■概要
人数:5人
時間:15分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代ファンタジー、コメディ
■キャスト
悟(さとる)
妖精(ようせい)
仁奈(にな)
恵(めぐみ)
栞(しおり)
香織(かおり)
茉莉(まり)
男子生徒
女子生徒
■台本
悟(N)「学校の外れに生えているモミの木の下で告白すると、必ず成功する。そんなベタベタな噂が、うちの高校にもあるのだ。普通であれば、そんな都市伝説なんかあてにしたりなんかしないのだが、もうすぐ卒業ということならば、試しても損はないだろう。どうせ、フラれてももう学校に来ることはないのだから」
学校のチャイムの音。
悟「ふふふふ。仁奈ちゃん、恵ちゃん、栞ちゃん、香織ちゃん、茉莉ちゃん。さあ、誰が来ても、十分当たりだ! さあ、カモーン!」
時間経過。
カラスが鳴く声。
悟「……誰も来ねえ。くそ、これじゃ、噂が本当なのかどうかさえ、検証できねーじゃん。あー、つまんね。帰るか」
悟が帰ろうとしたとき、ミシ、ミシミシミシという音が聞こえる。
悟「ん? 何の音だ?」
バキバキとモミの木が折れ、倒れてくる。
悟「ぎゃあああー!」
モミの木の下敷きになってしまう悟。
場面転換。
悟の部屋。
ゲームのBGMが流れている。
悟「……あれ? ここ、俺の部屋? って、うお! これ、怒気(どき)メモ5じゃねーか! 懐かしー」
妖精「あ、目覚められたんですね!」
悟「うおお! ビックリした! え? なに? 妖精? ……俺、まだ夢見てるのか?」
妖精「いえ、夢ではありません。過去ではありますけど」
悟「過去? えっと、どういうことだ?」
妖精「覚えているかと思いますが、あなたはモミの木に潰されて、亡くなったんですよ」
悟「……覚えてる。いきなり、木が折れて倒れてきたんだよな」
妖精「実は、あのモミの木が私の本体でして……。で、巻き込んでしまった上にこんなことを頼むのは心苦しいのですが、助けてくれないでしょうか」
悟「助ける?」
妖精「モミの木の下で告白すると成功するって噂、知ってますよね?」
悟「ああ」
妖精「実はあれ、私が特別な力を使って、成功させてたんですが、近年、あそこで告白する人がほとんどいなくなりました」
悟「あー、まあ、呼び出して告白って、今じゃあんまり見なくなったもんなぁ」
妖精「私は誰かに必要とされることで、力を得ていたのです」
悟「つまり、誰もモミの木を使わなくなったことで、力がなくなってきたってわけか」
妖精「はい。それで、ついには木が折れるという事態に……」
悟「で、助けてほしいってどういうことだ?」
妖精「あなたにあのモミの木の下で告白してほしいんです」
悟「ってことは、俺の呼び出しに来てもらうってことか」
妖精「はい。そうです」
悟「けど、俺って、死んだんじゃ……?」
妖精「なので、時間を3年、巻き戻させていただきました」
悟「そっか。だから、怒気メモ5をやってたのか。懐かしーな。入学式の前の日からハマって、結局、サボったんだよなー、入学式」
妖精「え? 入学式をサボったのですか? ゲームをやるために?」
悟「おかげで、その日のうちに全キャラコンプリートできたぜ!」
妖精「……スタートから学生生活を踏み外してたんですね」
悟「うるさいなっ!」
妖精「とにかく、今日は入学式です! 今回はサボっちゃ駄目ですよ!」
悟「わかってるよ。どのみち、怒気メモはやりつくして飽きてるし。って、もうこんな時間ジャーねーか! 遅刻する!」
場面転換。
悟が走っている。
悟「うおおおおお!」
仁奈「きゃああっ!」
悟が仁奈とぶつかる。
悟「あ、ごめん。……って、仁奈ちゃん」
仁奈「は? あんた誰?」
悟「え? 同じクラス……って、そっか。今はまだ会ってないのか」
仁奈「なに、ごちゃごちゃ言ってるの?」
悟「いや、なんでもない。とにかく、ごめん。急いでるから!」
仁奈「ちょっと待ちなさいよ!」
悟「なに?」
仁奈「あんたにぶつかったおかげで、足、くじいたのよ! 肩、貸しなさい」
悟「え? べ、別にいいけど」
仁奈「勘違いしないでよ。このままだと、入学式に遅刻しそうだからなんだからね!」
悟「わ、わかってるよ」
場面転換。
学校のチャイム。
仁奈「まさか、同じクラスだったなんてね」
悟「あ、仁奈ちゃん」
仁奈「あんたねー。初対面のときから、少し慣れ慣れしいわよ」
悟「ごめん……」
仁奈「まあ、いいわ。あんたのおかげで遅刻しなかったし。ありがとね」
スタスタと行ってしまう、仁奈。
悟「……こんなに話しかけられるなんて」
妖精「前は違ったんですか?」
悟「ああ。話しかけても無視されてたよ」
妖精「……そ、そうですか。ですが、いきなりチャンスですね」
悟「チャンス?」
妖精「今から、頑張れば、3年後には告白まで持っていけるんじゃないですか?」
悟「そ、そうかな……?」
場面転換。
放課後の廊下をスタスタと歩く。
悟「あーあ。暇だなぁ」
妖精「前はどうやって過ごしてたんですか?」
悟「学校が終わったら、速攻、帰ってゲーム三昧。朝までゲームしてても怒られないから、ついつい、朝までってのが定番だったな」
妖精「それなら帰ってゲームをすればいいんじゃないんですか?」
悟「いやあ。全部、やりこみ過ぎて飽きてるんだよなー」
恵「あ、あの……」
悟「え? あー、恵ちゃん」
恵「ひっ! なんで知ってるんですか?」
悟「なんでって……。あ、そっか。あっちはまだ知らないよな」
妖精「……前は良い意味での知り合いだったんですか?」
悟「いや、悪い意味での知り合いだった」
妖精「そ、そうですか……」
悟「あ、ごめん。で、何か用だった?」
恵「あ、あの……今、何か部活されてますか?」
悟「いや、別に……」
恵「それでは、その……囲碁部に入ってもらえませんか?」
悟「囲碁部? ……ああー。思い出した。部員が揃わなくて、廃部になったんだったな」
恵「ええ! なんで、廃部になりそうなこと、知ってるんですか?」
悟「あー、いや、まあ、その……」
恵「お願いします。名前だけでも貸してくれませんか?」
悟「別にいいよ」
恵「ありがとうございます!」
場面転換。
階段を駆け上る悟。
妖精「急いで、どうしたんですか?」
悟「いや、ちょっと気になることがあってな!」
バンと屋上のドアを開く悟。
栞「きゃあ、ななな、なんですか、あなたは!?」
悟「危ない!」
栞「へ?」
悟が栞を押し倒すと、後ろで物が落ちる音がする。
悟「ふう。やっぱりか。危なかった」
栞「あ、あの……ありがとうございます。助けてくれたんですか?」
悟「まあね。じゃあ、ダンスの練習、頑張ってね」
栞「な、なんで私がダンスの練習をしてることを知ってるんですか?」
悟「なんでって、アイドル……あー、いや、なんとなくだよ、なんとなく」
栞「あ、あの……練習、付き合ってもらえませんか? 見られると緊張しちゃうので、直したいんです」
悟「べ、別にいいけど……」
場面転換。
悟の部屋。
悟「……できた」
妖精「何の表ですか?」
悟「仁奈ちゃん、恵ちゃん、栞ちゃん、香織ちゃん、茉莉ちゃんの行動表。3年間の。思い出して書き出してみた」
妖精「……告白するために必要なのはわかりますが、なぜ5人分も作る必要が?」
悟「ふっふっふ。どうせなら、5人全員、コンプリートしたくなったのさ。ギャルゲーオタクの血が騒ぐぜ」
妖精「いや、これはゲームでは……」
悟「わかってるって。けど、まあ、見てなって」
悟(N)「俺はこの表を使い、5人の好感度を上げに上げまくった。3年のアドバンテージは大きい。そうしているうちに、あっという間に3年が過ぎた」
場面転換。
モミの木の下。
妖精「つ、ついに来ましたね、この日が」
悟「……前回は誰も来なかったけど、今回はどうかな?」
すると足音が聞こえてくる。
悟「来た!」
仁奈「悟、待った?」
恵「メール、見ました……」
栞「……悟くん。お話ってなんですか?」
香織「おい、悟、手短にしろよ」
茉莉「私を呼び出すなんて、いい度胸じゃない!」
悟「うおおおお! 全員攻略成功―! コンプリート!」
仁奈「え?」
恵「……」
栞「そんな」
香織「は?」
茉莉「はあ?」
仁奈「……やっぱり、噂は本当だったのね」
悟「へ?」
恵「いろんな女の子と仲良くしてるって……」
香織「まさか、5股かよ」
茉莉「怒りを通り越して、殺意が目覚めましたわ」
悟「いや、違う……これは……」
仁奈「死ねー!」
悟「ぎゃあーーー!」
5人にボコボコにされる、悟。
時間経過。
悟「う、うう……ひどい目にあった」
妖精「……結局、今回も失敗ですか」
悟「もう一回、チャンスをくれ。今度は一人に絞る」
妖精「……」
悟「なんだよ、その顔! 俺が協力しないと、また木が折れるぞ」
妖精「わ、わかりました……」
悟「ふふふ。ほらほら、早く早く!」
そのとき、男子生徒と女子生徒がやってくる。
女子生徒「ねえ、こんなところまで連れてきて、なんなの?」
男子生徒「あのさ……。俺と付き合ってくれないか!?」
女子生徒「え!? ……うん。いいよ!」
男子生徒「やったぁ!」
その光景を見ている悟と妖精。
悟「……あのさ、早く、時間、戻してくんない?」
妖精「……あなたはもう用無しです」
悟「そんなーーー!」
妖精「恋愛をゲーム感覚でやるからですよ。刺されなかっただけでも、良しとしましょう」
悟「いやだーーーー!」
終わり。