■概要
人数:4人
時間:15分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、コメディ
■キャスト
健太(けんた)
怜美(れいみ)2役
その他(男性×2)
■台本
健太(N)「ドッペルゲンガー、多重人格、そして自分そっくりのアンドロイド。自分であり、そうではない存在……。もう一人、自分がいれば世の中をもっと楽に生きられる。誰でも一度は考えたことがあるのではないだろうか。もちろん、私もよく妄想していた。だが、同時に考えなくてはならなくてはならないことがある。……それは、もう一人の自分が、必ずしも、自分の思い通りに動いてくれるとは限らないことだ。もしかすると、自分が意図することと違うことをしてしまうかもしれない。……いや、逆に自分という存在を悪用することだってあるかもしれないのだ。今日は、それに近いことが起こった話をしようと思う。それは、私が、まだ小学生の頃の話だ」
場面転換。
休み時間の教室内。
男子生徒「はあ……。今日も、怜美ちゃん、可愛いよなー」
健太「そうだよねー。僕、見てるだけで幸せだもん」
男子生徒「なあ、健太。もし、怜美ちゃんが付き合ってくれるって言ったら、どうする?」
健太「ええ? いや、そんなこと言われることはないよ、絶対。……でも、もし、そんなこと言われたら、僕はどんなことがあっても、幸せにするよ、絶対」
怜美「……」
男子生徒「あ、怜美ちゃん、こっち向いた。……もしかして、聞こえたかな?」
健太「ま、まさか……」
怜美「……ふふっ」
男子生徒「笑った! 今、怜美ちゃん、こっち向いて笑ったぞ! 可愛いなぁ……」
健太「……」
男子生徒「ん? どうした、健太?」
健太「……いや、怜美ちゃん、今日、何か雰囲気違う気がしない?」
男子生徒「え? そうかな? いつもと同じじゃないか?」
健太「そ、そうだよね」
ガラガラとドアが開き、教師が入って来る。
教師「お、いたいた。怜美。このプリント、怜佳に渡しておいてくれ」
怜美「……わかりました。妹に渡しておきます」
教師「あいつが休むなんてなぁ。元気だけが取り柄なのに」
怜美「バカは風邪ひかない」
教師「え?」
怜美「そう言いたいんですか?」
教師「いやいやいやいや。違うよ。違う違う。とにかく、この宿題、渡しておいてくれ。あ、くれぐれも、お前が手伝ったりするなよ」
怜美「わかってますよ」
教師「じゃ、じゃあな」
健太「怜美ちゃんが、あんなこと言うなんて珍しいね」
男子生徒「まあ、妹がバカにされたんだから、怒って当然だろ」
健太「そ、それはそうなんだけど……。なんか、変だなぁ……」
怜美「……」
男子生徒「あ、またこっち向いた。……やっぱり聞こえてるんじゃないのか?」
健太「べ、別に悪口言ってたわけじゃないし」
男子生徒「そ、そうだよな」
場面転換。
学校のチャイム。
廊下を歩く健太。
怜美「ねえ。健太くんだっけ?」
健太「あ、怜美ちゃん。な、なに?」
怜美「あたしを幸せにしてくれるってホント?」
健太「え?」
怜美「言ってたわよね? お付き合いしたら、あたしを幸せにしてくれるって」
健太「う、うん……。言った」
怜美「ふーん。じゃあ、ちょっと付き合ってみる?」
健太「え?」
怜美「だから、試しに付き合ってみる、って話。嫌?」
健太「い、いや、そんなことないよ」
怜美「じゃあ、決定ね」
健太「う、うん。……ホントにいいの?」
怜美「でも、試しに付き合うだけだから。まだ、彼女になったわけじゃないから勘違いしないでよ?」
健太「わ、わかった」
怜美「あ、そうだ。このことは誰にも言わないで」
健太「ど、どうして?」
怜美「えっと、まあ、色々と大変なのよ。噂になったりしたら嫌でしょ?」
健太「う、うん……」
怜美「だから、学校で、あたしに話しかけるのもNGね」
健太「え? 話しちゃダメなの?」
怜美「学校内だけよ。それと、学校以外で会う時は、あたしの方が連絡するから」
健太「連絡って……?」
ガサガサとカバンを漁る音。
怜美「はい、これ」
健太「え? これって、ノート?」
怜美「交換日記。学校で話が出来ない分、日記で色々話しましょ?」
健太「う、うん。わかった」
怜美「あ、そうだ。交換は、健太くんの下駄箱ね。健太くんは書き終わったら、自分の下駄箱に入れておいて。あたしが回収するから」
健太「う、うん。わかった」
怜美「ふふ。じゃあ、これからよろしくね、健太くん」
場面転換。
休み時間の教室。
健太「……」
男子生徒「どうした、健太? いつにも増して、怜美ちゃんのこと見て」
健太「……全然、こっち向いてくれないなって思って」
男子生徒「おいおい。昨日がたまたまだったんだよ、たまたま」
健太「……」
怜美が歩いて来る。
怜美「あの……谷川さん」
健太「え? な、なに?」
怜美「私のこと、ジッと見てましたけど、何かありましたか?」
健太「あ、ご、ごめん。な、なんでもない」
怜美「……? そうですか」
怜美が歩き去っていく。
男子生徒「ばっか。だから見すぎだって」
健太「うん。……怒らせちゃったかも。話しかけないだけじゃなくて、見ないようにしないと」
場面転換。
健太の家。ノートに文字を書く音。
健太「えーっと、今日はジロジロと見てしまって、ごめんなさい。これからは気を付けるようにするよ。そういえば、怜美ちゃんは普段は何してるの?」
カリカリとノートに書く音。
場面転換。
ガチャと下駄箱を開ける音。
健太「あっ! 怜美ちゃんから返事来た」
場面転換。
交換日記の内容の怜美の声で話す。
怜美「ダメだよ。教室じゃ、絶対にバレないようにしてね。気を付けてよ。普段は、健太くんとあんまり変わらないと思う。漫画読んだり、アニメ見たりしてるよ。それと、愛の言葉が足りないんじゃない?」
場面転換。
日記の内容。健太の声で話す。
健太「愛の言葉か……。ちょっと恥ずかしいけど、怜美ちゃんのこと、大好きだよ。ずっと怜美ちゃんのことを見てたんだ。こんな感じでいいかな? それで、どんな漫画読むの? キバって漫画知ってる? 凄く面白いよ。僕、全巻持ってるから、今度貸そうか?」
場面転換。
日記の内容。
怜美「うん。そんな感じで。最初に愛の言葉は忘れないでね。それと、キバは前から読みたいって思ってたんだ。貸してほしいな。じゃあさ、今度の日曜に、借りに行くよ」
場面転換。
チャイムの音。少ししてドアが開く。
健太「あ、怜美ちゃん、いらっしゃい。どうぞ」
怜美「お邪魔しまーす」
場面転換。
怜美「あはははは。サイコー」
健太「……」
怜美「ん? どうかした?」
健太「ううん。なんか、随分と教室とちがうなぁって」
怜美「ああ。うん。学校だと良い子にしようと思ってるんだ。だから、あれは演技」
健太「そうなんだ」
怜美「……ガッカリした?」
健太「う、ううん。逆に、こうやって漫画読んで笑ってくれる方が、なんていうか……嬉しい……かな」
怜美「ふふふ。ありがと」
場面転換。
授業中。
教師「で、こうなるわけだが……。じゃあ、答えは……怜美、わかるか?」
怜美「え? あ、その……わかりません」
教師「ん? そうか。お前がわからないなんて、珍しいな」
怜美「……ちょっと、具合悪くて……。保健室に行っていいですか?」
教室「そうか。いいぞ」
怜美が教室から出ていく。
健太「……」
場面転換。
教室内。
教師「それじゃ、この前のテスト、返すぞー。まずは、怜美。今回も100点だ」
周りから凄―いと拍手がする。
教師「これで、10回連続100点だな」
怜美「ありがとうございます」
教師「次は、健太。お前はもう少し頑張れ」
健太「すみません……」
場面転換。
教室内。
教師「じゃあ、健太。みんなの宿題のノート集めて、持ってきてくれ」
健太「わかりました」
歩いて、怜美の方へ行く。
健太「あ、あの……ノ、ノートを」
怜美「課題のノートですよね? はい、こちらです」
健太「あ、ありがとう……。え?」
怜美「……どうかしました?」
健太「いや、その……字、綺麗だね」
怜美「あら、ありがとうございます」
健太「……」
場面転換。
健太の部屋。
怜美「あははは」
健太「……ねえ、怜美さん」
怜美「ん? どうしたの?」
健太「……もうすぐ、卒業だね」
怜美「そうね」
健太「……怜美さん、中学は誠高(せいこう)だよね?」
※中学名は変えてOKです。
怜美「あっ……」
健太「……どうかした?」
怜美「ああ、ううん。そっか。中学は違う学校になるんだね」
健太「うん。だから、その……僕、怜美さんとこのまま……」
怜美「ストップ!」
健太「え?」
怜美「あたしたち、まだ、正式に付き合ってないわ。つまり、あたしは、健太くんの彼女ってわけじゃない」
健太「う、うん……」
怜美「だから、ちゃんと告白して。ここじゃなくて、学校で」
健太「わ、わかった……」
場面転換。
学校のチャイム。
怜美「あの……。私に大切な用事というのはなんですか?」
健太「あ、あの! 僕と付き合ってください!」
怜美「……急にそんなことを言われても困ります」
健太「え?」
怜美「申し訳ありませんが、お断りさせてください」
健太「そ、そんな……」
怜佳「あーあ、フラれちゃったわね」
健太「え? あれ? え? え? 怜美さんが2人……?」
怜美「怜佳、どうしたの? こんなところに」
健太「あ、あの……怜美さん?」
怜美「そういえば、紹介してませんでしたね。妹の怜佳です。双子なので、違うクラスにしてもらっています」
健太「……で、でも」
怜佳「怜美はね、私立の中学に行きたいから、皆勤賞がほしかったのよ。だから、怜美が風邪ひいたときは、あたしが怜美の代わりに学校に行ってたってわけ」
怜美「ちょっと、怜佳。それは秘密でしょ」
怜佳「大丈夫よ。健太くんは、話さないわよ。っていうより、話せないわよね」
健太「それって、どういう……?」
怜佳「じゃじゃーん。これ、何か分かる?」
健太「あ、交換日記。なんでそれを、怜佳さんが?」
怜佳「さーて、なんででしょう?」
健太「……あっ! もしかして」
怜佳「ピンポーン。健太くんは、ずーっとあたしと交換日記をしてたってわけ」
健太「……」
怜佳「つ、ま、り。この中には健太くんの恥ずかしい、愛の言葉がいーっぱい、書き込まれてるわ」
健太「か、返してよ!」
怜佳「だーめ。これをみんなにバラされたら、健太くんはどうなるかしらね?」
健太「うう……」
怜佳「ふふ。健太くんとはながーい、お付き合いになりそうね」
健太「……そ、そんな」
場面転換。
現代に戻る。
健太(N)「自分という存在を悪用する。つまり、私は怜美さんだと思っていた存在によって、騙されたわけだ。それは今、思い出しても胃が痛くなる」
コンコンとドアがノックされる。
怜佳「あなた。ご飯できたわよ」
健太「……なあ、怜佳。私は約束を守れたか?」
怜佳「何の話?」
健太「いや、なんでもない」
健太(N)「確かに、思い返すと胃が痛くなるが、今では良かったと思っている」
終わり。