■概要
人数:4人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、20世紀ヨーロッパ、シリアス
■キャスト
ラルフ
リンダ
カーク
男
■台本
ラルフ「……カーク。まさか、お前が組織を裏切るなんてな」
カーク「……どうしても、金が必要だったんだ」
ラルフ「どういう理由だとしても、見逃すことはできない」
カーク「ああ。お前に殺られるなら、悪くない。……ラルフ。お前は最高の相棒だったよ」
ラルフ「言い残すことはあるか?」
カーク「こんなことを頼める義理はないが……一つお願いがある」
ラルフ「なんだ?」
カーク「……娘のことを託したい」
ラルフ「母親は?」
カーク「……死んでる」
ラルフ「……」
カーク「頼む。あの子が大人になるまで、見守ってくれないか?」
ラルフ「……わかった。約束してやる」
カーク「ありがとう……」
ドンと銃声が響く。
場面転換。
リンダが10歳。
リンダ「うわあ! すっごい、ご馳走!」
ラルフ「10歳の誕生日、おめでとう、リンダ。これはプレゼントだ」
リンダ「なに? 開けていい?」
ラルフ「ああ」
ガサガサと袋を開ける音。
リンダ「お洋服だ! 素敵―! ありがとう、お父さん」
ラルフ「リンダ。……大事な話がある」
リンダ「なに?」
ラルフ「今日から、私のことはおじさんと呼んでくれないか?」
リンダ「……どうして?」
ラルフ「頼む……。おじさんと呼ぶ。それだけでいいんだ」
リンダ「う、うん……。わかった。でもね、私はお父さんって思ってるからね」
ラルフ「……」
場面転換。
リンダが15歳。
ガチャリとドアが開く音。
リンダ「ラルフおじさん、ただいま」
ラルフ「お帰り、リンダ」
リンダ「そうだ。来週、進路のことで面談があるから、学校に来てくれる?」
ラルフ「ああ。わかった。……それより、明日はお前の15歳の誕生日だったな」
リンダ「うん。大丈夫だよ。友達との誕生会は明後日にしてもらったから、明日はちゃんと家にいるよ」
ラルフ「……リンダ」
リンダ「ん? なに?」
ラルフ「大事な話がある。そこに座りなさい」
リンダ「う、うん……」
リンダが座る。
ラルフ「……私はお前の本当の父親ではない」
リンダ「う、うん」
ラルフ「お前は私の相棒……親友の子供だ」
リンダ「……」
ラルフ「お前を育てているのは、親友との約束があったからだ」
リンダ「……」
ラルフ「その約束の期限は、大人になるまで……。つまり、20歳だ」
リンダ「……なんで、そんなこと言うの?」
ラルフ「……」
リンダ「……じゃあ、ラルフおじさんが、私を育ててくれたのは、私のお父さんに頼まれたからって、こと?」
ラルフ「そうだ」
リンダ「娘って思ってくれてなかったってこと?」
ラルフ「そうだ」
リンダ「……私は20歳になったら、どうするの?」
ラルフ「私の義務は終了する。それからはお前の自由だ」
リンダ「……そう。わかった」
ラルフ「……」
リンダ「……20歳までは」
ラルフ「ん?」
リンダ「20歳まではラルフおじさんのこと、お父さんだと思っていいんだよね?」
ラルフ「……ああ。20歳までは、どんなことがあっても、お前を育てるつもりだ」
リンダ「うん。ありがとう。……じゃあ、あと5年で、親離れしないとね」
ラルフ「……」
場面転換。
5年後。
パンパン、と手を叩く。
リンダ「ふう。これでよし、と」
ガチャリとドアが開く。
ラルフ「リンダ、手伝おうか?」
リンダ「今、丁度、荷造り終わったところ」
ラルフ「そうか」
リンダ「もうすぐ引っ越し業者の人が来てくれることになってるんだ」
ラルフ「……これで全部か? 随分と少ないんだな」
リンダ「うん。引っ越しの為に、前から物を整理してんだ」
ラルフ「……そうか」
リンダ「ねえ、ラルフおじさん」
ラルフ「ん?」
リンダ「少し早いけど……。今まで、私を育ててくれて、ありがとうございました」
ラルフ「ああ」
リンダ「この恩は一生、忘れません。……いつになるかわからないけど、絶対に恩を返すからね」
ラルフ「いいかい、リンダ。お前を育てたのは、私の義務だったんだ。だから、お前が恩を感じる必要はない」
リンダ「……」
ラルフ「明日からは赤の他人同士だ。……私のことは忘れなさい」
リンダ「でも……」
ラルフ「いいかい? 明日からはお前に何があっても、私は助ける義務がないということだ。これからは一人で生きていくことになるんだ。しっかりしなさい」
リンダ「でも、でも、私は……」
ラルフ「……リンダ。最後に重要な話がある」
リンダ「……」
ラルフ「お前は親友の子供だと話したな?」
リンダ「うん」
ラルフ「その親友を……お前の父親を殺したのは私だ」
リンダ「え?」
ラルフ「私はそれまで、ある組織に所属していた。その組織の命令で、お前の父親を手にかけたんだ」
リンダ「……」
ラルフ「お前を育てると約束したのは、罪悪感から逃げるためだ。だから、お前が私に恩を感じることも、慕うこともする必要はない。それどころか、恨むべき人間であるはずなんだ」
リンダ「……今更、恨むなんてできないよ。……でも、ありがとう。吹っ切れたよ。……さよなら、ラルフおじさん」
ラルフ「ああ。さよなら」
場面転換。
コツコツコツと夜道を歩く音。
リンダ「ふう。仕事で遅くなっちゃった。早く帰らないと……」
男「へへへへへ……」
リンダ「きゃあっ! な、なに、あなた」
男「……長かった。本当に長かったよ」
リンダ「……っ!」
男「20年だ。20年、このときを待っていたんだ」
リンダ「……」
男「ようやく父さんの仇を討てる」
リンダ「……父さんの仇? どういうこと?」
男「何も聞いていないのか? お前の父親は殺し屋だった」
リンダ「え?」
男「お前の親父に、俺は父さんを殺された」
リンダ「……っ!」
男「本当はお前の親父を、俺の手で殺してやりたかった。だが、あいつが……あいつが先に殺しやがった」
リンダ「……ラルフおじさん」
男「そうだ! だから、娘であるお前を殺そうと思ったんだ。だが、あいつには隙がなかった。この20年間、ずっと機会をうかがってたんだ。けど、ようやく、ようやく、お前はあいつの手から離れた!」
リンダ「……」
男「ようやく、お前に復讐ができる! 死ねえぇ!」
リンダ「いやあー!」
ダンという一発の銃声。
男「あ、ああ……。そんな……」
男が倒れる。
リンダ「ラルフおじさん」
ラルフ「……」
リンダ「……どうして?」
ラルフ「……」
リンダ「私に何があっても、助ける義務はないって言ってたのに」
ラルフ「……そうだな」
リンダ「それなら、どうして?」
ラルフ「これは義務じゃない」
リンダ「え?」
ラルフ「お前を……守りたいと思ったから、守った。これは義務ではなく、私の意思だ」
リンダ「うう……」
ラルフ「すまない。本当は、私はお前の傍にいる資格はないのだが……」
リンダ「お父さん!」
ガバッとラルフに抱き着くリンダ。
ラルフ「リンダ……」
リンダ「お父さん! お父さん! お父さん! うわーん!」
ラルフ「……リンダ。これからは、何があってもお前を守る。……私の意思で」
終わり。