■概要
人数:3人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
雅和(まさかず)
巴(ともえ)
その他
■台本
雅和(N)「巴はただ、隣に住んでいた。ただ、それだけだった」
雅和と巴が3歳の頃。
巴「雅和ちゃん、あーそーぼ!」
雅和「うん、いいよー! 今日は何してあそぶ?」
巴「えーっとねえ、公園行ってあそぼ!」
雅和(N)「巴とは年が同じということで、一緒に遊ぶことが多かった。気付けば、誰よりも仲良くなっていて、いつの間にか、巴は隣に住んでいて、さらに幼馴染というやつになっていた」
場面転換。
雅和と巴が5歳の頃。
巴「ほら、雅和。こっちこっち」
雅和「ちょっと待ってよ、巴」
巴「あははは。早く来ないと置いてっちゃうぞー」
雅和「よーし! 一気に追いつくぞー。あっ!」
雅和が転ぶ。
雅和「うう……。痛いよぉ」
巴「大丈夫? ほら、泣かないの。痛いの痛いの飛んでけー。ね? もう痛くないでしょ?」
雅和「う、うん……」
巴「じゃあ、行こうか。今度は手を繋いでいこっか」
雅和「うん……」
雅和(N)「一目惚れ……だったと思う。いつも明るくて、優しくて、笑顔が可愛い。巴は俺にとって、隣に住んでいて、幼馴染で、初恋の人となった……」
場面転換。
雅和「やあ!」
巴「えい!」
巴の拳の方が先に雅和に当たり、雅和が吹っ飛ぶ。
雅和「うわあ!」
巴「えへへへ。また、雅和の負け―!」
雅和「くそー! もう一回勝負だ!」
巴「いいよ。何度やっても私の勝ちだけどね」
雅和(N)「何となく、二人で習い始めた空手。巴はかなりの才能の持ち主で、俺は一度も、巴に勝てていない。それからは、巴は俺にとって、隣に住んでいて、幼馴染で、初恋の人でライバルになった」
場面転換。
母親「雅和。お隣さんの昇平(しょうへい)さんと巴ちゃんは、今日から家族になるの。巴ちゃんは妹になるのよ」
巴「えー。私の方が妹? お姉ちゃんじゃないの?」
母親「くすっ。仕方ないのよ。雅和の方が誕生日早いんだもの」
雅和(N)「母親がお隣の……つまり巴の父親と結婚することになった。この日、俺にとって、巴は幼馴染で、初恋の人でライバルで……そして、妹になった」
場面転換。
雅和と巴が17歳になっている。
巴「ねえ、雅和。最近、どうして練習に出ないの? 師範、怒ってるよ?」
雅和「んー。なんか、気が乗らなくてな―」
巴「師範、勿体ないって言ってたよ。せっかく全国大会に行けたのにさ」
雅和「一回戦負けだぞ。大したことねえって」
巴「そうかなー。十分、すごいって思うけど」
雅和「全国大会一位のお前が言うと嫌味なんだよ」
巴「そういうつもりじゃないんだけど」
雅和「それより、お前。そろそろ、俺のこと兄さんとか兄貴とか呼べよ」
巴「えー。今更、なに? 雅和を兄って言うのなんか抵抗あるなー」
雅和「……いいから呼べよ」
巴「なんでよ?」
雅和「……」
雅和(N)「踏ん切りがつかないとは言えない。今でも俺にとって巴は、幼馴染であり、初恋の人であり、ライバルであり、妹でもある。……そして、好きな人でもあるんだ。せめて、兄と呼んでくれれば、吹っ切れると思うのに……」
雅和「……空手、辞めようかな」
巴「えー、なんで? 強いのに勿体ないよ」
雅和「……強い? 俺が? いまだにお前に一度も勝ってないんだぞ」
巴「もしかして、空手辞めるって、私のせい……?」
雅和「ち、ちげーよ」
巴「私は、雅和に空手を止めて欲しくない」
雅和「なんでだよ」
巴「だって、私、強い人が好きだから」
雅和「いや、好きって……」
巴「結婚するなら、私より強い人がいい」
雅和「いや、待てよ。俺達……」
巴「ねえ、知ってる? 血が繋がってなかったらね、兄妹でも結婚できるんだよ」
雅和「え?」
巴「あははは。じゃ、空手の練習に行って来るね。……雅和のことも待ってるから」
雅和「……」
場面転換。
一人で空手の特訓をしている雅和。
雅和「はっ! やっ! ふっ!」
場面転換。
一人で走り込みをする雅和。
雅和「は、は、は、は……」
場面転換。
一人で空手の特訓をしている雅和。
雅和「はっ! やっ! ふっ!」
巴「雅和。さすがに体壊すよ。少し、休んだら?」
雅和「なあ、巴。明日、試合してくれないか?」
巴「え? ……うん、わかった」
場面転換。
雅和「よろしくお願いします」
巴「よろしくお願いします」
しばらくの間。
雅和「やっ!」
巴「はあ!」
雅和「てい!」
巴「やあ!」
雅和「ふっ!」
ドス、っと雅和の拳の方が当たる。
巴「うっ!」
雅和「……」
巴「はは。私の負けかな」
雅和「やった……。よっしゃー! 勝った!」
巴「……ふふ。もう、子供みたいにはしゃいで」
雅和「なあ、巴。俺……」
巴「ちょっと待った」
雅和「え?」
巴「まだ、たったの一回しか勝ってないじゃない。それじゃ私より強いっていうことにはならないんじゃない?」
雅和「へ?」
巴「でも、そうだなぁ。一回勝ったご褒美として、彼氏くらいにしてあげる」
雅和「……」
雅和「その日、俺にとって巴は幼馴染で、初恋の人で、ライバルで、妹で、好きな人で、彼女になった。……これからも巴とは複雑な関係になっていくだろう」
終わり。