■概要
人数:2人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
誠司(せいじ)
雫(しずく)
■台本
誠二(N)「俺には少しとぼけた幼馴染がいる。いつもボーっとしていて、何を考えているかわからない。いわゆる不思議ちゃんってやつだ。周りの人間も、この理解できない人間を敬遠して避けている。そんなとぼけた奴でも、こと演劇となれば、人が変わったように役を演じていく。それはもう、本当に見ている人間を魅了してしまうほどだ。そんな変わった幼馴染。俺はどうせ、この先もずっとこいつと一緒にいることになるんだろうなって思い込んでいたんだ」
誠司「おーい、雫。何やってんだ。学校遅刻するぞー」
雫「あー、誠ちゃん。今行くー」
トタトタと走り寄ってくる雫。
誠司「なんか、やってたのか?」
雫「あー、うん。ちょっと、演劇のれんしゅ―」
誠司「朝から頑張ってるな。けど、学校に遅刻したら、また先生に怒られるぞ」
雫「うん。わかってるー」
誠司「ホントか?」
雫「うん。たぶんー」
誠司「……」
場面転換。
誠司と雫が並んで歩いている。
セミの鳴き声が響く。
誠司「それにしても暑いなー」
雫「ん? そう?」
誠司「お前は体の感覚も鈍いんだな。この暑さでも平気なんて、ある意味羨ましいよ」
雫「えへへへ」
誠司「褒めてないけどな。にしても、雫。お前、夏休みとかどうするんだ? なんか、予定あるのか?」
雫「あれー? もう夏休みだっけ?」
誠司「明日からだよ」
雫「そっかー。寂しいなー」
誠司「寂しい? 何がだ?」
雫「誠ちゃんに会えなくなるのが」
誠司「は? どういうことだ?」
雫「私ねー。夏休みになったら、遠くに行くのー」
誠司「……聞いてないぞ」
雫「あー。今言ったからセーフ?」
誠司「アウトだ。……で、どこに行くんだ?」
雫「えーと、どこだっけ? なんか、山奥」
誠司「山奥? どこのだよ?」
雫「忘れたー。えへへへ」
誠司「えへへへ、じゃない。ったく。それで、いつまで行ってるんだ?」
雫「んー。わかんない」
誠司「いや、わかんないって……」
雫「……ごほ! ごほ! ごほ!」
誠司「お、おい。雫、大丈夫か?」
雫「あー、うん。大丈夫。最近、ちょっと体調悪くて―」
誠司「お前が体壊すなんて、珍しいな。そんなんで、出かけて大丈夫なのか?」
雫「うん。大丈夫だよー。たぶん」
誠司(N)「思えば、このとき、もっとよく雫に話を聞いておけばよかった。そのことは、今でも後悔している」
場面転換。
雫「うんしょ!」
ガチャっと物を置く音。
誠司「あれ? 雫、何やってるんだ?」
雫「あー、誠ちゃん。えっと、いらないもの捨ててるのー」
誠司「いらないもの? 随分と大量だな」
雫「うん。この際だから、色々処分するの」
誠司「へー。……ん? カセットテープとラジカセ? お前、よく、こんな骨とう品みたいなの持ってるな」
雫「あー、うん。小さい頃から使ってたの」
誠司「……それなのに捨てるのか?」
雫「うん。もう必要なくなったからー」
誠司「そっか」
雫「それじゃね、誠ちゃん」
誠司「あ、ああ」
雫「さよなら」
誠司「え?」
雫が歩き去っていく。
誠司「なんだ、あいつ。さよならなんて、柄にもないこと言いやがって。……カセットテープか。ラジカセも揃ってるし、ちょっと聞いてみるかな。どうせ、捨てるものだし、大丈夫だよな?」
誠司が荷物を持ち上げる。
場面転換。
誠司が部屋の中で、ラジカセにテープをセットしている。
誠司「よし、再生っと」
再生ボタンをガチャっと押す。
すると雫の声が流れてくる。
雫「私、口下手だから、こうやって手紙でしか思いをつづれないことを許してください」
誠司「手紙じゃなくて、テープだけどな」
雫「まずは、最初にお礼を言わせてください。小さい頃から、私と一緒にいてくれて、本当にありがとう」
誠司「……なんだよ、急に。照れくさいこと言いやがって」
雫「あなたと過ごした日々は、私にとって、どんな宝石よりも光り輝いて、思い出として鮮明に残っています」
誠司「……」
雫「私のことは、あなたの中に残っていてくれているでしょうか」
誠司「……もちろんだよ」
雫「もし、あなたの中に、私の存在が残っていてくれているのなら、本当に嬉しいです」
誠司「……」
雫「でも、もし、本当にそうなら……。どうか忘れてほしいです」
誠司「……え? ど、どういうことだよ?」
雫「私はあなたのことが大好きだから、あなたの心の棘になりたくありません」
誠司「なに言ってんだよ。意味、わかんねえって」
雫「実は私、不治の病で、もう長くありません」
誠司「……え?」
雫「もう少ししたら、私は最後の時をゆっくりと過ごすために、山奥の診療所に行きます」
誠司「……そんな」
雫「本当はあなたに、このことを伝えて、別れの言葉を言おうか迷いました。でも、そうしたら、私は、あなたへの思いがあふれ出してしまいます。あなたと死ぬまでずっと一緒にいたくなります。そして、あなたはきっと、そんな私を受け入れてくれるでしょう。でも、私は嫌なんです。私を看取ることで、あなたの心に、私という棘が重く深く刺さることが」
誠司「……バカ……やろう……」
雫「これは私からの、最後のお願いです。……どうか、私のことは忘れてください」
誠司「忘れられるわけないだろ!」
立ち上がる誠司。そして、走り出す。
場面転換。
呼び鈴を何度も押す、誠司。
誠司「雫! 出てきてくれ! 頼む!」
しかし、家からは誰も出てこない。
誠司「くそ……。もう行っちまったのか。くそ! くそ! くそ! なんでだよ! どうして言ってくれなかったんだ! 雫―!」
誠司(N)「そして、俺はこのあと、3日間ほど泣いて過ごした。あの時、なんでもっと雫に話を聞かなかったのか、後悔しながら……」
場面転換。
雫「ただいまー、誠ちゃん。これ、お土産」
誠司「……おう。さんきゅ。楽しかったか? 海外旅行は?」
雫「んー。やっぱり、誠ちゃんに会えないのが寂しかったかなー。今度は誠ちゃんと一緒に行きたい―」
誠司「……そうだな」
誠司(N)「この事件のオチは、テープの続きを聞くことでわかる」
ガチャっと再生ボタンを押す音。
雫「本当にありがとうございました。私の人生はとても楽しかったです。……さようなら、ライオネット。……ライザの手紙、終わり。んー。こんな感じかなぁ?」
遠くで、誠司の声が聞こえる。
誠司「おーい、雫。何やってんだ。学校遅刻するぞー」
雫「あー、誠ちゃん。今行くー」
ガチャっと録画ボタンが切られる音。
誠司(N)「ちなみに、ラジカセは新しいものを買ってもらったので、いらなくなったそうだ」
終わり。