【Webライトノベル】チャーリー・バロットと墓場の女王㉜

【Webライトノベル】チャーリー・バロットと墓場の女王㉜

 窓から見下ろす夜の街は、もう、どうしようもなく陽気な雰囲気だった。

 上で必死に奴隷が働いている中、こいつらは何も考えずにただただ贅沢を満喫しているようだ。

「飲まないのですか?」

 声をかけられ、テーブルの向かい側に座っているランシエの方に視線を戻すと、目の前にあるトロピカルなジュースを手にとってストローに口をつけて、ちょびっとずつ飲んでいるのが目に入った。

 酒場……とは違う。もう少しおしゃれな感じの店に入っている。

 僕の目の前にもランシエと同じトロピカルなジュースが置いてあるが、あまり飲む気がしない。

「一応、この前のお礼のつもりなんですが」

「この前? ああ、ラーメンか。気にすんなよ。あれは僕が奢りたかったから奢ったんだぜ」

「貸しを作るのは不快ですから」

「はいはい」

 僕はストローを取って、一気にぐいっとトロピカルなジュースを飲み干す。

「……男らしい飲み方ですね」

「ん? そうか?」

「……」

 ランシエも僕の真似をして、ストローを外して一気に飲み干した。

 その後、また沈黙が降りてくる。

 この距離感、なんとかならないのかな。

 僕としては初めての男友達だから、もう少し仲良くしたいところだけど……。

 ふと、朝のランシエの行動を思い出し、気分が滅入る。

 ランシエはあの後、地上に常駐している警備兵を呼んであのゾンビを鉄の四角い建物に戻させた。

 どうしても、連れて行かれる際に僕に向けた悲痛な顔が頭の中に浮かぶ。

 そして、昨日の夜、貴族ゾンビが連れて行かれる際に僕が問いかけたことに対して「……何も知らないくせに」と言って、悔しそうな顔をしたランシエの表情も同時に思い出す。

 きっと、こいつも悩んでる。こんなこと間違ってる。馬鹿げてる。異常だって気づいてる。

「なあ、ランシエ。うちに……トラボルタ墓地に来ないか?」

「え?」

 一瞬、目を丸くするがすぐに鋭い視線を向けて警戒心を露にする。

「何を企んでいるんです?」

「別に、何も。お前だって、苦しいんだろ? 地上で奴隷が働いてる、この異常な街にさ」

「確かに、このオーイットは他の街から見たら、少し強引なところがあるかもしれません」

「少しじゃねーって」

「オーイットはずっとこうして繁栄してきたんです。ぼく一人の感情なんて邪魔なだけです」

「来いよ、ランシエ」

「え?」

「僕、男友達がいないって言っただろ? お前が来てくれたら、嬉しいんだけどな」

「男の友情……というやつですか?」

「そ、そうそう! それそれ!」

 なんか、いい響きだ!

 これだよ、僕が求めていたのは!

 このゾンビだらけの世界で一筋の光が差したようにすら感じた。

「嬉しい申し出ですが……」

 ランシエは真っ直ぐ僕の目を見て、言い放った。

「ぼくはガンツ様を裏切ることはできません」

「なんでだよ!」

 思わずテーブルを叩いて立ち上がってしまう。

 一気に店内の貴族ゾンビの視線が集まる。

 僕は咳払いをして、椅子に座りなおす。

「どう見ても、あのガンツって奴はカリスマ性があると思えんぞ。逆に悪の帝王って感じだろ。現に奴隷制度作り出してるんだからさ」

「ガンツ様を悪く言うのは止めてくれませんか」

「わかんねーな! あんなやつの何がいいんだよ」

「ええ。わからないでしょうね。男らしいあなたには」

 大きく息を吐いたランシエはテーブルの上に右腕を乗せて、袖をまくる。

 白く、細い華奢な腕だった。

「見てください。この情けない腕を。女の子のようです」

「……いや、もっとモヤシの奴、いるって」

 だが、僕の言葉はランシエには届かない。

「ぼくは強い男になりたい。誰にも負けない、大切なものを守れるような。そんな男になりたいんです。ぼくの細い腕じゃ何も救えない。ぼくの家族は、体の弱かったぼくのせいで壊れてしまった。大切なものが壊れるのは二度と見たくないんです」

 ランシエの深い根っこの部分。きっと生きていたときのことだろう。

「それがガンツとどういう関係があるんだよ」

「約束してくれたんです。体をくれると……」

「体を?」

「元の姿に戻るのはお金を貯めればなんとかなります。ですが、別の体を手にれるとなると話は違ってきます。ぼくは必死にその方法を探したのですが、見つけることはできませんでした。そんなときです。ガンツ様がぼくの前に現れてこう言ったんです。『私の言うことを聞けば、新しい体をやる』と」

「嘘……とかじゃないのか?」

「ぼくもそこまで馬鹿じゃありません。よくよく調べたら、王たちにだけ許された特権というものが存在するんです。その中に転生……体を入れ替えるなどの権限がありました」

「それなら……」

 アメリアに言えば何とかしてくれるんじゃね? と思ったけど、あいつ刻印すら持ってねーんだった。くそ、いざってときに使えない奴だな。

「ぼくにとってあの方は神のような存在なんです」

 ……悪魔って方がしっくりくるけどな、とは言えなかった。

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