメリア様に踏んでもらえるなら、死んでもかまへんのやけど」

「もう、死んでるだろうが」

 ボブが興奮して顔を寄せてきたので、手で払いのける。

「能無し共、喋ってないでキリキリ働け!」

 バンとドアが勢い良く開き、アメリアが応接室に入ってきた。
 今日の格好は貴婦人が着るような白いドレスだ。肩と胸元がかなり露出している。
 長い髪を折りたたむように後ろでまとめ、うなじが見えて妙に色っぽい。

 ツカツカと部屋の中央を歩くアメリア。

 ゾンビたちが仕事の手を止め、アメリアに向かってお辞儀をする。
 その横を、胸を張りながら通り過ぎていく。

「アメリア様、こんばんわっす!」

「ああ」

「アメリア様、今日も美しいっす!」

「知ってる」

「アメリア様、踏んでください!」

「死ね」

 一通りのゾンビの挨拶を受けたアメリアは僕の前で立ち止まった。

「掃除はもういい。ちょっと来い」

「……なんだよ?」

「二度言わせるな。あたしが来いと言ったら、尻尾を振りながら速やかに言うとおりにしろ」

「あのなあ。早朝に……いや、夕方にお前が部屋を掃除しろって言うから、眠い中やってるんだぞ」

「……まったく。本当に貴様は度胸だけは一人前だな」

 前髪をかきあげながら、アメリアがため息をつく。

「三級が二級に逆らうなど、前代未聞だ」

「……なんだよ、その二級とか三級とかって」

「あのな、チャーリー。この世界には階級ってもんがあんねん」

 ボブがこそっと耳打ちしてくる。

「俺らのような、雑用でも仕事を持ってる奴は三級で、アメリア様のような街を取り仕切る『墓地王』は二級なんや。三級は二級には逆らわない。これがこの世界での常識やで」

「なるほど。だから、お前らは傍若無人なアメリアに逆らいたくても逆らえないんだな?」

「それは違う」

「ん? 違うのか? なら、どうして従うんだ?」

「アメリア様がエロいからや!」

「聞いた僕が馬鹿だったよ」

「チャーリー・バロット。時間がない。暖炉の煙突に入ってろ」

 アメリアがまったくもって、意味不明なことを言い出す。

「なんのイジメだよ? 逆らっただけで、僕は煙突に閉じ込められる……ぐおっ」

 突然、アメリアが僕の顔面を鷲掴みにした。

「逆だ。隠れさせてやると言っているのだ」

「隠れる?」

「さっさと……しろ!」

 アメリアは僕の顔面を掴んだまま、ボールのように僕を暖炉の中へと投げ込む。

「ぎゃー!」

 暖炉の中を転がり、灰だらけになる。

「なにしやがる!」

 アメリアに抗議の声を上げたと同時に鐘のような金属音のチャイムが鳴り響く。

「ちっ! もう来たか。チャーリー・バロット。早く煙突まで登れ!」

「……わかったよ」

 妙に迫力のある声を出され、しぶしぶ煙突の側面についている手すりを登るのだった。

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