■概要
主要人数:3人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
心音(こころ)
蒼汰(そうた)
静香(しずか)
■台本
居酒屋。
周りがガヤガヤと騒がしい。
蒼汰は大分、酔っぱらっている。
心音「はいはい。ご馳走様。すみませーん! ハイボールおかわり、お願いしますー」
蒼汰「なあ、心音。ちゃんと聞いてくれよ。俺、悩んでるんだからさー」
心音「……そんなに好きなら、さっさと告白しちゃいなさいよ」
蒼汰「いや、でも……。怖ぇよ……」
心音「ったく、恋愛に関しては、蒼汰は奥手よね。そんなに心配しなくても、大丈夫だって。勢いで言っちゃいなよ」
蒼汰「……なあ、心音」
心音「なに?」
蒼汰「俺……さ」
心音「な、なによ。真剣な目、しちゃって」
蒼汰「目の前がグルグルする」
心音「は?」
バタンと突っ伏す蒼汰。
心音「ちょっと! 蒼汰! 蒼汰―!」
場面転換。
心音「あ、お釣りはいいです」
タクシーから蒼汰を抱えて降りる心音。
歩いて、家の玄関の前に立つ。
心音「蒼汰、家のカギ! 出して」
蒼汰「……うう。好きだ……」
心音「……言う相手が違うでしょ。ったく、人の気も知らないで」
ガサガサとポケットを漁る心音。
心音「あ、あったあった。これよね」
玄関のカギを開ける心音。
場面転換。
大学の教室。
蒼汰「あうう……。すげー、フラフラする」
心音「あんた、酒、弱かったのね。今度から抑えて飲みなさいよね」
蒼汰「俺さ。昨日は、飲んでた途中までの記憶しかないんだよ。どうやって帰ったのか全然、思い出せねー。お前が、送ってってくれたんだよな?」
心音「……」
蒼汰「心音?」
心音「私じゃないよ、蒼汰を送ってったの」
蒼汰「え? 嘘だろ? じゃあ、誰が?」
心音「……昨日、別れるとき、あんた、普通にしてたわよ。いや、いつもより、なんかキビキビしてた感じだったけど」
蒼汰「……全然、記憶にないな」
心音「もしかしたらさー。別の人格に入れ替わってたりして」
蒼汰「は? なんだよ、それ?」
心音「知らない? 多重人格」
蒼汰「いや、聞いたことあるけど……。俺がってことか? ないだろ」
心音「わかんないわよ。昨日、どうやって帰ったか覚えてないんでしょ? 昨日、あんたは一人で帰ってたわよ。酔ってたようには見えなかったし」
蒼汰「いやいやいやいや。20年間生きてて、違う人格がいることに気付かないってあり得無くないか?」
心音「私さ、ゼミで心理学取ってるけど、お酒がきっかけで、違う人格が目覚めるって症例があるみたいよ」
蒼汰「ま、マジで?」
心音「……嘘だけど」
蒼汰「え?」
心音「ううん。なんでもない。とにかく、少し、様子見て見れば?」
蒼汰「そうだな。まあ、多重人格なんて、無いと思うけどな」
場面転換。
夜。蒼汰が寝息を立てている。
小さい音で、鍵のロックが外される音。
そして、ドアが開き、心音が部屋に入って来る。
心音「よし、熟睡してるわね。それじゃ……」
場面転換。
蒼汰が走って来る。
蒼汰「心音!」
心音「どうしたの? そんなに慌てて」
蒼汰「俺……やっぱり、多重人格かも」
心音「なんかあったの?」
蒼汰「あ、朝、起きたら、部屋が妙に片付いてて、テーブルの上に、俺が絶対買わなさそうなファッション雑誌が置いてあったんだよ。しかも、レシートも一緒に。レシートに書いてある時間も、完全に寝てた頃だ」
心音「……落ち着いて、蒼汰。こういうときは、変に疑ったり、探ろうとしちゃダメなの。精神的に負担が掛かったら、さらに、酷いことになるわよ」
蒼汰「け、けど……」
心音「大丈夫。私が治す方法を考えるから、なるべく、気にしないようにして」
蒼汰「わ、わかった……」
場面転換。
大学の食堂。
心音「ねえ、静香。あんた、蒼汰のこと、どう思ってるの?」
静香「……ええ? 蒼ちゃん? んー。幼馴染」
心音「いや、そうじゃなくて、恋愛対象として有りか無いか、どっちなのよ?」
静香「んー。わかんない。考えたことなかったから」
心音「もし、蒼汰から告白されたら付き合う?」
静香「んー。どうなんだろ?」
心音「ねえ、静香。こういうときは、一回付き合ってみたら、どう?」
静香「んー。でもぉ……」
心音「蒼汰のこと、嫌い?」
静香「ううん! そんなことない!」
心音「ならさ、付き合っちゃいなよ」
静香「でもぉ、そんな急には……」
心音「まずはデートかな。静香は、このアプリ入れてる?」
静香「ううん。入れてない」
心音「スマホ貸して。私、蒼汰のID知ってるから、アプリ入れた後、登録しておくね。……そうだ。そのままデートに誘っちゃおう」
静香「え? で、でもぉ……」
心音「まあまあ、私に任せておきなって。段取りは立ててあげるから」
スマホを操作する心音。
場面転換。
蒼汰の部屋。
蒼汰「悪いな、部屋に来てもらってさ」
心音「ううん。別にいいよ。で、なに?」
蒼汰「……俺の別人格、暴走を始めやがった。静香とアプリのID交換したみたいでさ。……静香から、デートに誘われた」
心音「よかったじゃない。奥手のあんたにはぴったりの別人格じゃない」
蒼汰「……好き勝手やられたら、困る」
心音「あ、そっか。あんたも不安だよね。でも、もう少しだけ待って。治す方法、もう少しでわかるから」
蒼汰「た、頼んだ」
場面転換。
蒼汰の部屋。蒼汰が寝息を立てている。
そこに心音が入って来る。
心音「さてと、最後の仕上げね」
紙にペンで文字を書き始める心音。
心音「静香に告白した。明日の昼に中庭に呼び出したから、返事を貰え……と。静香にも同じことを伝えておいたし、これで十中八九上手くいくわ」
蒼汰の寝息。
心音「……たく。さっさと付き合ってくれないと、吹っ切れないじゃない……」
場面転換。
中庭。蒼汰が走って来る。
蒼汰「静香!」
静香「あ、蒼ちゃん!」
蒼汰「昨日の件だけど……」
静香「昨日?」
蒼汰「あ、いや、その……お前に告白したって話……「
静香「私に……告白?」
遠くから見ていた心音が立ち去る。
心音「……二人とも、幸せにね。……あれ? やだ。涙が……止まらない。うう……うわーん」
場面転換。
中庭。
心音がやってくる。
心音「……話ってなに?」
蒼汰「……お前の仕業だろ? 多重人格って思わせて、色々動いてたの」
心音「気づかれちゃったか」
蒼汰「あのメモ。よく見たら、お前の字だって気づいた」
心音「あー。そっか。メモか」
蒼汰「……なんで、こんなことしたんだよ?」
心音「感謝して欲しいくらいよ。あんたたちの煮え切らない関係を進展させてあげたんだから」
蒼汰「迷惑だ」
心音「なによ。私のおかげで、静香と付き合えたんじゃない」
蒼汰「断ったよ。静香のことは」
心音「……え? なんでよ? 人がせっかく!」
蒼汰「だって、俺が好きなのは……お前だから」
心音「は?」
蒼汰「だーかーら。俺が好きなのは、静香じゃなくて、お前だよ……」
心音「いやいやいや。だって、あんた、居酒屋のとき……」
蒼汰「あ、あれはその……お前の反応を見るためだったんだ。俺が静香のことが好きっぽい感じで言ったら……やきもち焼くかなって……」
心音「はあああ? なによそれ?」
蒼汰「ご、ごめん……」
心音「……」
蒼汰「あのさ、心音。改めて言う。俺と……付き合ってくれ」
心音「……はあ。結局、私がやったことは意味なかったってことね」
蒼汰「けど、今回のことで、煮え切らない関係を進展できたんじゃないか?」
心音「……ま、そういうことにしておくわ。ふふ」
終わり。