【Webライトノベル】チャーリー・バロットと墓場の女王⑤

【Webライトノベル】チャーリー・バロットと墓場の女王⑤

 ガチャリと扉が開く音。
 続いてゾロゾロと人が入ってくる音が聞こえてくる。

 ……足音からして、靴を履いてるな。
 ということは、割と金持ちだ。

 基本、ゾンビたちは靴を履かない。
 痛覚がないから、何かを踏んづけても気づかないくらいだし、あいつらの足の裏自体が外の地面より汚い。
 ということで、そもそも靴を履く意味がない。
 
 もちろん、僕は履いている。
 そこらじゅうに肉片が落ちてるし、あれを生足で踏んだ時の感触は軽いトラウマになる。

「アメリアはいるか」

 低く渋い。
 記憶を探るが、聞いたことのない声だ。

「ついに目まで腐ったのか? 目の前にいるだろ」

「貴様! クラム様に対して、なんて口をきくんだ!」

「ふん。相変わらず、生意気な小娘だ。一級に、そんな口を聞くのはお前だけだ」

 ……あいつ。
 僕にはさんざん言葉遣いに気をつけろとか言うくせに、自分は出来てねーじゃねーかよ。
 っていうか、僕らに話す感じと同じ口調だ。
 ……いや、若干今の方が、刺がある感じか。
 それにしても、今、やってきたのはどうやら一級の奴らしい。

 ……ん?
 アメリアの上ってことは『国の王』じゃねえのか?
 確か、刻印ってやつを持ってる奴だよな。

 僕はこそこそ、手すりを降りていく。
 そして、煙突の中でアクロバットに体を反転させる。

 うお、頭に血が上る。頭がくらくらしてきた。
 なんて考えている場合じゃない。
 
 そーっと、暖炉から顔を出して応接室を見渡す。
 軍服のような迷彩色の服を来たゾンビ(比較的腐っていない)に囲まれている一際デカイ男が目に入る。

 あいつがクラムだな。
 めちゃくちゃ偉そうだ。
 頭に王冠かぶってるし。

 クラムはなんというか……ただの化物だった。
 体の面積は通常の人間の三倍くらいある。
 ゴリラ……雪男……ビックフット……キングコング。
 その全てに当てはまる感じだ。
 とにかく、それ系。

 全身毛むくじゃらで、眉毛が太くて唇が厚い。
 筋肉の塊のような体躯。

 そのくせ、着ている服は貴族のお坊ちゃんが着るような王子服だ。

 もう、何もかもがビックリ。
 あの体格で半ズボンに白タイツは反則だろ。
 似合わないにもほどがある。
 
そんな化物のようなクラムの前に立ち、アメリアは腕を組んでふてぶてしく見上げている。

「それで? 天下のクラム殿がこんな寒々しいところに何しに?」

「三ヶ月前からの新規埋葬者のリストを出せ」

「なぜ?」

「……いいから見せろ」

「……」

 アメリアは何も言わず、指をパチンと鳴らす。
 するとゾンビの一人が懐から丸めた紙を出して、アメリアに渡す。
 アメリアはその紙に目を通すことなく、そのままクラムの方へ放る。

「ちっ! 小娘が」

 分厚い唇を尖らせながら、クラムは紙を広げて舐め回すように見ている。

「……これだけか?」

「ああ」

「少ないな」

「大きなお世話だ」

「トラボルタ墓地からの上納金が減ってきているぞ」

「そんなことはあたしが一番知っている」

「査定も近い。三級に落ちんように気をつけるんだな」

「何度も言わせるな。大きなお世話だ」

「ふん。まあいい。貴様がどうなろうと、知ったことじゃないからな」

 クラムは眉間にしわを寄せ、もう一度紙を広げて視線を落とす。

「最近、特殊な……」

 そこで言葉を切り、頭を振ったクラムは紙をアメリアに返した。

「いや、なんでもない。邪魔したな。行くぞ」

 取り巻きたちに合図をして、歩き出そうとした瞬間だった。

「うぉ!」

 ゴリラ……いや、クラムがよろけて床に膝をつく。

「……くぅ」

 胸を抑え、息を切らせるクラムに取り巻きゾンビどもが慌てて駆け寄る。

「クラム様! 大丈夫ですかっ!」

「ええいっ! 触るな! 自分で立てるわ!」

 ゾンビたちの手を払い除けて立ち上がるクラム。
 目をつぶり一度大きく息を吸って吐くと、再び偉そうな表情に戻る。

「ああ。そうだ。最近、墓荒らしが出るらしいぞ」

「それは穏やかな話じゃないな」

「言っておくが、二割の墓が荒らされたら……」

「わかっている」

「なんなら、兵を貸そうか?」

「いらん」

「……ふん。それじゃな」

 クラムが取り巻きたちを連れて応接室を出て行った。

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