【Webライトノベル】チャーリー・バロットと墓場の女王㉔

【Webライトノベル】チャーリー・バロットと墓場の女王㉔

「……バロット。チャーリー・バロット。聞いているんですか?」

 ランシエの声で、ふと我に返る。

 相変わらずランシエは不審物を見るような目で僕を見ていた。

「ん? ああ、悪い。ちょっと考えごとしてたんだ」

「妙な企みは止めることですね、チャーリー・バロット。もし強行に及ぶようでしたら、ぼくは容赦なく、あなたを八つ裂きにします」

「ホント、こっちの世界の奴らって物騒なのが多いな。ああ、あと、チャーリーでいいぜ。ぼくもランシエって呼ぶし」

「呼び捨ては止めてください。慣れなれしい」

「硬いこというなよ。男同士なんだし、仲良くやろうぜ」

「……」

 僕は腕を組んで空を見上げる。雲一つなく、星が点々と輝いて光っている。

 街の灯りのせいで、若干、光は弱まって見えるが月に負けじと頑張っているように見えた。

 生きていたときは、こんな風に空を見ることもあまりなかったし、そもそも、外に出ることも少なかった気がする。

 引きこもり気味だったよな、僕は。

「……考えてみたら、僕って男友達っていなかったんだよなぁ。元の世界でも、こっちでも。ゾンビもいれればいるってことになるけど、男以前に人間として見れないからなぁ。そこを男友達として認めると負けな気がする」

「寂しい人生ですね」

「うっさい!」

「まあ、いいでしょう。特別にぼくを呼び捨てにすることを許可します」

「そりゃどーも」

 まずは第一ステップ完了ってところか。少しだけ距離感が縮まった気がする。

「あなたって、変ですね」

 気のせいだった。いきなり変態呼ばわりされたぞ。

「いえ、言葉が足りませんでした。不思議な雰囲気を持っていますね。ゾンビとは何か違う……」

「ああ、僕は生者なんだ。生きて、この世界に迷い込んだんだよ」

「生きてですか? そんなこと有り得ないと思うのですが」

「まあ、来ちまったんだから、仕方ねーだろ。で、ランシエ、なにか食いたいものあるか?」

「え? 食べたいもの……ですか?」

「あまり高いものは奢ってやれねーけど、穴場くらいは知ってるぜ」

 街には僕のような、ほとんど体が揃っている人間用の飯を出してくれるところが極端に少ない。

 ゾンビとの割合から考えると当然かもしれないが、それでも、十数店はある。

 と、いうのもアメリアが美食家を気取っていて、店に毎月援助して潰れないようにしているとどこかで聞いた覚えがあった。

 まあ、どうでもいいけど。

「結構です。ぼくはサンドウィッチを持参していますので」

 あっさりと僕の誘いを断ったランシエだったが、見たところ何もサンドウィッチどころか、ゆで卵一つ持っていなさそうだった。

「屋敷に置いてあるんだろ? それじゃ、すぐ食べれねえじゃん」

「ぼくは別にご飯を食べに来ているわけではないですし、そもそもあなたに奢ってもらう筋合いが……」

「固いこと言うなって言ってんだろ。ほら、行くぞ。店は僕が勝手に決めるからな」

 ランシエの細腕を掴み、路地裏へと入って行く。

「手を離してください、チャーリー・バロット。路地裏に連れ込んで無理矢理、刻印を奪う気ですか」

「チャーリーでいいって。それに、まずは腹ごしらえだ」

 僕の手を振り払おうとするランシエの腕をしっかりとつかみ、半分引きずるようにして進む。

 ……ランシエが男で良かった。女の子だったら、犯罪の臭いがするところだ。

 家と家の壁が作り出す迷路を進み、ゴミを漁る野良ゾンビ犬を蹴散らして、三十メートルほど行った先に突如、湧き出るように湯気が漂ってくるのが見える。

「あった、あった。ここだ」

「逃げたりしませんので、手を離してください」

 引きずるように進んだことを根に持っているのか、ランシエは目を細くして口を尖らせている。

 その仕草が子供っぽい感じがしたので、思わず笑ってしまう。

「悪い、悪い。ほら、食べようぜ。ラーメンって知ってるか?」

「……その笑みは不愉快です」

 ブツブツ言いながらも、ランシエは僕に続いて屋台へと入っていった。

<初めから読む>

<前のページへ>  <次のページへ>