【Webライトノベル】チャーリー・バロットと墓場の女王⑪

【Webライトノベル】チャーリー・バロットと墓場の女王⑪

「アメリア。本当にニナを追放するのか?」

「くどい」

「なら、僕も墓守はできない」

「……どういうことだ?」

「ニナを追放するというなら、当然僕も追放になるということだ」

「……話が見えん。ちゃんと説明しろ」

視線だけでゾンビを殺せそうなほどの殺気を込めた目で僕を見てくる。
気を抜けばすぐに土下座してしまいそうなほど、精神的な圧迫感があるがここは退けない。

「アメリア。お前は僕に、ニナを手伝ってやるように言ったよな?」

「え?」

ニナが顔を上げて、ポカンと口を開けて僕の方を見た。

クロムがやってきた後、アメリアが僕に一つ仕事を任せると言ったのがニナをサポートしてやることだった。
アメリアは墓荒らしが出たと聞き、ニナだけでは心配なので朝に起きていられる僕を選んだのだろう。
本来であれば、昨日……というより今日の朝はニナと一緒に見張りをしてやるべきだったがそれを怠った僕も、もちろんニナと同罪だろう。

「……なるほどな」

アメリアは僕が何を言いたいのかを瞬時に見抜いたようだった。
ふう、と一度大きくため息をついたアメリアは若干ではあるが瞳に落ち着きの色が戻っている。

――いけるか?

そう思ったのも束の間、アメリアからビリビリと心臓を射抜くような鋭い殺気が発せられ、僕に向けられた。

「……で?」

「え?」

「まさか、ただ単に自分も追放して欲しいというわけではあるまい? 交渉の席に座ってやると言っているのだ。さっさと条件を提示しろ」

「……あ、ああ。そうだな」

さすがにトラボルタ墓地の王だ。ハンパないプレッシャーをかけてくる。

実はノリと勢いで乗り切ろうとしか考えていなかったので、改めて条件と言われると正直言って困る。

……どうしよう?

「も、もう一度、チャンスをくれ!」

「……ほう?」

アメリアの右の眉がぴくりと上がった。殺気がやや弱まり、興味の色が濃くなる。

「今度は僕も一緒に墓守する。それでどうだ!?」

「つまらん。ダメだ」

あっさりと切り捨てられる。

「勘違いしているようだから言っておくが、あたしは別に貴様も追放しても構わんのだぞ」

――ええっ! そうなのか!?
ヤベエ! どうしよう。

最終的なカードをあっさりと切り崩してくる。
しかも、アメリアの声や表情は焦りやムキになっているといったような感情はなく、通常の威圧的なものになっていた。
つまりは、ハッタリではない。

「で、でも……僕もいなくなったら墓守は……」

「確かに困る。が、手立てはなくもない」

「……」

完全に立場が逆になってしまっている。
すでにアメリアは僕がどうこの場を切り抜けるのを楽しんでいるようにすら見える。

……だって、ニヤッと笑ってやがるし。
完全に楽しんでいるようにしか見えない。

こうなったら、奥の手を使うしかないか。
僕だけがもちうる、唯一の手札……。

どうせ、ここを切り抜けないことには話にならない。

「体を賭ける! もし、墓守に失敗したら僕の体をお前にやる!」

この世界では『生体』――つまり、生きた体はかなりの価値のあるものらしい。
僕の体はまるごと生きているってだけで、ひと財産を築けるほどの額になるはずだ。
アメリアにとっても悪くない交渉のはず……。

「期間は?」

「へ? き、きかん? そんなのも決めないとだめなのか?」

「当然だ。取引とはそういうものだ。どういう品物がいつ届くのか知ってこそ、初めて商談になる」

「……」

くそ、意外と厄介で面倒くさいやつだ。
そりゃ、取り敢えずこの場はなんとか切り抜けて、うやむやにしようって少しは考えてたけどさ……。

「まさか、いつまでもダラダラと過ごして、もみ消す気ではないだろうな?」

「うっ、そ、それは……。じゃ、じゃあ、三日だ!」

「……三日?」

「ああ。三日で墓荒らしを捕まえて、お前の前に差し出してやる!」

「くっくっく。そうか。三日か。なるほど」

肩を小さく揺らして笑うアメリアが、再度、僕に確認をとってきた。

「本当に三日でいいんだな?」

「男に二言はない!」

ふん。
大丈夫さ。
墓を荒らされないように邪魔するだけだろ?

それに、墓荒らしは重罪だ。
落とし穴でも掘って突き落として、翌夜にアメリアに突き出せばいい。

簡単だ。
余裕。

「そうか。例え、三日間墓荒らしが出なくても、体を差し出すということだな」

「え?」

「当然だろう? 貴様は今、期限は三日と言ったんだからな」

「あ……やっぱり」

「男に二言はないんだったな」

「……」

しまったっ!

墓荒らしがやってこないというのは完全に想定外の可能性だ!
が、しかし……。

あー、ここはもう、どうにでもなれだ!

「わかった。三日で墓荒らしを捕まえなかったら、この体を渡してこの街から出て行ってやる」

僕の言葉を受けて、アメリアはニヤケた表情を一転させて真剣な顔になる。
そして、口を開き、何か言葉を発しようとした。

「……待」

「ダメだよ、チャーリー君!」

アメリアが何か言おうとした瞬間、横でポカンと口を開けて話を聞いていたニナが、ハッとして僕の足に捕まってきた。

立ち上がらないのは腰が抜けているせいだろう。
それでも、ニナは僕にすがりついて今のやりとりを撤回させようとする。

「これは私のミスだもん。チャーリー君は関係ないよ!」

「ニナ。さっきも言ったが、僕は手伝いをするように言われてたんだ。本当なら、最初からニナの横で土下座するべきだったんだ」

「でも……でも……」

泣きそうな顔で僕を見上げるニナ。
そんなニナの頭をそっと撫でる。

「大丈夫さ。三日で捕まえれば全ては解決だ。そうだろ、アメリア」

「……捕まえられればな」

なぜか急に不機嫌そうに顔をしかめたアメリアがぷいと横を向き、口を尖らせる。

数秒、顎に手を当てて何かを考えた様子のアメリアは、こちらに向き直ってビシッと指をさした。

「最後に一つだけ、条件をつけくわえさせてもらう」

「……なんだよ?」

「体を差し出す前に……街を出る前に、一つだけあたしの命令を聞け。どんな命令でもだ」

「……」

まったく無茶を言う奴だ。
どんな命令かを聞かないことには、こっちとしても返事のしようがない。
大体、聞ける命令かどうかも怪しいもんだし。

だが、ここで交渉しようとしたところで、問答無用で却下されるのは目に見えている。
というか、命命令を聞けっていう時点で、それがもう命令だからな。

「……わかった。なんでも聞いてやる」

「三日後が楽しみだ」

最後にアメリアはニヤリと笑みを浮かべて、部屋から出ていったのだった。

<初めから読む>

<10ページ目へ> <12ページ目へ>