【Webライトノベル】チャーリー・バロットと墓場の女王⑨

【Webライトノベル】チャーリー・バロットと墓場の女王⑨

「うえーん。怖かったよー!」

 ニナが僕の胸で大泣きしている。
 ……結構、ガチで。
 ちょっと引く。

「まあ、落ち着けって。ほら、ハーブティーだ。飲め」

 まだ絨毯や床に血が残っている応接室でニナから話を聞くことにした。
 クラムが来た時には片付けていたガラスのテーブルが元の位置に戻されている。
 そこに煎れたての紅茶が二つ置かれていて、ほのかに湯気がゆらゆらと揺らぐ。

 ニナを引き剥がすと、デロンと鼻水が僕の服についていた。

 うーん。
 可愛いんだけどなぁ。
 こういうところが残念だよ、ニナは。
 
 椅子に座らせ、まずは紅茶を飲ませる。
 「美味しい!」
 
 一気に笑顔が戻る。
 
 うん。
 こういう反応をしてくれれば、秘蔵の紅茶の葉っぱを使った甲斐があるもんだ。
 
 一度、ゾンビたちに飲ませてみたときは、飲み込む前に横から漏れるとか、味がしないとかもうちょっと腐った香りの方がいいとかさんざんだった。
 そのときは二度と飲ませねえって誓ったものだ。

「ホント、ありがとね。チャーリー君。かばってくれて」

「いや、女の子が殴られるのは嫌だからさ。あれは咄嗟だよ」

「嬉しかったよ」

 頬をほんのりと赤く染めはにかむ。

「お礼に結婚してあげる!」

「ごめん、死体に興味ないから」

「ひどいっ!」

 目をバッテンにして、ガーンとショックを受けるニナ。

「そんなことより、本題に入ろうぜ」

「そんなこと!?」

 さらにガーンとショックを受けたように体を震わせた。今度はちょっぴり涙も出している。

「墓を荒らすって、どういうことなんだ? それでゾンビが死ぬって……」

「えっとね、街に所属するって契約を結ぶと、墓地にニュっとお墓が出現するの」

「ニュっと?」

「うん。いきなり竹の子が生えるように、地面から出てくるの」

「すげー、光景だな」

「でね、お墓はその人の命っていうか、魂の宿り木みたいなもので、お墓が荒らされちゃったらその人は消えちゃうの」

「消える……?」

「そう。シュッと」

「……」

 擬音ばかりで微妙に分かりづらい。とにかく、この世界で言う『死』なんだろう。

「墓を荒らすって、具体的にどんなことだ?」

「エイッって感じで、バーンってやるの」

「……お前、わざとやってないか?」

「えへへ。バレた? えっとね。お墓は名前のところが削られたら終わりなの」

「ふーん。なるほどなぁ。で? メリットはあるのか?」

「へ?」

「ほら、殺人を犯すには動機があるわけだろ? 墓を荒らして、その犯人には何か得があるのか?」

「うーん。ないんじゃないかなぁ……」

 顎に小指を当てて首を傾げるニナ。
 
 っていうか小指なんだ。まあ、他人の癖は色々だし、あえて突っ込むところでもないし。

「ますます、わからなくなってきた。八千の墓を荒らすって結構大変だと思うぞ」

「そうだよねー。それに墓荒らしは第一級の犯罪だから、見つかったら即、墓流しの刑だからね……」

 ニナが自分を抱きしめるようにして、体をブルっと震わせた。
 その様子から相当怖い刑なんだと伺える。

 まあ、めんどいから内容は聞かないけど。

「そこまでのリスクを負ってまでやるってことは、怨恨か?」

「どうだろ? 八千体も恨むって、犯人はすごいネガティブさんだね」

「いや……。ちょっと待て。何も墓が荒らされた奴が恨まれてたとは限らないぞ」

「ん? どういうこと?」

「クラムが、二割の墓が荒らされたらアメリアに何かあるようなことを言ってたけど、どうなるんだ?」

「え? えーとねぇ……。確か、三級に戻されちゃうんじゃないかな? 責任取って」

「なるほど。それなら、犯人はアメリアに恨みを持つ人間じゃねーか? そういう奴をシラミつぶしで調べれば……って、多すぎるなっ! あいつ、絶対、恨み買いすぎだよ!」

「でもさー。隣のオーイットも荒らされたって言ってたよ。アメリア様は関係なくない?」

「うっ! そっか……。また、振り出しに戻っちまったな」

 応接間がしんっと静まり返る。だが、ニナがニコっと笑って、ドンと自分の胸を叩く。

「大丈夫だよ! 今度こそ、私がチェーンソーで墓荒らしを真っ二つにすればいいんだから!」

「まあ、それが一番簡単で、現実的だな。頑張れよ」

「うん! 任せておいて!」

 ビッとピースをするニナに対して、グッと親指を立ててやったのだった。

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