目を覚まさせるために

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■概要
人数:2人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、コメディ

■キャスト
彩羽(いろは)
一臣(かずおみ)

■台本

一臣の部屋。
モニターで、アイドルのライブを見ている。

一臣「楓ちゃーん!」
彩羽「……バカみたい。高校生にもなって、アイドルにハマるなんて」
一臣「はあ? 人を好きになるのに、年齢は関係ないだろ!? そんなこと言ったら、最近、結婚した、あの俳優はどうなるんだよ? 53歳なのに、20代のアイドルと結婚しただぞ?」
彩羽「それとこれとは話が別でしょ。あんたのはただのアイドルオタク。何年たっても、結婚どころか、彼女……いや、名前すら認識されることなんてないじゃない」
一臣「くそ、正論をいいやがって! いいんだよ、別に。俺は恋とかそういうんじゃなくて、単に応援したいだけだっつーの!」
彩羽「応援ね……。楓ちゃんだっけ? あんたが応援してるの?」
一臣「おう! 一番の推しだ」
彩羽「ふーん……。あれ? この子、整形してる? 胸も何か入れてるんじゃない?
 あと、性格悪そう」
一臣「おーまーえーなー! 何も知らないくせに、悪口言うなよ」
彩羽「なによ。思ったこと、言っただけじゃない」
一臣「何も知らないくせに言うなってこと! お前だって、知らない奴からいきなり悪口言われたらいやだろ?」
彩羽「……まあ、そりゃそうだけど。でも、そんなこと言ったら、何も言えないじゃない」
一臣「別に思ったことを言うなっていうわけじゃねーよ。ちゃんと知った上で言えってこと。表面の薄っぺらいとこ見て、言うなよ」
彩羽「ふーん。じゃあさ、私が、この楓って子をちゃんと知った上で言うなら、良いってことよね?」
一臣「まあ……そうだな。言っては欲しくねーけど、言う権利はあると思う」
彩羽「じゃあ、そのときはちゃんと聞いてよ?」
一臣「あ、ああ……」
彩羽「ふふ。私があんたの目を覚まさせてあげるわ」

場面転換。
パソコンでネットを見ている彩羽。

彩羽「へー。この子、子役から芸能界に入ったんだ……。えー! 5歳から? それでも売れなくて……。苦労したのねぇ。……って、違う違う! 悪いところ悪いところっと」

場面転換。
通学路。一緒に歩いている一臣と彩羽。

一臣「うーん……」
彩羽「どうしたの?」
一臣「いやさ、楓ちゃん、最近、パーマかけただろ? ちょっと雰囲気変わって見えて、いやだなーって思ってさ」
彩羽「は? あれ、地毛よ。逆に今まで、ストレートパーマかけてたんだってさ。その方が清楚に見られるからだろうね」
一臣「そうなのか?」
彩羽「そうなのよ。たぶん、最近は忙しいから、なかなか美容院に行けないんじゃない? だから、髪のセットとかで、なんとか誤魔化してるって感じじゃないかな」
一臣「へー、そうなんだ? お前、凄いな。よくそこまで知ってんな」
彩羽「あんたが言ったんでしょ! 悪口言うならちゃんと調べてから言えって」
一臣「でも、今のは悪口じゃねーじゃん」
彩羽「うっ! それは、その……これから言うわよ。えーと……。正直、私はストレートは似合ってないと思うわね。ありのままの髪に自信もっていいと思うのよね」
一臣「……悪口じゃないじゃん」
彩羽「……うるさいわね」

場面転換。
彩羽の部屋。
雑誌を見ている。
ページをめくる音。

彩羽「あっ! この、楓がつけてるマニュキュアの色、可愛い―。どこで売ってるんだろ。検索したら出るかな? ……えーと。ええー! ブランドの店とコラボして、自分で作ったの? すごーい!」

場面転換。
彩羽と一臣が並んで歩いている。

彩羽「……」
一臣「……おい。なんで、今日はそんなに不機嫌なんだ?」
彩羽「はあああ!? あんた、マジで言ってんの!? 楓よ、楓! あの子、夜に男とデートしてたの、写真ですっぱ抜かれたじゃない! ホント、最低の女ね! アイドルは恋愛禁止なのにさ! あり得ない! 幻滅したわよ、正直!」
一臣「あー、いや、あれ、お兄さん」
彩羽「え? ちょっと、どういうこと?」
一臣「ファンの中だと有名なんだけどさ。楓ちゃんのお兄さんって、モデル兼、楓ちゃんのマネージャーなんだよ」
彩羽「待って待って! どういうこと? そんな情報、どこにも載ってなかったんだけど?」
一臣「ああ。ファンの中の秘密のサイトがあるんだよ。掲示板みたいな。ファンクラブに入ってたら、URLとパスコード教えてもらえるはず」
彩羽「ちょっと! 早く言いなさいよ! なにやってんのよ!」
一臣「いや、お前、楓ちゃんのファンじゃないだろ?」
彩羽「楓のこと、知ってから悪口言えって言ったの、あんたでしょ! そういうのはちゃんといいなさいよ! フェアじゃないわよ!」
一臣「うっ! わかったよ。あとで、URLとパスコード、送る」
彩羽「い、ま!」
一臣「わ、わかった。わかったから睨まなでくれ。……っと、今、携帯に送った」
彩羽「おけ! じゃあ、私、急ぐから。じゃあね!」

彩羽が走っていく。

一臣「……」

場面転換。
一臣と彩羽が並んで歩いている。

彩羽「じゃじゃーん! 見て見て! 楓の髪型アレンジ」
一臣「……」
彩羽「……なによ? 感想言いなさいよ」
一臣「あー、いや、可愛いなって思って」
彩羽「だよねー。楓って、そういうところ、センスあるんだよ。……って、それ以外はダメダメだけどね」
一臣「……無理して悪口言わなくてもいいだろ」

場面転換。
一臣の部屋。

彩羽「あー、もう、サイアク! 楓のデザインしたTシャツ買えなかったー!」
一臣「あれ、人気だもんな―」
彩羽「あんたはゲットしたの?」
一臣「いや。あれは買えないと思って、最初から諦めてた」
彩羽「はああ? あんた、楓が一番の推しじゃなかったの?」
一臣「あー、いや……」
彩羽「そんなんで、推しとか、意味わかんない。どうやってでも手に入れるのが、本当の推しでしょ?」
一臣「そ、そうだよな。ちょっとネット漁ってみる」
彩羽「2枚、見つけといてよ」

部屋を出ていく彩羽。

一臣「……」

場面転換。
インターフォンの音。

一臣「はーい」

ドアが開く音。

彩羽「やっほー!」
一臣「え? あれ? ……どうしたんだ? その恰好?」
彩羽「じゃじゃーん! 全身、楓コーデ!」
一臣「……可愛い」
彩羽「へへへへ。でしょでしょ? やっぱ、楓のセンスは神がかってるわー。けど、本人と比べると、どうもねー。ま、相手はアイドルなんだから、比べるのもどうかと思うけど」
一臣「いやいや。すごい可愛いって。……楓ちゃんより、可愛いと思う……」
彩羽「はああああ!? あんた、舐めてんの?」
一臣「え?」
彩羽「楓が一般人よりも可愛くないってこと?」
一臣「いや、そういうことじゃなくて……」
彩羽「じゃあ、どういうことよ?」
一臣「……前言を撤回するよ」
彩羽「うん。それでいいのよ。じゃあ、支度して。楓のグッズ買いに行くわよ」

場面転換。
学校の屋上。
彩羽がやってくる。

彩羽「話ってなに?」
一臣「す、好きだ! 俺と付き合ってくれ!」
彩羽「……は?」
一臣「え?」
彩羽「楓はどうなったのよ? 推し、辞める気?」
一臣「いや、それとこれとは話が違うだろ」
彩羽「違うくない! あんたねぇ! 一度、推しって決めたなら、最後まで応援しなさいよね!」
一臣「けど、俺は……」
彩羽「恋愛なんてしてる暇があったら、ちゃんと楓を応援しなさいよね! いい!? わかった!?」
一臣「あ、ああ……。わかった」
彩羽「うん。それでいいわ。じゃあね」

スタスタと彩羽が行ってしまう。

一臣「……なんで、こんなことになったんだ?」

終わり。

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