■概要
人数:1人
時間:5分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代ファンタジー、シリアス
■キャスト
亜梨珠(ありす)
■台本
亜梨珠「いらっしゃいませ。亜梨珠の館へようこそ」
亜梨珠「……あら? 寝ぐせがついているわよ」
亜梨珠「ふふ。もしかして、今まで気づかなかったのかしら? ここまで来るのに、多くの人に見られたんじゃない?」
亜梨珠「……忙しかったって、私に言い訳されても、あまり意味がないと思うのだけれど」
亜梨珠「一度でも鏡を見れば、気付けたと思うわよ」
亜梨珠「……え? 面倒くさい?」
亜梨珠「……まあ、私がそこまでうるさく言うこともないのだけれど」
亜梨珠「でも、あなたがそうなら、向こう側のあなたも、きっと面倒くさがり屋なんでしょうね」
亜梨珠「ふふ。向こう側なんて言われたら、気になってしまったかしら?」
亜梨珠「いいわ。今日は鏡にまつわるお話をしようかしら」
亜梨珠「それは少し、変わった考え方をする女の子のお話……」
亜梨珠「その女の子の母親は、ある時、娘に変な癖があることに気づいたの」
亜梨珠「それは雨上がりの晴れた日のこと。娘が水たまりを見下ろした後、手を振るというものだったわ」
亜梨珠「その癖は、小さな水たまりではやらなくて、ある程度の大きさ……そうね、大体、顔の大きさ以上の水たまりにしかしなかったそうよ」
亜梨珠「そして、娘が鏡の前でもやっていることを思い出したの」
亜梨珠「鏡に向かって手を振っていたのは、自分の姿が映っているってわからなくて、手を振っているのだと思い込んで、特に気にしなかったらしいわ」
亜梨珠「でも、よく見ていると、鏡や水たまり以外でも、窓なんかにも手を振っているみたいなのよ。しかも、必ず笑顔で」
亜梨珠「ふふ。少し怖くなってしまったかしら?」
亜梨珠「母親も少し、不気味に思って、娘に聞いて見たそうよ。誰に向かって笑顔で手を振っているのか、って」
亜梨珠「すると、女の子は向こう側の私、と言ったそうよ」
亜梨珠「つまり、水たまりも窓も、自分の姿が映ったときに、手を振っていたみたいね」
亜梨珠「そして、母親は続けて、どうしてそんなことをするのかと聞いたの」
亜梨珠「その問いに、女の子はこう答えたわ」
亜梨珠「自分が嫌だから、って」
亜梨珠「女の子のお話はこうよ。いつも、鏡や窓、水たまりの向こうにいる私は笑顔で手を振ってくれるって。でも、もし、向こうの私が悲しそうな顔をしていたら、嫌な気持ちになる。だから、私は、向こうの私に嫌な気持ちにならないように、笑って手を振っていた、ということよ」
亜梨珠「ふふ。素敵な考え方ね」
亜梨珠「その女の子は、映った姿は違う世界の自分だと思い込んでいたみたい」
亜梨珠「だから、色々な世界の自分に心配かけないようにって、笑顔を見せていた、というわけね」
亜梨珠「ふふ。素敵な考え方よね」
亜梨珠「今は、鏡や窓の中にいるのは、自分の姿が映ったものだっていうのは、理解しているみたい」
亜梨珠「でも、同じように映った自分に対して、笑顔を向けることを続けているそうよ」
亜梨珠「自分が笑顔でいれば、色々なものの中の自分も笑顔になるってことだから、ですって」
亜梨珠「ふふふ。鏡に映る姿だけじゃなくて、見ている人たちも思わず笑顔になってしまうわよね」
亜梨珠「だから、あなたも、面倒くさがらずに鏡の中の自分に笑顔を向けてみてはどうかしら?」
亜梨珠「そうすれば、少しは疲れたような顔もよくなるかもしれないわよ?」
亜梨珠「ふふ。冗談よ。でも、疲れてそうな表情なのは本当だから、あまり無理しないようにね」
亜梨珠「あなただって、鏡の中の自分以外の人たちを笑顔にすることができるのだから」
亜梨珠「これで、今回のお話は終わりよ」
亜梨珠「よかったら、また来てね。さよなら」
終わり。