【Webライトノベル】チャーリー・バロットと墓場の女王⑦

【Webライトノベル】チャーリー・バロットと墓場の女王⑦

〇 新米墓守、ニナ・ローツ

 街の通りにはびっしりと街灯が並び、空に浮かぶ満月など比べものにならないほど光って通りを照す。
 
 真夜中。
 
 さすがにゾンビが一番活発化する時間だ。
 通りにはびっしりと人……いや、ゾンビが行き交い、買い物やら散歩やらで賑わっている。
 街の外の通りとはまったく違う活発化しているのを見て、最初は驚いたものだが今では若干、この賑わいイラっとするくらいだ。
 
 トラボルタはかなり整備が進んでいる。
 ほとんどの路は石畳だし、廃墟化している建物どころか、使われていない建物も見たことがない。
 家が無く、外で暮らしているなんてゾンビも見たことがなかった。そういう面でいうと、僕がいたあっちの世界よりも平和で豊かだ。

「あ、あの……ありがとうございます」

 隣を歩くツインテールの女の子、ニナが不安そうにおどおどした様子でこっちを見上げてくる。

「ん? なにが?」

「荷物……持っていただいて……」

「ああ。別に。いつものことだからさ」

「それに、買い物まで付き合っていただくなんて……」

「それこそ、いつものことだよ」

 右手で大量の紙袋を抱え、左手にはチェーンソーを持った状態の僕を見て、バツの悪そうにしている。
 
 ちなみに、右手に抱えている袋の中身は圧縮型防腐剤と芳香剤、香水、サプリメントのカルシュウム、それぞれ一年分だ。
 重さにして約二十キロはると思う。
 さらに左手のチェーンソーは最新型でかなりゴツイものだ。
 こっちも二十キロくらいある。

 ……てか、この重さだとかえって使いづらくねー?
 というより、使えるゾンビがいねーだろ。

 ……騙されたのかもな。
 最新型って言ってたけど、単純に売れ残っただけだよなー、絶対。

 とにかく、それを抱えて三十分以上は歩いている。

「なんか、こっちに来てから調子が良いっていうか力が増したんだよ。……まあ、もしかしたら比べる対象がゾンビだからそう見えてるだけかもしんないけど」

「すごいと思いますよ。その量を平然と持てるなんて……。そんなゾンビ、見たことありません」

「……いや、ゾンビじゃねーし。死んでもないし」

「ああ、そういえば、チャーリーさんって生きたままこっちに来たんでしたっけ?」

「チャーリーでいいよ。それに敬語も止めてくれ。なんか、くすぐったい」

「えっと……じゃあ、チャーリー君で。呼び捨てにするのは、私の方が……恥ずかしい」

 顔をカーっと赤くして俯くニナ。

 うむ。
 実に可愛らしい。
 是非、アメリアにはニナの爪先の死肉でも煎じて飲んで欲しいくらいだ。

「ねえ、チャーリー君。生きてるってどんな感じ?」

「うーん。どんな感じって言われてもなぁ。死んだことねえから、比較できねえし説明しづらいかな」

「あっ、そっか」

「逆にニナの方が詳しいんじゃないのか? 変な言い方ただけど、生きてるときと今と両方経験してるんだし……って、どうしたんだ?」

 急にニナが両手で顔を覆い、しゃがみこんでしまう。

「い、今……チャーリー君、私のこと呼び捨てにした……。恥ずかしい。恋人みたい」

 指の隙間から見えるニナの頬が真っ赤になっているのがわかる。

「そ、そうか……。すまん。ニナさんって呼んだほうがいいか? それともニナちゃん?」

「ニナでいいよ! ああっ! でも、ニナちゃんも捨てが難いぃ~」

 ……誰にでも、変なこだわりってあるよな。うん。ここはスルーしておこう。

「あれ? でも、アメリアにはいつも呼び捨てされてるだろ。あれはいいのか?」

「アメリア様は女性だもん。私、そっちの気ないし」

「そりゃ、そっか。……そういや、ニナ。一つ聞いていいか?」

「チャ、チャーリー君、そ、そんな……急にスリーサイズなんて言えないよ。も、もっと仲良くなってからだよ」

「……」

 あれ? 僕、まだ質問してないよな? しかも、そんな変態的な質問じゃないし。

「そ、そうじゃなくって。これ、このチェーンソー、何に使うんだ?」

「武器だよ。怖い人をぶった切るの」

「お前のほうが怖ぇーよ!」

「ほら、最近、墓荒らしが出るって噂でしょ? まだこっちには来てないけど、準備はしておこうかなって」

「ああ……。そういえば、そんな話、クラムがしてな」

「私、墓守だからさ。みんなのお墓は私が、守らなくっちゃ!」

「へー。立派なもんだ」

「墓守頑張って、体、全部揃えて、元の世界に戻るのが夢なんだぁ」

「……今の、死亡フラグだぞ」

「大丈夫だよー。もう、死んでるもん」

「……そりゃそーだな」

 割と買い物に時間がかかっていたから、急いで帰ろうと言おうとした瞬間。

「にゃー」

 路地裏から白い猫がテコテコと歩いてきた。

「あー、猫だ。可愛いー!」

 ニナがしゃがんで猫の頭を撫でると、ずりっと頭の皮がズレて耳がボタっと落ちた。

「キモっ!」

「にゃー! にゃー!」

「ありゃりゃ、ごめんねー」

 なにしやがるんだとばかりに抗議の声で鳴く猫に対して、ニナは地面に落ちた耳を拾ってなんとかくっつけようとしている。

「いいなー。猫飼いたいなー」

「僕はそんな気持ち悪い猫はお断りだ」

「生きてたときに飼ってたんだよね。三毛猫のミー君。元気にしてるかなぁ?」

「猫か……」

 何気なくゾンビ猫を見ていると、突然頭の中にノイズ音が走った。
 一瞬、目の前が真っ暗になったかと思うと、次の瞬間には強いフラッシュの光に包まれる。
 光が収束するとある風景が見えた。

 ――駅。

 見覚えがある。
 あれはトランド駅だ。
 しかも夜。
 そう、僕がこっちの世界に来る直前。

「にゃー!」

 そうだ。
 猫がいた。
 線路に……。
 
 そして僕は――。
 
 そこで激しいノイズ音が走り、目の前が闇に包まれる。

「……君? チャーリー君?」

 目を開けると、ニナが心配そうに僕の顔を覗き込んでいた。

「大丈夫? すごい汗だよ?」

「ああ……。平気。さ、そろそろ行こうぜ。あまり遅くなるとアメリアに怒られる」

「あ、チャーリー君、待って!」

 僕がすっと歩き出すとニナも慌ててついてくる。

 今のはなんだったんだ?
 僕がこの世界にくる時の記憶か?

 必死に続きを思い出そうとしたが、ただ頭の中にノイズが走るのと心臓が締め付けられるように痛むだけだったので、考えるのを止めた。

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