【Webライトノベル】チャーリー・バロットと墓場の女王⑩

【Webライトノベル】チャーリー・バロットと墓場の女王⑩

「ごめんなさーい!」

 次の日の夜。ニナはアメリアの前で土下座していた。

「ニナ・ローツ。あたしの脳みそが腐っていて、言葉を誤認しているというなら言ってくれ。あたしは、今、貴様に『また墓が荒らされた』と報告された気がするのだが……」

「ふえーん。その通りです!」

 ビキッ、っと音が聞こえてきそうなほどアメリアのこめかみの血管が大きく躍動する。
 それでも今回のアメリアは玉座の肘掛を握り潰すことでなんとか怒りを緩和させ、大きく息を吸って気持ちを落ち着かせた。

「で? なにがあった? 犯人は? そいつの目的はなんだったのだ?」

「そ、それが……」

「ん? どうした? 早く報告しろ。あたしは早く犯人を捕まえて八つ裂きにしたのだ」

「わからないんです」

「……わからない、だと? なぜだ? まさか、あれだけの墓を荒らされていたのに犯人の顔すら見ていないというわけではあるまいな?」

「じ、実は……その通りなんで……す」

 ガクガクと震えながらニナは土下座の格好のまま顔を上げようとしない。声はすでに半泣きだ。

「ほう……。墓守の貴様が朝から日が沈むまで墓を荒らされるだけ荒らされていた上に、犯人すら見ていないと……。貴様、一体、なにをしていた?」

「――寝てました」

 ブチッ、ブシュー!

 文字通り、アメリアのこめかみの血管が切れ、血が噴き出す。

 ええええーーーーー!

 本当にそこの血管切れる奴、初めて見た!

「すいません! ごめんなさい! 申し訳ありません!」

 矢継ぎ早に謝罪の言葉を並び立てるニナ。
 そんなニナに対し、アメリアは立ち上がって傍まで歩き、妙に優しい声で語り掛けた。

「ニナ・ローツ。謝罪はいらん。顔を上げろ」

「え?」

 ニナが顔を上げた瞬間、ガッとアメリが顔面を掴んだ。

「きゃーーーー!」

「死んで詫びろ」

 ギリギリと骨が軋む音が室内に反響してこだまする。

 ――マズイな。
 本当に殺しかねない勢いだ。

「アメリア!」

「なんだ? まさか、貴様はこの無能を許せと言うのか?」

「無能ってところには反論はねーけど……」

「ひどい……」

 顔面を掴まれているニナが僕のセリフにひどく肩を落とす。
 ……なんだかんだ言って、まだ余裕ありそうだな。

「とにかく、ここでニナを八つ裂きにしたところで現状はなにもかわらないだろ」

「あたしの気が少しかは晴れる」

「子供か、お前は」

「黙れ」

「お前は腐っても、この街の……トラボルタ墓地の王だろ。感情を撒き散らすんじゃなく、冷静に対処するのが仕事だろ」

「ちっ!」

 アメリアがパッとニナの顔面を放す。同時に床に崩れ落ちるニナ。

「ニナ・ローツ。文字通り命拾いしたな」

「あうう……」

 恐怖で顔を青白くしているニナはガクガクと体を震わせる。

「いいだろう。八つ裂きにするのは勘弁してやる。だが、墓守としての責任はとってもらうぞ」

「な、なんでしょう?」

「街から出て行け」

「えっ!」

「おい、アメリア!」

「口を出すなっ!」

 アメリアの怒号が部屋内にビリビリと響き渡った。
 さすがのゾンビたちもいつもより、さらに顔を青白くさせ、ニナにいたっては俯いてスカートの裾をぎゅっと握り締めている。
 ここまで怒りを顕にしたアメリアを見たのは初めてだった。

「こいつはあたしの街の奴を見殺しにした。本来であれば、八つ裂きにしても気がすまんところだ。それを追放で許してやるんだ。ありがたく思え」

 街――墓地を追い出される。
 それは、新人と同じ魂がむき出しにされた状態になるということだ。
 
 どこの街にも所属せずにずっと『外』にいれば自我が崩壊し、いずれは野犬へと変化していく。
 『勧誘班』に任命されたときに、脳が腐るほど聞かされたことだ。
 
 新人のようにすぐに他の街に移ることができれば問題はないが、果たして街を追い出された者を引き取るところがあるのか――。

「……アメリア様。恐れながら……ニナが出ていけば、誰が墓守を?」

 一人のゾンビが手を上げておずおずと申し出る。

「……チャーリー・バロット。貴様がやれ」

「なに?」

「で、ですが、アメリア様、そ、そのチャーリーは新人ですし……」

 ゾンビが尚も食い下がった。遠まわしでもニアをかばおうとしているのがわかる。

「新人だろうと、なんだろうと、チャーリーしかおらんだろ。それとも貴様がやるか?」

「そ、そんな……無理……です」

 基本ゾンビは、朝は『起きていられない』。強制的な眠りを強いられるらしい。
 だが、それは『肉体』の割合に反比例していく。
 つまり、肉体の部分が多いとそれだけ朝にくる眠気に耐えられるらしい。

 確かに生きている僕は夜通し起きているせいで朝には眠くなるが、多少無理をすれば徹夜……いや、徹朝できる。
 ニナもぱっと見、人間に見える、というよりゾンビの部分が見当たらないくらいだ。
 ほとんど僕と同じように、朝は起きていられるのだろう。
 
 墓守は主に朝、見張ることになる。
 まさか、夜に堂々と墓荒らしをやるやつはいないかららしい。
 ざっと見渡す限り、ニナと僕を抜かせば、墓守ができそうなのはアメリアくらいだ。
 
 ただ、王が墓守を兼任することはできないと前に聞いたことがあった。
 となれば、確かに僕しかいなくなる。

 ――よし。

 僕はたった今、不意に手に入れた強みでアメリアとの交渉を始めることにした。

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