■概要
人数:5人以上
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、童話、コメディ
■キャスト
ロバ
犬
猫
ニワトリ
おやっさん
男
ギャング1~3
住人1~3
■台本
高らかに『下手な』歌を歌うロバ。
ロバ「俺はーローバー! 世界一のー美声をもつーローバー!」
おやっさん「おい、下手な歌、歌ってねーで、さっさとこれ運べ」
ロバ「あのさー、おやっさん。俺、今、歌の練習してるのわかってるでしょ? せっかく、ノッてきたのに」
おやっさん「ロバのくせに歌の練習してどうするんだよ。それより、お前はもっと物が運べるように体鍛えてくれた方が助かるんだが?」
ロバ「いや、俺、力仕事苦手だからさ」
おやっさん「……お前の存在理由を自分で否定しちまったよ、こいつ」
ロバ「くそー。俺は歌で食っていきたいのにな―」
場面転換。
おやっさん「おら、飯だ」
ロバ「いえーい! って、え? こんだけ?」
おやっさん「お前が働かないからだろーが。もっと食いたいなら、その分、働け!」
バンとドアを閉めて行ってしまうおやっさん。
ロバ「……くそ、やってらんねー。これはもう旅立つしかねーな」
場面転換。
ロバが道を歩きながら、下手な歌を歌う。
ロバ「俺はーローバー! 世界一、歌が上手い、ローバー!」
すると遠くから怒鳴り声が聞こえる。
男「てめえみたいな役立たずは出ていけ!」
犬「けっ! カスが! こっちから願え下げだっての!」
男「あとで、やっぱり戻りたいって言っても、入れねーからな!」
犬「言うか、バーカ!」
男「ふん! 生意気な犬だ!」
バタンとドアが閉まる。
犬「……あれ? 勢いで喧嘩しちまったけど、ヤバいんじゃね、俺?」
ロバ「どうしたんだ?」
犬「ん? いや、聞いてくれよ。俺さー、狩猟犬なんだけど、歌の方が才能あるからさ、歌を練習してたんだよ。仕事サボって。そしたら、出てけって言われて……。はあ、理不尽だよなー」
ロバ「あー、わかるわかる。人間って、そういうとこあるかなー」
犬「お! 話がわかるロバだな」
ロバ「なあ、俺と一緒にブレーメンに行かないか?」
犬「ブレーメン?」
ロバ「ああ。音楽の町、ブレーメン。そこで音楽隊を結成して、歌で食っていかないか?」
犬「いいねー! 乗った!」
場面転換。
ロバと犬が『下手な』歌を歌っている。
ロバ「俺はーローバー!」
犬「俺は犬―!」
ロバ・犬「世界一の音楽たーい!」
猫「はあー。にゃんでこんなことに……」
ロバ「ん? どうしたんだい?」
猫「いやね、いつもご飯を貰っている人にね、お礼にって思って、ネズミをあげたのよ。そしたら、箒で叩かれて、二度と来るなって言われたんだにゃん。私、にゃんか変なことしたかにゃー?」
犬「あー、あるある。人間て、そういう理不尽なとこあるよな。気分屋っていうかさー」
猫「人間は難しいにゃー」
ロバ「ねえ、君、もし行くとこないなら、俺たちとブレーメンに行かない?」
猫「ブレーメン?」
ロバ「そう。そこで音楽隊として食べていくんだよ」
猫「おー! それは面白そうだにゃん! 私、歌なんて歌ったことないけど、きっと才能あるにゃん!」
ロバ「よし、決まりだ。行こう!」
場面転換。
ロバと犬と猫が下手な歌を歌いながら進んでいく。
ロバ「おれ―たちー!」
犬「むーてーきーのー」
猫「音楽たーい!」
そのときニワトリが走ってくる。
ニワトリ「うおー! あぶねーあぶねー」
ロバ「ん? ニワトリ? どうしたんだい?」
ニワトリ「いやー、聞いてくれる? あたし、人間に毎日毎日、卵を産まされてたのさ」
犬「うんうん。で?」
ニワトリ「毎日、同じことの繰り返しで飽き飽きしてさー。何日、卵を産まないでいられるか選手権をやってたの。そしたら、卵を産めなくなったニワトリは食べるしかないって言い出して、逃げてきたのよ」
ロバ「うわー。大変だったね」
犬「人間って、ホントサイテーだよな。俺たちを家畜かなんかと勘違いしてんだよ!」
ニワトリ「あーあ、あんな家、もう帰れないわ。どうしよう……」
ロバ「なら、俺たちと一緒にブレーメンに行かない?」
ニワトリ「ブレーメン?」
猫「そこで、みんなで音楽隊を結成して、歌で食っていくにゃん!」
ニワトリ「なにそれ、素敵! 行く行く!」
ロバ「よーし! それじゃ行こう!」
場面転換。
がやがやと町の喧騒が聞こえてくる。
ロバ「着いた! ようやくブレーメンに到着したよ!」
犬「はー、疲れた」
猫「で、どうするにゃん?」
ロバ「あー、しまった。着いたらどうするか全然考えてなかったなー」
ニワトリ「それなら、とりあえず、ここで歌って、宿代を稼ぐのはどう?」
ロバ「おおー! いいね! じゃあ、さっそく歌おう!」
ロバ、犬、猫、ニワトリが下手な歌を歌い出す。
ロバ・犬・猫・ニワトリ「我らはー! ブレーメンのー! 音楽たーい! みんなー! 投銭してちょうだーい!」
するとあたりが静かになっている。
ロバ「あれ? さっきまでたくさん人がいたのに、いなくなってる」
犬「……きっと、みんな帰る時間だったんだよ」
猫「さっき、男の子が舌打ちして、石を投げてきたんだけど、なんか関係あるのかにゃ?」
ニワトリ「みんな、耳を塞いでいたような……」
ロバ「うーん。時間が悪かったのかなー? 今日はここまでにして、明日はもう少し早い時間から始めよう」
犬「うん。そうだな」
ロバ「今日は仕方ないから、空き家を探して、そこで寝よう」
場面転換。
夜。フクロウの声が遠くから聞こえる。
ロバ「空き家ってないもんだねー」
犬「んー。結構、町の外れまで来ちまったなー」
猫「みんな寝ちゃったみたいだから、泊めてくれそうな家もなさそうだにゃん」
ニワトリ「あ、見て! あそこ! まだ明かりがついてる!」
ロバ「あ、ホントだ。今日はあそこに泊まらせてもらおう」
場面転換。
家の中。
ギャング1「。お頭! これが今日の上がりです」
ギャング2「ちっ! これだけか? もっと脅せば搾り取れるだろ!」
ギャング3「いや、住民も結構、ギリギリみたいっすよ」
ギャング2「うっせぇ! そんなことは関係ねー! 取れるだけ、取れって言ってんだよ!」
ギャング1「う、うっす!」
場面転換。
家の外。
ロバ「なんか、揉めてるみたいだ」
犬「けど、野宿は嫌だぜ」
猫「私たちの歌で揉め事を沈めればいいにゃん」
ニワトリ「じゃあ、みんなフォーメンションを取って、歌の準備をするよ!」
場面転換。
家の中。外から、声が聞こえてくる。
ロバ「じゃじゃじゃーん! 我ら、音楽隊の歌を聞いて、落ち着いてください」
ギャング1「なんだ、ありゃ? 動物か?」
ギャング2「くだらねえ、一発打ち込んで、追っ払え!」
ギャング3「うっす!」
場面転換。
家の外。
ロバ「じゃ、行くよ、せーの!」
ロバ・犬・猫・ニワトリ「わーれーらー! 世界一のー! 音楽たーい!」
場面転換。
家の中。
ロバたちの歌が家の中で反響して、声が暴走している。
ギャング2「ぐあー! なんだ、この騒音は?」
ギャング1「がふっ!」
ギャング1が倒れる。
ギャング2「くそ! なんだ、こりゃ! 逃げろ! 逃げろー!」
ギャングたちが窓をぶち破って逃げていく。
場面転換。
家の外。
ロバ「あれ? 逃げちゃった」
犬「俺たちの歌に感動して、家ごと貸してくれるってことじゃね?」
ニワトリ「きっとそうよ」
猫「これで宿を確保できたにゃん!」
場面転換。
町中。
ロバが歩いている。
住人1「あ、ロバさん、こんにちは。これ、うちでとれた野菜です」
ロバ「ありがとう」
住人2「これも、持って行っておくれ」
ロバ「助かるよ」
住人3「それで、あの……また、ギャングたちがきたら、音楽隊に歌ってもらっていいかい?」
ロバ「え? あー、うん、いいけど」
住人1「いやー、音楽隊が来てから町は平和になったよね」
住人2「変な奴らがきても、音楽隊の歌を聞けば逃げていくんだからさ」
ロバ「……」
住人3「これからも、町をよろしくね、ブレーメンの音楽隊さん」
ロバ「……あれえ? 確かに歌で食っていけてるけど、なんか、思ってたのと違う……」
終わり。