鍵谷シナリオブログ

【声劇台本】風邪

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■概要
人数:2人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス

■キャスト
久実(くみ)
石倉 昇司(いしくら しょうじ)

■台本

久実(N)「私は昔から病弱で、なかなか学校にも行けなかった。最初はこんな体の自分が嫌だったけど、今では嫌とこの体で良かったと思う気持ちが半々になっている」

ガチャリとドアが開く音。

昇司「よお、久美! 体調はどうだ?」

久実「ちょっ! 昇ちゃん、女の子の部屋にいきなり入って来ないでよ」

昇司「ん? ああ、すまんすまん。おばさんがいいっていうから、つい、な」

久実「もう、お母さんったら……」

昇司「それより、ほら、今日の宿題、持ってきたぞ」

久実「うっ! 余計具合悪くなるんだけど」

昇司「何言ってんだよ。そんなんじゃ、進級できないぞ」

久実「いや、小学校じゃ留年はしないよ」

昇司「勉強が付いていけなくなったら同じだろ。ほら、教えてやるから一緒にやるぞ」

久実(N)「4年生のとき、一緒のクラスになった石倉昇司くん。クラス委員で、学校を休みがちな私に気を使ってくれる。それは進級してからも変わらなかった」

場面転換。

久実「はあ……はあ……はあ……」

ガチャリとドアが開く音。

昇司「おはよう、久美、具合はどうだ?」

久実「……もう、急に入って来ないでって……え? あれ? 昇ちゃん、なんでここにいるの?」

昇司「ん? なんでって言われても……お見舞い?」

久実「いやいや。だって、今日、遠足じゃ……」

昇司「そうだな」

久実「早く学校に行かないと」

昇司「いいんだよ。遠足ってことは、授業がないってことだろ? なら、サボっても問題なし!」

久実「で、でも……」

昇司「俺、歩くの好きじゃないんだよ。サボる口実できて、ラッキーって感じだな」

久実「……」「

昇司「それに、ほら、遠足ならここでもできるし」

ガサガサと袋からお菓子を出す昇司。

久実「……昇ちゃん。遠足ってお菓子を食べることじゃないよ?」

昇司「そうなのか? まあ、細かい事はきにすんなって」

久実(N)「昇ちゃんは私が学校の行事を休むことになったら、必ず私のところに来てくれる。そして、その行事で昇ちゃんと一緒に過ごしていたはずの時間を、私の部屋で過ごしてくれるのだ」

久実「でも……いいの? クラス委員が遠足サボって」

昇司「ん? 俺、もうクラス委員じゃねーぞ」

久実「え? そうなの?」

昇司「あんな面倒なの、3年連続でやれるかよ。今年は勘弁してください、って言ってやったよ」

久実「もしかして……私のせい?」

昇司「……俺の話聞いてたのか?」

久実(N)「クラス委員だった頃も、たびたび、学校の行事をサボったことで、昇ちゃんは先生に怒られていた。……今年はクラスに迷惑がかからないように、クラス委員をやらなかったんだ……」

久実「ごめんね、昇ちゃん」

昇司「いや、だから、なんでお前が謝るんだよ。それよりほら、お菓子食うぞ」

久実「……いや、風邪なのにお菓子って。ダメだよ」

昇司「あっそ」

バリバリとお菓子を食べる昇司。

久実「……や、やっぱりちょうだい」

昇司「ん、ほら。好きなの取れ」

久実(N)「昇ちゃんは、いつも私に優しい」

場面転換。

ガチャリとドアが開く音。

昇司「久美、どうだ? 調子は?」

久実「大分いいよ。今日は念のために休んだだけだから」

昇司「念のため?」

久実「だって、一週間後でしょ。修学旅行。絶対休みたくないんだ」

昇司「……そうだな。それより、お前、自由時間にどこに行くか決めたのか?」

久実「あっ!」

昇司「ったく。そんなんだと思ったよ。ほら、色々パンフレットとか貰ってきたから、どこ行くか、決めようぜ」

久実「うん」

久実(N)「修学旅行。小学校の最後の思い出。……おそらく、中学校は違う学校に行くから、昇ちゃんとの思い出も、これが最後になるんだと思う」

久実「ここに行きたいなー。あ、ここもいい! ああー、ここも!」

昇司「久美。楽しみなのはわかるけど、前の日に楽しみ過ぎて熱出すとかならないようにしろよ」

久実「あははは。小学生じゃあるまいし」

昇司「いや、小学生だろ」

久実「大丈夫ですー! 当日は絶対熱なんか出しません―! 出ても、這ってでも行きますー」

昇司「うーん。フラグのようにしか聞こえないな」

久実「……ねえ、昇ちゃん」

昇司「ん?」

久実「もし、さ。もし、私が当日、熱出て、休むことになっても、昇ちゃんは行ってね。修学旅行」

昇司「……ああ。わかった」

場面転換。

久実(N)「フラグが立つと、必ず回収してしまう。それが私だ……」

久実「はあ……はあ……はあ……。今頃、昇ちゃんは出発したかな……。……行きたかったな……修学旅行……」

ガチャリとドアが開く音。

昇司「よお、久美。具合はどうだ?」

久実「え? 昇ちゃん、なんで? なんで、ここにいるの?」

昇司「なんでって言われても……お見舞い?」

久実「バカ! どうしてよ! 行ってって言ったじゃない! どうして……。修学旅行なんだよ?」

昇司「俺、旅行、あんまり好きじゃないんだよ。それに、修学旅行なら、ここでもできるしな」

久実「できるわけないじゃない!」

昇司「甘いな。この前持ってきたパンフレットあるだろ? あれを見ながら、行った気分になるんだよ」

久実「……バカ、バカ、バカ……」

昇司「自覚してるから、あんまり言うなよ」

久実「もう、私嫌だよ。私、こんな風邪ばっかりひく体、嫌……」

昇司「……」

久実「どうして? どうして、そこまでしてくれるの?」

昇司「……それはきっと、俺も、風邪だからだよ」

久実「え?」

昇司「……その……恋っていう……病」

久実「……ぷっ。あはははははは」

昇司「ちょ、おまっ! 笑うなよ!」

久実「ふふふ。……昇ちゃん。私もね、ずっと、ずーっとかかってたよ。恋の病。この先もずーっと、ずーっと治らない病」

昇司「……そっか。お互い、病弱だな」

久実「うん。そうだね」

終わり。

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