■概要
人数:6人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、ファンタジー、シリアス
■キャスト
カイル
レイラ
王
魔王
ニーナ
アレク
■台本
カイル「はああああ!」
ザシュっと魔王を切り裂く音。
魔王「ぐああああああ!」
魔王が倒れる。
カイル「はあ、はあ、はあ……」
レイラ「カイル! 大丈夫?」
カイル「ああ、平気だよ、レイラ」
魔王「くそ……。人間め」
カイル「魔王よ、何か言い残すことはあるか?」
魔王「我が同胞らよ……すまない。これより、魔物は暗黒時代に入ってしまう」
カイル「今までは、人間の暗黒時代だった」
魔王「……さあ、やれ」
カイル「……さらばだ」
ザシュっと剣を突き立てる音。
レイラ「ようやく……終わったのね」
カイル「ああ。これで世界は平和になった。さあ、帰ろう。俺たちの国に」
カイル(N)「こうして、俺たちは魔王を倒し、世界は平和な時代になった。そして、魔王を倒し、魔族の脅威が消えてから、5年の月日が流れた」
王「勇者カイルよ。そなたらの活躍に関しては、どんなに感謝してもしきれない」
カイル「……はい」
王「魔族はほとんど姿を消し、町の復興も進んでいる」
カイル「……はい」
王「すまぬ、勇者カイルよ。平和となった、この時代に、そなたらの力は強大過ぎる。家臣の中には、世界に平和をもたらした、勇者こそが世界を統べるべきだ、なんていう話が出ている」
カイル「……」
王「敵を倒すことと、国を統べることは全く違うのだ」
カイル「……はい」
王「サントの山奥に家を用意した。すまぬが、カイルよ。そこに隠居してくれぬだろうか?」
カイル「……」
王「平和な世に、強大な力は、争いの火種となる。頼む。……飲み込んでくれぬか? もちろん、援助は惜しまないつもりだ」
カイル「……わかりました」
場面転換。
ドアが開き、カイルが家の中に入って来る。
カイル「ただいま、レイラ」
レイラ「お帰りなさい、カイル」
カイル「アレクは?」
レイラ「ちょうど今、寝たところよ」
カイル「抱いたらダメかい?」
レイラ「ふふ。泣かれても知らないわよ」
カイル「大丈夫さ」
カイルが歩いて、立ち止まり、アレクを抱きあげる。
だが、すぐにアレクが泣き始める。
カイル「アレク。お父さんだぞ。大丈夫だ、怖くないからな」
しかし、アレクが泣き続ける。
カイル「……すまない」
レイラ「くすっ。はいはい」
カイルがレイラにアレクを渡す。
レイラ「よしよし、アレク。泣かなくてもいいのよ」
アレクがピタリと泣き止み、笑い始める。
カイル「父親だって自信なくなるな」
レイラ「ふふ。ちょっとしたコツよ」
カイル「……なあ、レイラ。俺が留守の間、なにかなかったか?」
レイラ「……それが、王の使者が来たわ。謁見しに来て欲しいって」
カイル「やはりか」
レイラ「どういうこと?」
カイル「王は戦争を起こす気だ。隣国のウォーレンとな」
レイラ「……それで、どうしてあなたが呼ばれるの?」
カイル「決まってるさ。勇者として、また、剣を振るってほしいだ。……今度は人間相手にね」
レイラ「そんなの勝手だわ! 邪魔だから、こんな偏狭な場所に追いやったのに。今度は戦争するから戻って来いだなんて……」
カイル「王は顕示欲にまみれている。この大陸全てを手中に収めたいんだろう」
レイラ「……まるで、魔王ね」
カイル「魔王さえ、なしえなかったことをやりたいのさ」
レイラ「……それで、どうするの? 行くの?」
カイル「いや。俺はもう隠居した身だからね。ここでゆっくり余生を暮らさせてもらうさ」
レイラ「そうね。あなたはもう、十分戦ったわ」
カイル「……」
場面転換。
コンコンと、ドアをノックする音。
カイル「はい?」
カイルがドアを開ける。
ニーナ「カイル様! 助けてください!」
カイル「……君は、妖精のニーナ。どうしたんだい? ユエルの森から出るだなんて、珍しいね」
ニーナ「世界樹、ユグドラシルが切られました」
カイル「……なっ! なんだって! 待ってくれ! 魔族にユグドラシルを切る力なんて残ってない……いや、ユエルの森に入ることすらできないはずだ」
ニーナ「はい。世界樹を切ったのは魔族ではありません」
カイル「では、何者が?」
ニーナ「人間です」
カイル「そんなバカな! 世界樹は神聖なものだど、世界の調和を保つ存在だって、知っているはずだ」
ニーナ「だからです。今や、人間たちは自分の領土を広げることに躍起になっています。そのためには、平和の象徴である世界樹が邪魔になったのです。それに、世界樹には強大な力が宿っていますから、それを利用しているようです」
カイル「他の妖精たちはどうしてる? 無事か?」
ニーナ「……それが、戦える者は、人間達に抗ったのですが、全滅しました」
カイル「全滅!? 妖精達が? いくら人間たちの兵の数が多いからって、そんなに簡単には……」
ニーナ「それが、人間たちは……その……」
カイル「なんだ?」
ニーナ「魔族たちを捕えて、兵士として使っています」
カイル「魔族を人間たちの戦争に利用しているのか?」
ニーナ「はい……」
カイル「……」
場面転換。
鎧を装着し、兜をかぶるカイル。
レイラ「お願い、カイル。考え直して。あなたはもう、戦う必要はないはずだわ」
カイル「いや。魔王を倒し、人間たちの平和を作った俺には、人間たちの暴走を止める責任がある」
レイラ「……」
カイル「大丈夫さ。必ず、生きて戻ってくる」
レイラ「あなた……」
そのとき、抱いていたアレクが泣き出す。
カイル「アレク……。ごめんな。お父さん、ちょっと行って来る」
尚も泣き続けるアレク。
カイル「……レイラ。アレクを頼んだ」
レイラ「……うん」
泣き続けるアレク。
カイル「……アレク。もしも……。もしも、お父さんが道を踏み外してしまったら、お前がお父さんを止めて欲しい」
レイラ「う、うう……」
レイラが泣くのをこらえる。
カイル「それじゃ、行って来る」
カイルがドアを開け、家を出ていく。
終わり。