■概要
人数:2人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、ラブコメ
■キャスト
日野湊(ひの みなと)
相沢結月(あいざわ ゆづき)
■台本
湊(N)「思えば、高校に入学してからずっとあいつに振り回されてきた気がする……」
図書館。
本を読んでいる湊。
結月「ねえ、あんた、名前は?」
湊「……なんだ、いきなり?」
結月「いいから。名前聞いてんの」
湊「……日野湊。クラスの自己紹介のときに言っただろ」
結月「クラス紹介のときなんて30人近くいたのよ。いちいち覚えてられるわけないじゃない。そういうあんただって、私の名前、憶えてるの?」
湊「……」
結月「ほらみなさい。相沢結月よ。よろしくね」
湊「てか、どうして俺なんかに話しかけてくるんだ?」
結月「あんたさ、クラスでも、いーっつも一人じゃない。昼休みだって、いつも図書室に閉じこもってさ。友達いないんでしょ?」
湊「うるさいな……」
結月「だから私が友達になってあげるって言ってんの」
湊「あげるって……」
結月「じゃあ、さっそく行くわよ」
湊「行くってどこにだよ?」
結月「とにかく図書室から出るわよ。ここじゃろくに話すこともできないわ」
湊「いや、俺はお前と話す気は……」
結月「ほら、さっさと立つ!」
湊「あ、ああ……」
湊が立ち上がる。
結月「ついてきなさい、湊!」
湊「いきなり名前を呼び捨てかよ……」
場面転換。
湊「……結月。別にいいって」
結月「つべこべ言わないで、さっさと蹴る!」
湊「はいはい……」
湊がボールを蹴る。
結月「ちょっと、どこ蹴ってんのよ!」
湊「だから、下手だって言っただろ」
結月「こんなの練習すればすぐに上手くなるわよ」
湊「そもそも、練習なんていいって。俺、サッカー部でもないんだしさ」
結月「ダーメ! あんた、この前の体育でミスして、みんなにバカにされてたでしょ」
湊「……別に、お前には関係ないだろ」
結月「はあ? 大ありよ! 下僕のあんたがバカにされてたら、主人の私の顔が立たないっての!」
湊「……いつの間に、俺はお前の下僕になったんだ?」
結月「ほら、練習再開するわよ!」
湊「はいはい……」
場面転換。
セミの鳴く声。
結月「……暇ね」
湊「……用事もないのに、呼び出すなよ。夏休みくらい、ゆっくりさせてくれ」
結月「何言ってんのよ! あんたは私の下僕なんだから、主人の私を楽しませなさい!」
湊「だから、お前の下僕になったつもりはねーよ。……って、そうだ。水族館でも行くか? 前に家のチラシに挟まってたんだ」
結月「ふーん。割引券か……。無料券の方がいいわ」
湊「無茶言うなよ」
結月「ま、いいわ。暇を持て余すくらいなら、魚でも眺めながら涼んだ方がいいわね」
湊「よし、じゃあ、行くか」
結月「ちょっと! 何、あんたが仕切ってるのよ!」
場面転換。
セミの鳴く声。
結月「……暇ね」
湊「……だから、用もないのに連日呼び出すなよ」
結月「湊。あんた、ちょっと芸でもやって、私を喜ばせなさい」
湊「……一回、殴るぞ」
結月「んー。何がいいかしらね。道具を使わないで、すぐできる芸……。あ、そうだ! パントマイムがいい」
湊「……いや、パントマイムがいいって言われてもな」
結月「ほら、早くやる!」
湊「はあ……。はいはい。……こうか?」
結月「……ドヘタね」
湊「やったことないんだから、仕方ないだろ」
結月「いいわ。手本を見せてあげる。こうよ!」
湊「おお。何気に上手いな」
結月「さ、やってみて」
湊「え? まだ続けんの?」
結月「当たり前でしょ! 私を楽しませるくらいのレベルになるまでやってもらうわ」
湊「……はあ」
場面転換。
湊「……よっ! ほっ……」
結月「あはははは! 上手い、上手い!」
湊「……っと」
結月「んー、今のはいまいちね。……こうじゃない?」
湊「いや、……こうだろ」
結月「やるじゃない。じゃあ、これは?」
湊「ならこうだ……」
パチパチと拍手が起きる。
結月「へ?」
湊「な、なんで囲まれてるんだ、俺たち」
結月「……大道芸人か何かと間違われてるとか?」
湊「どうすんだよ、すごい注目されてるぞ」
結月「……続けるしかないわね」
湊「マジかよ……」
場面転換。
ワッと歓声と拍手が巻き起こる。
結月「ありがとうございました!」
湊「ありがとうございました」
観客たちが去っていく。
湊「ぷっ……」
結月「ふふ……」
湊・結月「あははははははは!」
結月「意外と楽しかったわね」
湊「そうだな」
場面転換。
雨が降りしきる音。
湊「結月、何してる……って、雨か」
結月「うん……」
湊「お前、まさか、傘忘れたのか?」
結月「うるさいわね!」
湊「しゃーねーな。ほら」
結月「あんたはどうすんのよ?」
湊「そこまで大振りじゃないし、走って帰るさ」
結月「それであんたに風邪ひかれたら、私が悪いみたいじゃない!」
湊「じゃあ、どうすんだよ」
結月「仕方ないわね……」
傘をバンと開く。
結月「特別に入れてあげるわ」
湊「いや、元々、俺の傘だぞ、それ」
場面転換。
相合傘で歩く二人。
結月「ちょっと、あんた、肩濡れてるわよ」
湊「しゃーないだろ。元々、一人用の傘なんだから」
結月「だったら、もっとこっち来なさい!」
湊「お、おう……」
沈黙のまま歩く二人。
湊「そういえばさ。なんで、俺だったんだ?」
結月「何の話?」
湊「お前が図書館で俺に、初めて声をかけたときのこと。……なんで、俺だったんだ?」
結月「あのとき、言ったでしょ! あんた、友達がいなさそうだったから、気を利かせてやったのよ」
湊「そっか……」
結月「なによ? 迷惑だった?」
湊「いや。感謝してるよ」
結月「ちょ、急に気持ち悪いわね」
湊「お前があの時、声をかけてくれなかったら、俺は今でもずっと一人で本ばかり読んで過ごしてただろうなって」
結月「読書を否定するつもりはないけど、せっかくの学生生活なんだもん。楽しまなきゃ損じゃない?」
湊「そうだな……」
結月「……実は私も感謝してる」
湊「え?」
結月「……偉そうに言ってたけど、私も友達いなかったから。……だから、同じボッチのあんたなら、友達になってくれるかなって……」
湊「へえ……」
結月「って、今のなし! 恥ずっ! 私、何言ってるんだろ!」
湊「そんなに恥ずかしがることか?」
結月「あ、雨止んでる!」
湊「え? あ、ホントだ」
結月「見て、湊! 虹!」
湊「おお……綺麗だな」
結月「うん……」
湊「……」
結月「さ、私、こっちだから」
湊「おう。また明日な」
結月「うん。また明日」
結月が小走りで去っていく。
湊「……あ」
ポタっと、再び雨が降ってくる。
結月「きゃっ! もう、また?」
傘を出して、バンと開く結月。
湊「……あいつ、傘持ってんじゃん」
湊(N)「きっとこれからも、結月に振り回される学園生活を送るだろう。けど、まあ、それも悪くないかなと思っている」
終わり。