■概要
人数:5人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
伸也(しんや)
雫(しずく)
医師
看護師
友人
■台本
伸也と友人が道を歩いている。
伸也「あははは。そりゃ、親に怒られて当然だって。進級できるの?」
友人「いやー、やべーわ。次、赤点取ったら、留年だってさ」
伸也「高校で留年かー。ご愁傷様」
友人「まだ決まってねーよ……って、おい! 伸也!」
伸也「ん?」
車の急ブレーキの音とドンと車にぶつかる音。
場面転換。
病院。
心電図の音が響く。
医師「ふう。安定したようだな。一般病室に移してくれ」
看護師「一般病室も満床で……」
医師「あー、じゃあ、この前、個室に移った患者の個室に運んでくれ」
看護師「個室なのに、いいんですか?」
医師「個室でって言われてるわけじゃないし、もう、そこしか空いてないだから、仕方ないだろ」
看護師「ですが、その……」
医師「あー、大丈夫大丈夫。安定したって言っても、右腕くらいしか動かせないんだ。なにも起こりようはないさ」
看護師「……わかりました」
場面転換。
病室。
伸也「……あー、くそ、暇だ」
沈黙。
伸也「うっ! くそ、せ、背中がかゆい! うおお! ヤバい!」
雫「……ふふ。わかる。ホントにヤバかったら、ナースコール押したら?」
伸也「あー、いや、こんなことで呼ぶのは……って、個室じゃなかったんだ?」
雫「酷いよねー。カーテンで仕切ってるからって、男女を一緒の病室にするとかさー」
伸也「……なんかしようとか、ないから」
雫「ふふふ。わかってるって。っていうか、動けないでしょ?」
伸也「あー、うん。右手しか動かない」
雫「私は、右足」
伸也「君は……」
雫「あ、私、雫」
伸也「雫さんは……」
雫「雫でいいよ」
伸也「雫はなんで? やっぱり、事故?」
雫「まあ、うん。事故っちゃ、事故かな。学校の2階から落ちたの」
伸也「……そっか」
雫「君は?」
伸也「あー、俺、伸也。伸也くんでいいよ」
雫「えー、自分だけ、くん付け強要?」
伸也「あははは。ごめんごめん。冗談」
雫「で? 伸也は? 自殺未遂?」
伸也「なんでだよ! 事故だよ、事故。車に轢かれた」
雫「へー。目立とうとして、道路に飛び出したとか?」
伸也「……俺をなんだと思ってるんだよ」
雫「ふふふ」
伸也「俺は高2なんだけど、雫は?」
雫「あ、同じだー」
伸也「おお、奇遇だな」
雫「だねー」
伸也「雫は……」
場面転換。
伸也「うーん。俺、病気かも」
雫「なに、急に? あんたは病人じゃなくて、怪我人でしょ」
伸也「いやいや、そうじゃなくてさー。俺、全然、腹減らねーんだよ。もう一週間くらい経つのにさ」
雫「たぶん、薬とか点滴のせいじゃないの? 私も、減らないよ」
伸也「そっか。ならいいんだけど。あー、早く、焼き肉とか食いてーよ」
雫「右手しか動かないのに、食べれなくない?」
伸也「……頑張れば、なんとか」
雫「目の前にあるのに、食べれない方が辛くない?」
伸也「……確かに」
雫「……でもさー。よかったなーって思うよ」
伸也「ん? なにが? 食欲ないのが?」
雫「じゃなくて、伸也が隣に来たことだよ」
伸也「……」
雫「伸也が来るまで、ホント、暇だったもん。気が狂うかと思ったよ」
伸也「あー、そっちか」
雫「ん? なんのことだと思ったの?」
伸也「いや、なんでもない」
雫「そう考えると、この病院の患者がいっぱいでよかったよね」
伸也「そうだな」
雫「……」
伸也「……なあ、雫」
雫「なに?」
伸也「……カーテン、開けていい?」
雫「ダメ」
伸也「なんでだよ?」
雫「私と伸也はたまたま、同じ病室になったの。それだけの関係」
伸也「……」
雫「ここを出たら、また他人同士。だから、顔なんて知らない方がいいんだよ」
伸也「……そっか」
雫「そうだよ」
場面転換。
雫「あははははは」
伸也「そんなに笑うとこか?」
雫「はははは。……もう、お腹痛い! あんまり笑わせないでよ」
伸也「ちょっとした、悪戯のつもりだったんだけどなぁ」
雫「運が悪かったとしか言えないね。……はー。笑った笑った。こんなに笑ったの、10年くらいぶりかも」
伸也「そういやさ、雫って……」
雫「ん?」
伸也「あ、いや、何でもない」
雫「……誰も見舞いに来ない件?」
伸也「……」
雫「伸也の方は、毎日、家族と友達来るもんね」
伸也「……」
雫「親は海外出張が多くて、ほとんど家にいないんだ。私がこんなんなっても、帰って来ないくらい、忙しいみたい」
伸也「……ごめん」
雫「慣れてるからいいんだよ。……で、友達の方はいないから」
伸也「……」
雫「前にさ、私、学校の2階から落ちたって言ったでしょ?」
伸也「ああ、うん」
雫「あれね。落とされたの」
伸也「え?」
雫「私ね、イジメられてたの。キモイって言われてさ」
伸也「……」
雫「でもさー。普通、謝りに来るよね」
伸也「そっか。……大変だったんだな」
雫「ごめんね。こんな私なら、もう、話したくないよね?」
伸也「関係ねーよ」
雫「え?」
伸也「俺の知ってる雫は、明るくて、話してて面白い奴だ。学校にいるときのお前のことなんて、関係ねーよ」
雫「……あーあ。伸也と一緒の学校だったならなぁ」
伸也「引っ越して来いよ。うちの学校、楽しいぜ。馬鹿ばっかだけど」
雫「あははは。考えとく」
場面転換。
医師「いやあ、若いって凄いな。3ヶ月でここまで回復するなんて。これなら退院できそうだな」
伸也「え?」
医師「……まあ、患者がいっぱいっていううちの都合もあるんだけどね。ということで退院だから、準備、よろしくな」
医師が行ってしまう。
伸也「……」
雫「退院、おめでとう」
伸也「ああ」
雫「ありがとうね。3ヶ月間、楽しかった」
伸也「ああ」
雫「……さよなら、だね」
伸也「……」
シャーとカーテンを開ける音。
雫「あっ!」
伸也「……」
雫「なんで、カーテン開けたの? 絶対、止めてって言ったのに……」
伸也「……」
雫「……伸也には見られたくなかったよ。こんな傷だらけの顔。……幻滅したよね? だから、見られたくなかったんだ」
伸也「……」
雫「カーテン越しの恋のまま、終わりたかった……」
伸也「関係ねーよ」
雫「え?」
伸也「俺は雫……お前が好きだ。カーテン越しじゃなくても、俺はお前のことを好きになったと思う」
雫「……嘘、だよ」
伸也「だから証明するよ。ありのままの雫が好きだって。これからも、ずっと」
雫「……伸也」
終わり。