■概要
人数:5人
時間:10分程度
■ジャンル
ボイスドラマ、学園、コメディ
■キャスト
慧
占い師
友人
女性
その他
■台本
慧「はあ……世の中、つまらないなー。なんもやる気が起きない。遊びに行く金もねーし。なんか面白いことでも起きねーかな……」
ドン、と人とぶつかる音。
不良「ああ!? お前、どこに目付けてんだよ!」
慧「ひえええ! すんません、すんません!」
不良「おいおい。謝って済むとでも思ってんのか?」
慧「え、えーっと、肩でも揉みましょうか?」
不良「いらねえよ、アホ! とりあえず、出すもん出せ」
慧「いや、僕、とっても貧乏で、30円くらいしか持ってなくて」
不良「……今どき、高校生が30円しかねえってあり得ねえだろ。嘘つくなら、もっとマシな嘘付け!」
慧「し、しかしですね……」
不良「早くしろや! 殴られてぇのか!」
慧「ひいい! ど、どうぞ! 財布です」
不良「ふん。最初から素直に出せばいいんだよ」
財布を開く不良。
不良「……」
慧「……」
不良「600円か……。ホント、お前、貧乏なんだな」
慧「は、はい……。ですから何卒恩赦を……」
不良「わかった。今回は500円で勘弁してやる」
慧「あ、ありがとうございます」
不良「じゃあな。小遣いはちゃんと計画的に使うんだぞ」
不良が行ってしまう。
慧「ふん。今日のところは穏便に済ませてやったぜ。感謝しろよ。ぺっ!」
スタスタと歩くがピタリと立ち止まる慧。
慧「…………ふざけんなー! 500円ももっていきやがって! 今月、どう過ごせばいいんだよ! うおーん! 100円で3週間って、パンの耳と塩水でも無理だろ―!」
ヨロヨロと歩き出す慧。
慧「い、いかん。大声出すと、さらに腹が減ってしまう。とにかくこの100円が生命線だ。有効につかわねば……って、ん?」
看板に飛びつく慧。
慧「なっ! なんだと! カツサンドが100円! 普通に買えば300円近くはする一品……。どうする? こんなチャンスを滅多にないぞ。ここで買ってしまって、21等分して食べるか? いや、そもそも3週間もつか? ここは我慢か? いや、しかし」
そのとき、ビューっと風が吹く。
女の人「きゃあ!」
慧「うおおお! 一瞬のパンチラが!」
チャリンとお金が落ちる音。
慧「ん? あっ! 俺の100円玉―!」
コロコロと転がって排水溝にポチャンと落ちる。
慧「ノー―――!」
シクシクと泣き始める慧。
慧「あんまりだ……。結局、ねーちゃんのパンツも見れず、100円も失うなんて……きっと、俺は今年天中殺なんだ……」
占い師「いや、そうでもないぞい」
慧「ん? なんだ、ばーさん。悪いけど、今、俺、占いなんてやれるほど金銭的な余裕はないから……」
占い師「まあまあ、今回はサービスで無料でやってあげよう。お兄さん、顔に面白い相が出てるぞい」
慧「うるせー! どうせ俺は変な顔だよー!」
占い師「いや、そういうことじゃなく……」
慧「お願いだ、ばーさん。俺の手相見せてやるから、30円恵んでくれ」
占い師「……この道は長いけど、逆にお金を請求されたのは初めてだよ」
慧「じゃあ、肩、揉むから」
占い師「私はあんたのおばあちゃんじゃないぞい……。まあよいわ。こんな老人を楽しませてくれた礼じゃ。この眼鏡をやろう」
慧「眼鏡なんているかー! こちとら、餓死するかどうかの瀬戸際なんじゃー!」
占い師「これは特殊な眼鏡で、この眼鏡を通してみれば、思い通りの世界が見られる」
慧「どういうこと?」
占い師「つまり、この眼鏡をかけると、お兄さんの願望が叶うというわけじゃよ」
慧「ふーん。ちょっと試してみていい?」
占い師「どうぞ」
慧「あの姉ちゃんの裸が見たい―!」
コツコツとヒールの音を立てて通り過ぎる女性。
慧「ちっ! 見えねえじゃん」
占い師「……餓死するかどうかの瀬戸際だったんじゃないのかえ? まあ、そうじゃのう。それはお兄さんの願望の思いが足りないからじゃよ。見えることを信じ、見えることを当然だと思うことが重要じゃぞい」
慧「ふーん。……よーし! 見てろ! じゃあ、今度はあの子だ! うおおお! ……ん? 徐々に服が透けて……。くっ! まだだ! 集中―!」
占い師「お、お兄さん、目から血の涙が出てるぞい」
慧「おお! 下着までいけた! すげー! ありがとな、ばーさん!」
占い師「お兄さん。人の欲望の力というのは意外とすごい力を生むものだよ。忘れないようにのう」
慧「ああ、これで俺の人生もチート級に上昇だぜ!」
場面転換。
慧「……とは言ったものの。やることねーな。もう、覗きする体力もねーし。テレビも飽きたし……。あ、そうだ。宿題でもしてみるかな? 思い通りになるなら、サラッと解けるんじゃねーか」
場面転換。
カリカリと文字を書く音。
慧「ふざけんじゃねー! 全然わからねーじゃねーか」
回想
占い師「お兄さんの願望の思いが足りないからじゃよ。見えることを信じ、見えることを当然だと思うことが重要じゃぞい」
回想終わり。
慧「……つまり、わかって当然って思えってことか? ……もう一回、問題をじっくり読んで……。ふむふむ。あ、そういうことか。じゃあ、Bじゃね?」
ページをめくる音。
慧「すげー合ってる! じゃあ、次の問題は……」
場面転換。
学校のチャイム。
先生「じゃあ、昨日やった小テストを返すぞ。相沢―、井上―……」
場面転換。
友人「ねえ、テストの結果どうだった?」
慧「ふっふっふ! 見ろ! 70点だ!」
友人「ええ! うっそ、いつも赤点の常連だったのに」
慧「俺はこのスーパー眼鏡により、生まれ変わったのだ」
場面転換。
町を歩く慧。
女性「ちょっと、止めてください」
不良「いいじゃねーか。ちょっと付き合えよ」
ピタリと立ち止まる慧。
慧「あいつは昨日の不良……。うう、怖い怖い。君子危うきに近づかずだ」
女性「止めてください! 人、呼びますよ」
不良「おお、おもしれ―じゃねーか。呼んでみろよ」
慧「おい、止めろ!」
不良「ああ?」
慧「ぎゃーーー! なにやっちゃってんの、俺!」
不良「なんだ、昨日のひ弱なガキじゃねーか。今度は残った100円も取ってほしいのか?」
慧「(つぶやくように)待て。相手はひ弱なチワワだ。チワワなら負けるわけがない。チワワチワワチワワチワワ……」
不良「何言ってやが……きゅーん……」
慧「はっはっはっは! ホントにチワワになりやがった! くらえ! 正義の股間蹴り!」
不良「ぎゃわん!」
慧「ふははは! 思い知ったか! チワワ野郎が!」
不良「ぐるるる……ぎゃわん!」
慧「痛っ! くそ、チワワのくせに! うおおお!」
不良「ぎゃわわわん!」
場面転換。
慧「……ちくしょう。チワワに負けるなんて」
女性「あの……ありがとうございました」
慧「いえ、いいんすよ。結局負けちゃったし。恰好悪いっすよね」
女性「そんなことないです! とっても格好良かったですよ」
慧「は、ははは……」
場面転換。
空手部。部員が練習している。
顧問「なに? 入部したいだと? どうしたんだ急に?」
慧「いや、さすがにチワワに負けたのがショックで……」
顧問「チワワ?」
慧「ああ、いや。どうせ、いつも暇だし、どうせなら部活でもやって時間を潰そうかなと」
顧問「まあ、動機はなんにしても、体を鍛えるのはいいことだ」
場面転換。
友人と歩く、慧。
友人「お前、最近、変わったよな」
慧「なにが?」
友人「なんていうか、明るくなったっていうか、前向きって言うか、前みたいにつまらないとか言わなくなっただろ」
慧「ああ。実際、部活やら、勉強やらやってると、忙しくなっちまってなー。空手もやってみると案外楽しいもんだよ」
友人「へー」
そこに女性が走ってくる。
女性「あ、よかった! ようやく会えた」
慧「あ、あなたは……」
女性「ごめんなさい。この前、お礼ができなかったでしょ? だから、改めてお礼がしたくて探してたのよ。メールアドレス、教えてくれる? 今度、食事でも行きましょ!」
慧「は、はい……」
女性が行ってしまう。
友人「お前! なんだよ、あの美人! どうやって出会った!」
慧「へへへ……。内緒」
友人「くっそー。俺も眼鏡買おうかな」
慧「ん? あ、すまん。ちょっと待っててくれ」
慧が走り寄る。
慧「占い師さん!」
占い師「おお、お兄さんじゃないか。どうだい? 眼鏡は?」
慧「最高! この眼鏡のおかげで俺、人生変わったよ」
占い師「ふむふむ。じゃあ、もうその眼鏡はいらないかもねえ」
慧「どういうこと?」
占い師「その眼鏡は、お兄さんが見える景色が変わるというものなんだよ。つまり、世界そのものが変わったわけじゃない。お兄さんの見方が変わったということだよ。だから、人生が変わったというのなら、お兄さんの力で変えたということさ」
慧「……よくわからないけど。自分が思ってたより、世界って面白いよ!」
占い師「ふふふ。これからも、楽しんで生きな」
慧「ああ! ホントありがと!」
慧が友人の元へ戻る。
友人「あ、そうだ。帰り、カラオケでも行かね?」
慧「お! いいね」
財布を開ける慧。
慧「……ごめん。パス」
友人「……貧乏なのは変わらないのな」
終わり。