■概要
人数:4人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代ファンタジー、コメディ
■キャスト
新吾(しんご)
山下(やました)
幹部(かんぶ)
ガオレイン
■台本
新吾(N)「世の中は今、不景気の真っ只中。俺は例外、とはならず、当然のように不景気の煽りを受け、失業した。だが、もちろんだが生きていくにはお金が必要だ。ということは働かなくてはならない。この不景気の中、職を選んではいられないのだ。その仕事がどんなに辛くても、会社がブラックでも生きていくためには続けるしかない。……そう。俺は今、悪の秘密結社の下っ端として働いている」
ガオレイン「ガオレイン、参上!」
幹部「現れたな、ガオレイン! ものども、かかれ!」
シャー!という大勢の下っ端の掛け声。
新吾「よし、いくぞー! シャー!」
ガオレイン「ガオレインキーック!」
ガオレインの攻撃で吹き飛ぶ音。
新吾「うわああああ!」
場面転換。
新吾「いてて……」
山下「よお、お疲れ」
新吾「あ、お疲れ様です」
山下「どうだい? この仕事、慣れたかい?」
新吾「はは。生傷は絶えませんが、大けがはしなくなりましたよ」
山下「この仕事は身体が資本だからね。怪我には気を付けないと」
新吾「そうですね。この前なんか、治療費の方が給料を上回りましたよ」
山下「はははは。この組織に労災なんて概念はないからね」
新吾「ブラック会社も真っ青ですね」
山下「私もいつまでこの仕事を続けられるか……。そろそろ体力的にきつくなってきたよ」
新吾「……そういえば、先週の作戦にも参加してましたよね?」
山下「ああ。基本的には招集があれば、全部出てるよ」
新吾「ええ? 全部ですか? よく体、もちますね」
山下「これにはコツがあるんだよ。つまり、どれだけ上手く、やられたように見せるか、だね」
新吾「上手くやられたように見せる……ですか?」
山下「ああ。相手の攻撃をギリギリで避けて、その後、倒れるんだ。そうすれば、周りから見れば、その攻撃でやられたように見えるだろ?」
新吾「え? でも、それだと相手にバレませんか?」
山下「ガオレインは何人も同時に相手にしてるんだ。一人一人のことに気を止めたりしないよ」
新吾「で、でも、それっていいんですか?」
山下「指示は作戦に参加すること、なんだ。別に違反はしてない」
新吾「それだと、いつまでたっても成功報酬が貰えないんじゃ?」
山下「あー、無理無理! 一、下っ端がガオレインを倒せるわけないでしょ。そんな無茶苦茶な成功報酬を狙って怪我をするなら、10回、作戦に参加する方がよっぽど稼げるよ」
新吾「はは。徹底してますね」
山下「そりゃ、まあ、これでも家族の大黒柱だからね」
新吾「……家族はこのこと、知ってるんですか?」
山下「まさか。家族は、会社員をしてると思ってるよ。だから、余計に怪我は出来ない。あと、作戦中は顔が出ないのが助かってるよ」
新吾「あー、それは大きいですよね。まあ顔なんて出してたら、一発で捕まっちゃいますけどね」
山下「君はいつまで、この仕事をやるつもりなんだい?」
新吾「今のところは考えてません。景気がよくなって、転職できれば辞めますよ」
山下「まあ、景気がよくなれば、こんな秘密結社自体も消えるだろうけどね」
新吾「そりゃそうですね。ただ、今はこれしかできないので、何とか騙し騙しやっていきますよ」
山下「騙し騙しか……」
新吾「どうかしましたか?」
山下「……君は、今のガオレインをどう思う?」
新吾「え? 今の……ですか? いや、どうって言われても……」
山下「実は今回のガオレインは歴代の中で、群を抜いて弱いって噂なんだ」
新吾「え? そうなんですか?」
山下「ああ。幹部の人たちが、初めて勝てるかもって息巻いてるんだよ」
新吾「へー。そうなんですか。こっちからしたらいいことなんじゃないんですか?」
山下「……ホントにそう思うかい?」
新吾「……どういうことですか?」
山下「もし……。もしも、この秘密結社がガオレインを倒したらどうなると思う?」
新吾「どうなるって……。どうなるんですかね?」
山下「少なくても、戦いは終わるんじゃないか?」
新吾「……あっ!」
山下「気づいたようだね」
新吾「俺達の仕事がなくなる……」
山下「そういうことだ」
新吾「では、一体、どうすれば……」
山下「俺達、下っ端の為にガオレインには負けてもらうわけにはいかないのだ」
場面転換。
新吾「お疲れ様ですー」
幹部「おう。今日は本気でガオレインを倒しに行くからな。気合入れて行けよ」
新吾「勝算があるんですか?」
幹部「ふっふっふ。今回、本部から送られた怪人は凄いぞ。胸の部分についてるバリア装置で、全身にバリアが張れるんだ。これでガオレインの攻撃を無効化できる。そして、すごい新武器もあるからな」
新吾「へー、すごいですね。あ、コーヒー飲みます?」
幹部「お、すまんな。いただこう」
新吾「どうぞ」
幹部がコーヒーを飲む。
幹部「ふう。落ち着くなー」
場面転換。
幹部「はーっはっは! ガオレイン。貴様の命も今日で終わりだ! いけ、怪人!」
怪人「ガオ―――!」
ガオレイン「ぬぬ! 新しい怪人か! いくぞ! ガオレインキーック!」
バリアで弾かれる音。
ガオレイン「くっ! 効かない! では、ガオレインパンチ! 100連発だ!」
その攻撃が全てバリアで弾かれる。
ガオレイン「くそっ!」
幹部「くっくっく! 勝ったな」
山下「シャー! いいぞー! 行け―! 胸の弱点には気を付けろよー!」
ガオレイン「そうか! あの胸の変な装置が弱点なのか! よし、ガオレインキーック!」
怪人「グガアアアア!」
ガオレインの攻撃がヒットし、怪人が倒れる。
幹部「くそ! バカめ。わざわざ弱点を明かしおって。まあ、いい。今日はまだ、この新しい秘密……兵器……が……あれ?」
ガオレイン「どうした? フラフラしてるぞ?」
幹部「あれ? なんだろ? 急に眠気が……」
バタリと幹部が倒れる。
新吾「よし、やっとコーヒーに入れた睡眠薬が効いたみたいだ」
山下「くそ、ボスがやられた! みんな、突っ込むぞー! シャー!」
ガオレイン「なんだかわからんが、勝機! いくぞ、ガオレインキーック!」
山下「うわーーー!」
場面転換。
新吾「ふう」
山下「お疲れー」
新吾「……上手くいきましたね」
山下「俺達が食べていくには、正義に滅んでもらっては困るからな。世の中、バランスが取れているのが一番。正義だけでも悪だけでもダメなんだ」
新吾「はい。これからも、俺達でガオレインを応援していきましょう」
終わり。