■概要
人数:5人以上
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
竜弥(たつや)
正美(まさみ)
子供1~4
社員
不動産員
アナウンサー
■台本
竜弥「母さん! 母さん! お願いだ! 目を開けてくれ! 母さん!」
竜弥(N)「その日、唯一の家族である母さんが死んだ。そして、悲しむ暇もなく、俺は孤児院に入ることになった」
場面転換。
竜弥が歩いて来て、ドアを開ける音。
竜弥「戻りましたー」
正美「お帰りなさい、竜弥くん。遅かったわね」
竜弥「……これ、バイト代出たから」
正美「……竜弥くん。気にしなくていいのよ。うちは補助金、貰ってるんだから」
竜弥「そうじゃないよ。住ませて貰っているからその家賃」
正美「……ここはあなたの家なの。家賃なんていらないのよ」
竜弥「違うよ。俺の家はここじゃない。……母さんと暮らした、あの家だよ」
正美「……」
竜弥「高校卒業したら、すぐに出てくから。そのときに、借りを残しておきたくないんだ」
正美「……借りだなんて」
竜弥「……」
そのとき、子供たちが走って来る。
子供1「竜兄ちゃん! 遊んでー!」
竜弥「……バイトで疲れてるんだよ」
子供2「ええー! ずっと待ってたんだよー」
竜弥「……」
正美「ほらほら。竜弥くん、疲れてるんだから。後で、私が遊んであげるから、ね?」
子供1「ええー!」
子供2「竜兄ちゃんと遊びたいー」
竜弥「……1時間だけだぞ」
子供1「わーい!」
子供2「やったー」
正美「いいの?」
竜弥「まあ、このくらいなら……」
竜弥(N)「ここは騒がしい。俺のように家族がいない連中が集まっているんだから、仕方ないんだろうけど。早く、母さんと暮らした、あの家に帰りたい……」
場面転換。
竜弥「……それじゃ、お世話になりました」
正美「……これ。竜弥くんがずっと、入れてくれてたお金。持ってって」
竜弥「いえ。賃貸の保証人になってくれただけで、十分です」
正美「……何かあったら、すぐに帰って来ていいからね」
竜弥「ずっと言い続けたと思うんですけど、俺にとって、ここは仮宿です。俺の家はここじゃないんです」
正美「……」
子供たちが走って来る。
子供3「お兄ちゃん、行っちゃうの?」
子供4「やだー! ここにいてよ!」
竜弥「ごめんな。もう決めたんだ」
子供3「……うう。一緒に遊んでくれないの?」
子供4「竜兄ちゃんがいなくなるなんて、寂しいよ」
竜弥「……ごめんな」
正美「……竜弥くん。たまには遊びに来て」
竜弥「……たまになら」
場面転換。
竜弥が歩いていて、ピタリと立ち止まる。
竜弥「……そりゃそうだよな」
竜弥(N)「俺の家は、売りに出されていて、今は他の人が住んでいる。何とか、お金を貯めて、絶対に買い戻してみせる」
場面転換。
社内。
社員「社長。この件ですけど、確認お願いします」
竜弥「ああ、ありがとう」
社員「……そろそろ、人手も足りなくなってきましたね」
竜弥「そうだな。売り上げも上がってきたし、新しい人を募集するか」
竜弥(N)「あれから俺は、ITの会社を作り、今ではそこそこの利益を得るようになった。もう少しで、あの家を買い戻せるほどの資金が貯まる」
場面転換。
店内。
竜弥「……どうですか?」
不動産員「……難しいですね。随分と、あの家を気に入っているようで、手放したくないそうです」
竜弥「3千万……。それで、もう一度、交渉してくれませんか?」
不動産員「そう言われても……。金額ではないと思いますよ」
竜弥「あの家は、俺の帰るべき家なんです! お願いします! なんとかして、あの家を買い戻したいんです!」
不動産員「……」
場面転換。
ガチャリとドアを開け、部屋に入る竜弥。
ドサリとベッドに寝転がる。
竜弥「……母さん。もう少しだけ待っててくれ。絶対に、買い戻してみせるから」
起き上がって、パソコンを起動させる。
そして、マウスを操作する音。
竜弥「何か方法はないのか、何か……」
マウスを操作する音。
竜弥「地上げ屋……か。もし、どうしても引き渡さないなら……考えてみてもいいかもな」
マウスを操作する音。
竜弥「……え? なんだ、このニュース」
マウスを操作する音。動画が流れる。
アナウンサー「孤児院が物凄い勢いで燃えています! 幸いなことに、住民は全て避難しているようですが、火の勢いは一向に止むことはありません!」
竜弥「……そんな!」
スマホを出し、操作する音。
竜弥「あ、もしもし?」
場面転換。
竜弥「……どうして、連絡してくれなかったんですか?」
正美「……迷惑かけたくなかったし、竜弥くんはもう、孤児院を出てたから」
竜弥「……みんなはどうしてますか?」
正美「今は、違う孤児院に行ってもらってるわ」
竜弥「……大丈夫なんですか?」
正美「……他の子からの当たりはキツイみたい。みんな帰りたいって言ってる」
竜弥「……」
正美「今、色々なところへ掛け合って、お金を集めてるところ」
竜弥「……このご時世、集めるのは難しいんじゃないんですか?」
正美「……」
竜弥「これ……使ってください」
正美「え? でも、これって……」
竜弥「……」
場面転換。
子供たちが走って来る。
子供1「竜兄ちゃん、ありがとう」
子供2「竜兄ちゃんのおかげで、みんな、戻ってくることができたよ!」
子供3「ねえねえ、見て見て! 新しい家、すっごいんだよ!」
竜弥「……よかったな」
正美「……竜弥くん、ありがとう。おかげで……」
竜弥「お礼はいいよ」
正美「でも……」
竜弥「家族が困ってるなら、助けるのは当然だよ」
正美「え?」
竜弥が歩き出し、ドアをガチャリと開ける音。
竜弥「ただいま!」
竜弥(N)「ごめん、母さん。俺の帰る場所はここだったみたいだ」
終わり。