■概要
人数:4人
時間:5分
■ジャンル
ボイスドラマ、ファンタジー、シリアス
■キャスト
サイラス
レオ
父親
占い師
■台本
占い師「あなたの子供は世界を救うことになります。ですが、お気を付けください。あなたの子供が世界を救うということは、育て方を間違うと、世界は終焉を迎えるということになります。努々(ゆめゆめ)、お忘れなきよう……」
サイラス(N)「これは世界一と呼ばれた占い師が、僕の両親に言った言葉だ。それは僕が生まれる5年も前のことだった。両親は喜び、英才教育の準備を開始した……」
場面転換。
父親「サイラス! お前はあっちに行っていなさい」
サイラス「でも、父さん……」
父親「お前の役目は邪魔しないことだ。いいな?」
サイラス「……」
レオ「父さん。そんなこと言わないで、サイラスも一緒にやらせてあげてよ。せっかく、やる気なんだからさ」
父親「レオ……。お前は、この大きさが全然、わかっていない。お前の肩には世界の命運がかかっているんだ。お前は自分のことだけを考えていなさい」
レオ「でもさ、俺が世界を救うにしたって、サイラスにだって手伝ってもらわないと無理だよ。だから……」
父親「レオ。それは本気で言っているのか? サイラスの才能を見てみろ。勉学も、身体能力も、全ての才能に対して、お前の足元にも及ばない。邪魔することはあっても、手伝いなんてできない」
レオ「……」
父親「サイラス。わかったな。あっちへ行ってなさい」
サイラス「……はい」
サイラス(N)「父さんの言う通り、兄さんはありとあらゆる面で、僕を上回っていた。……同年代……いや、大人たちにだって、兄さんに叶う人を探すのが難しいほどだ。……そして、兄さんの凄いところは、そんな、みんなの期待を受けても、受け止めきれるところだ。世界を救うということに対して、一切の迷いも、恐怖もない。……世界を救う英雄なんて人は、きっと、兄さんみたいな人がなるものなのだろう。まさに、世界を救うために生まれて来たような人だ」
場面転換。
レオ「ごほっ! ごほっ!」
サイラス「兄さん。大丈夫?」
レオ「……父さんは?」
サイラス「部屋に閉じこもって、酒浸りだよ」
レオ「……そうか」
サイラス「そうだ、兄さん。隣町に、良い医者がいるみたいなんだ。今度、見て貰おうよ」
レオ「……世界一と呼ばれる医師がさじを投げたんだ。無理だよ」
サイラス「でも、でも……。兄さんは世界を救うんでしょ? 絶対、治るはずだよ」
レオ「なあ、サイラス……。お前は囚われるなよ」
サイラス「え?」
レオ「お前が陰でずっと努力していたことは知ってる……」
サイラス「……少しでも、兄さんの力になりたかったんだ。世界を背負うなんて……一人が背負うには重すぎるよ」
レオ「だからさ。だから、お前は俺が死んだら、自由に生きろ」
サイラス「でも……」
レオ「ごめんな。……お前の生きる、この世界を救うことは出来なかった……」
サイラス「誰も、兄さんを攻めることなんてできないよ。ううん。僕が許さない」
レオ「ありがとう、サイラス。……こうなるなら、もっと……お前と遊んでやればよかったな」
サイラス「ううん。兄さんと一緒に過ごした日々は、僕にとっては宝物だよ」
レオ「……サイラス。お前は、世界なんて背負わなくていい。残された時間を自由に生きろ。いいな」
サイラス(N)「その数日後、兄さんは亡くなった」
場面転換。
サイラス「というわけです」
占い師「そうですか……」
サイラス「僕たち家族は、あなたの占いによって人生を狂わされました」
占い師「……私は、単に占いの結果を言っただけです」
サイラス「……それはわかっています。ですが、あなたの占いがあったせいで、今、僕や両親は絶望の底にいます」
占い師「なぜですか?」
サイラス「……兄さんは死にました。もう、世界を救う人間はいなくなってしまいました」
占い師「……私は、あなたの両親に、こう言ったのです。あなたの子供は世界を救うことになります、と」
サイラス「……え? ……まさか」
占い師「あなたの両親は、あなたを育てることに成功しました。兄という完璧な存在をあなたに見せ続け、あなたに一切の期待を持たなかった……。だからこそ、あなたは陰で努力ができました。違いますか?」
サイラス「……」
そのとき、爆音と地鳴りが響く。
サイラス「うわっ! な、なんだ!?」
占い師「始まったようです」
サイラス「え?」
占い師「さあ、どうぞ、世界を救ってくだささい。何卒、よろしくお願いいたします」
終わり。