俺の祖先
- 2023.05.06
- ボイスドラマ(10分)
■概要
人数:5人以上
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代・時代劇、コメディ
■キャスト
真治(しんじ) 19歳
祖父 72歳
銑十郎(せんじゅうろう) 21歳
女 25歳
侍1~2
落ち武者1~2
野武士1~3
殿 9歳
■台本
ガサガサと真治が倉庫を整理している。
真治「……ごほごほ! 埃っぽいなぁ。じいちゃん、今日はもう止めない?」
祖父「バカを言うな! いつも、お前はそういって、途中で止めるじゃないか。たまにはやり遂げてみたらどうだ?」
真治「……倉庫の整理なんて、下手したら1週間以上かかるって」
祖父「それなら、1週間かけてやればいいだろ」
真治「勘弁して。そんなんで貴重な夏休みを潰したくない」
祖父「お前、いつも部屋でゴロゴロしてるだけだろ。その方がよっぽど、無駄に潰してると思うぞ」
真治「うっ……。あれはあれで、心のリフレッシュなんだって」
祖父「なーにが、心のリフレッシュだ。いつも困難から逃げてばかりのお前が、リフレッシュするほど疲れてるというのか?」
真治「う、うるさいな……」
そのとき、ドサドサと本が崩れてくる。
真治「うわあっ!」
祖父「大丈夫か?」
真治「うん。なんとか……。って、なに? この古い本。てか、なんて書いてるか全然、わからないんだけど」
祖父「これは……祖先の銑十郎様の日記帳だ」
真治「日記帳?」
祖父「ああ。流浪人として、全国を旅し、人々を助けて回ったという話だぞ」
真治「なに? うちらの先祖って侍だったの?」
祖父「ああ。きっと、物凄い強さだったんだろうな」
真治「なんで、そんなこと言えるのさ?」
祖父「侍の決闘と言えば基本、命掛けだ。それなのに銑十郎様は80歳まで生きたんだぞ。ということはその年まで無敗だったというわけだ」
真治「あのさ。そんなに強いなら、もっと有名だと思うな。聞いたことないよ。銑十郎なんて」
祖父「強いからと言って、全員が有名になるわけではない。そういう意味では不運な方だったんだろう」
真治「そうかなぁ」
祖父「とにかく、お前も銑十郎様を見習って、何事からも逃げない立派な人間になるんだぞ」
真治「うーん。銑十郎ねぇ……」
真治がペラペラと日記帳を開く。
江戸時代。※過去
町中を銑十郎が走っている。
その後を侍1が追っている。
侍1「おい! 銑十郎逃げるな! 勝負しろ、勝負! それでも侍か!」
銑十郎「うるせー! 好き好んで殺し合いなんてやるか、阿呆」
町人1「ああ、また逃げの銑十郎か」
町人2「ありゃ、侍の面汚しだな」
場面転換。
山道で女が落ち武者たちに襲われている。
落ち武者1「へへへへ。観念しな」
女「お、お助けください」
落ち武者2「心配するな。苦しくないようにしてやるよ」
女「いやー! 誰か、助けてー!」
落ち武者1「おい、さっさと切り殺せ!」
そこの銑十郎が走ってくる。
銑十郎「うおおおおおおお!」
落ち武者1「な、なんだ、こいつは?」
銑十郎「お助けごめん!」
銑十郎が落ち武者1に体当たりする。
落ち武者1「うわあああ!」
倒れる落ち武者1。
落ち武者2「くそ、こいつ!」
落ち武者2が斬りかかってくる。
銑十郎「おっと!」
銑十郎が剣を抜き、落ち武者2の剣を弾く。
落ち武者2「なっ!」
銑十郎「女! 逃げるぞ!」
女「え? あ、はいっ!」
銑十郎と女が逃げ出していく。
落ち武者1「お、おい、待てー!」
場面転換。
銑十郎と女が歩いている。
女「あの、お侍様」
銑十郎「銑十郎だ」
女「銑十郎様は……なぜ、お逃げになったのですか?」
銑十郎「なにがだ?」
女「銑十郎様はお強いですよね? 2人でも余裕で勝てたのではないのでしょうか?」
銑十郎「んー。逃げるに越したことはないだろ」
女「……そう、なのですか?」
銑十郎「もし、俺が何かの手違いで斬られたらどうする?」
女「あっ……」
銑十郎「お主を助けるのが目的だ。戦わなくていいなら、逃げるでいいのさ」
女「なるほどです」
場面転換。
森の中。
野武士1「覚悟しろ!」
侍2「くそ!」
野武士1と侍2が切り結び、鍔迫り合いをする。
侍2「殿! 今のうちにお逃げなされ」
殿「しかし!」
侍2「浅田の血を絶やしてはなりませぬ」
殿「す、すまん……」
野武士2「おっと、逃げ切れると思ってるのか?」
野武士3「お前の首を持って帰れば、報酬を貰えるからな。死んでもらうぜ」
殿「む、無念……」
侍2「と、殿―!」
そこに銑十郎が走ってくる。
銑十郎「お助けごめん!」
野武士2「な、なんだ、てめえは?」
銑十郎「はっ!」
野武士1「ぐわっ!」
銑十郎が野武士1を斬る。
銑十郎「おい、逃げるぞ!」
侍2「なんだと? 武士が簡単に逃げれるか!」
銑十郎「考えろ! 今、一番大事にするべきことはなんだ?」
侍2「……殿を守ること」
銑十郎「お前が死んだら、この先、誰が守る?」
侍2「殿、逃げますぞ」
殿「う、うむ」
3人が逃げ出す。
場面転換。
銑十郎、侍2、殿が歩いている。
侍2「お主……。なぜ、流浪人なんぞやっている?」
銑十郎「なんのことだ?」
侍2「お主ほどの腕があれば、もっと名を上げ、指南役となれるだろう?」
銑十郎「確かに、その方が金には困らんだろうな」
侍2「なら、なぜ?」
銑十郎「その生き方だと、命を狙われる。俺が一番大事にしていることは生きることだ」
侍2「なんともはや。武士道とは死ぬことと見つけたり、というではないか」
銑十郎「俺はそうは思わない。俺は長く生きたいんだよ」
侍2「だから、逃げ続ける人生を歩んでいるのか?」
銑十郎「ああ。そうだ」
侍2「ふん。まるで、侍の面汚しのようなやつだ」
銑十郎「はははは。なんとでも言え」
侍2「……それはさておき、この度は助けていただき、かたじけない。お主がいなければ、あの場は切り抜けられなかった」
銑十郎「ふふ。逃げることもいいものだろ?」
場面転換。※過去終わり。
真治「俺は気楽な人生がいいな。困難に立ち向かうだけが人生じゃないだろ?」
祖父「はあ……。まったく、誰に似たんだか。そんなことでは銑十郎様に笑われてしまうぞ」
真治「笑いたかったら、笑わせておけばいいさ」
祖父「それはそうと、さっさと倉庫の掃除を終わらせるぞ」
真治「げー! もういいじゃん。疲れた。やめよーよ」
終わり。