■概要
人数:5人以上
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、童話、コメディ
■キャスト
オリヴィア
ジェイコブ
王様
芸人
女性1~3
男性
■台本
店の中。
オリヴィア「あーあ。今日も開店休業。このままお客さんが来なければ、廃業だわ……」
そのとき、鈴の音が鳴り、ドアが開く。
オリヴィア「いらっしゃいませ! ……って、あら? 貴族の方がこんなお店に何の御用ですか?」
ジェイコブ「ふむ。噂通り、全く客がいないな」
オリヴィア「余計なお世話です。冷やかしなら帰ってくれません?」
ジェイコブ「ふむふむ。貴族に対しても、物おじしないその性格。気に入った」
オリヴィア「気に入った? パトロンにでもなってくれるんですか?」
ジェイコブ「そうだな。うまくいけば、一生遊んで暮らせるようになるかもしれんぞ」
オリヴィア「えええ! 本当ですか? 頑張ります! どんな髪型がいいですか? 坊主なら30秒で出来ますよ!」
ジェイコブ「……丸坊主って。いやいや。髪を切って欲しいのは、私ではない」
オリヴィア「……じゃあ、誰のです?」
ジェイコブ「王様のだ」
オリヴィア「……は?」
場面転換。
コツコツと宮殿の廊下を歩く、オリヴィアとジェイコブ。
オリヴィア「……あの。普通、王様の散髪は宮廷美容師とかがやるものじゃないんですか?」
ジェイコブ「そうなんだが、病に臥せっていてな」
オリヴィア「……それにしたって、私が選ばれる理由がわからないんですけど」
ジェイコブ「……いなくなっても問題ない人間だからだ」
オリヴィア「はあああ? なにそれ? そりゃ、一ヶ月に数人しかお客が来ないけどさ! それでも、私がいいって言ってくれるお客だって……」
ジェイコブ「いるのか?」
オリヴィア「……」
ジェイコブ「……まあ、その、なんだ。泣くな」
オリヴィア「うっさいわよ!」
ジェイコブ「ここから真面目な話なんだが」
オリヴィア「私はずっと真面目に話をしてたつもりなんだけど」
ジェイコブ「王様の散髪をしている最中は絶対に笑うな」
オリヴィア「どういうこと? 王様がギャグを言っても、笑うなっていうの?」
ジェイコブ「……心配するな。王様はギャグを言うような人ではない」
オリヴィア「ふーん」
ジェイコブが立ち止まる。
ジェイコブ「着いたぞ。覚悟は良いな?」
オリヴィア「良くないって言っても、変わらないんでしょ?」
ジェイコブ「その調子なら大丈夫そうだな」
ガチャリとドアを開くジェイコブ。
ジェイコブ「王様。美容師をお連れしました」
王「うむ。さすがにそろそろ、髪がうっとうしくてな。さっぱりとさせてくれ」
オリヴィア「は、はい」
オリヴィアが準備を始める。
オリヴィア「それでは王様、髪を切らせていただきます」
王「うむ」
オリヴィア「……あの、帽子を取っていただけませんか?」
王「取らんとダメか?」
オリヴィア「マッシュルームカットみたいになってもいいのなら、取らなくても大丈夫です」
王「……わかった。帽子を取る」
王様が帽子を取る。
王「……」
オリヴィア「こ、これは……!?」
場面転換。
王「……ご苦労だった」
オリヴィア「は、はい……」
王様が歩き出すが、ピタリと立ち止まる。
王「……忠告しておくが、他言は無用だ。もし、しゃべったら……わかるな?」
オリヴィア「はい」
王「うむ……」
再び歩き出す王が、部屋を出ていく。
ジェイコブ「よく、耐えたな」
オリヴィア「もうギリギリ……」
ジェイコブ「行っていいぞ」
オリヴィア「っ……」
オリヴィアが走り出し、物凄い勢いで部屋を出る。
場面展開。
森の中。
ザクザクと穴を掘るオリヴィア。
そして、手を止める。
オリヴィア「……ふう。これくらい深ければ大丈夫ね。……もうダメ、耐えられない!」
思い切り息を吸う、オリヴィア。
オリヴィア「王様の耳はロバの耳! 王様の耳はロバの耳! 王様の耳は……」
場面転換。
大道芸人が笛を吹きながら森を歩く。
だが、笛の音がどこか変。
芸人「ん? ついに笛が壊れたか? 仕方ない。どこかの木から、新しく作るか」
きょろきょろとあたりを見渡す芸人。
すると、かすかに声が聞こえてくる。
オリヴィエの声「王様の……耳……。も……。王様……ロバ……。も……」
芸人「なんだ? この木の中から声が聞こえるぞ? よし、この木の枝から新しい笛を作ろう!」
場面転換。
王宮内。王の間。
王「……お主ら、やってくれたな」
オリヴィア「いやいやいや。私、言ってませんよ。王様の耳がロバだなんて」
芸人「私もです。私の口からは、一度も王様の耳がロバだなんて言ってません。神に誓います」
王「なら、なぜ、国民に知れ渡っているのだ?」
芸人「この笛のせいです! いいですか? 聞いてください」
芸人が笛を吹くとピーという後から、人間の声が聞こえてくる。
オリヴィアの声「王様の耳はロバの耳! 王様の耳はロバの耳! 萌え!」
王「……」
オリヴィア「……」
芸人「ね?」
ジェイコブ「どうしますか、王?」
王「……もはや、隠し切れまい。今は全ての国民に知れ渡っている」
ジェイコブ「……」
王「……正直、もう隠すのも疲れた。国民の前に出て、盛大に笑われてやるさ」
ジェイコブ「……王」
王「だが、お主ら。覚悟しておけよ」
オリヴィア「……」
芸人「……」
王が歩き出す。
宮殿の屋上。
下には大勢の国民が集まって来ている。
そして、王様が現れる。
王「国民よ。今まで黙っていたが、私の耳は見た通り、ロバである。……笑いたくば、笑うがいい」
すると、一気に歓声が上がる。
女性1「きゃー! 可愛い!」
女性2「王様、萌え!」
男性1「王様、ケモ耳、似合ってますよー!」
女性3「もっと見せて!」
王「……ちょっと、来てくれ」
ジェイコブ「はい。なんでしょう?」
王「あの二人に褒美を与えよ」
ジェイコブ「承知しました」
終わり。