シグナル

〈前の10枚シナリオへ〉  〈次の10枚シナリオへ〉

〈声劇用の台本一覧へ〉

■概要
人数:5人以上
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス

■キャスト
昴(すばる) 32歳 刑事
誠也(せいや) 26歳 刑事
辰徳(たつのり) 53歳
将司(まさし) 8歳
隆(たかし) 6歳
部長 55歳

■台本

警察署内。
課長に怒られている、昴と誠也。

課長「言ったはずだよな? あの件は捜査打ち切りって」
誠也「けど、課長」
課長「けど、じゃない! さっさと、釈放しろ」
昴「あいつは車で人を轢いた。だから捕まえた。それだけです」

ドンと机をたたく課長。

課長「警視正のご子息だぞ!」
昴「いえ、ひき逃げ犯です」
課長「……もういい。お前ら、3日間の謹慎だ。帰れ!」
誠也「それじゃ、誰が取り調べを?」
課長「取り調べなんてできるわけないだろ!」

場面転換。
ファーストフード店で食べ物を食べている昴と誠也。

誠也「やっぱ、ダメだったっすねー」
昴「ま、当然だな」
誠也「先輩はなんとも思わないんすか?」
昴「なにがだ?」
誠也「いくら警視正の息子だからって、人を轢いておいて、無罪放免なんて納得いかないっすよ」
昴「……今に始まったことじゃないだろ」
誠也「先輩は悔しくないんっすか?」
昴「まあ、こうなることは予想できてたからな」
誠也「……それなら、なんで捜査なんかしたんっすか? 無駄になるってわかってたのに」
昴「誠也。覚えておけ。やって無駄になることは、この仕事をしてれば山ほど出てくる」
誠也「……」
昴「けど、無駄になるからってやらないって選択肢はねーんだよ」
誠也「は、はい! 肝に銘じておくっす」
昴「それに、今回のことは完全に無駄じゃねえ」
誠也「え?」
昴「今まで親の権力をつかってやりたい放題のドラ息子に、俺らみたいな、何も考えない馬鹿がいるってことを教えてやったからな」
誠也「……あ」
昴「しばらくは大人しくしてるだろ。もし、また何かやらかすようなら、今後は顔面に一発入れてやるさ」
誠也「飛ばされても知らないっすよ」
昴「そのときは飛ばされた先で、同じことするさ」
誠也「先輩らしいっすね」
昴「……」

昴がコーヒーを飲む。

誠也「にしても、いいんすかね?」
昴「なにがだ?」
誠也「俺たち、謹慎中っすよ?」
昴「だから、手帳は置いてきてる」
誠也「……屁理屈っす」
昴「理屈が入ってればいいんだよ」
誠也「先輩が出世できないわけっす」
昴「興味ないからな。……それより、俺はこの街を守れればそれでいいんだよ」
誠也「……無茶すれば、それもできなくなるんすよ?」
昴「そのときは、お前に任せるよ」
誠也「……いや、そのときは一緒に飛ばされると思うんすけど」
昴「ん? そっか。そりゃそうだな。あははは」
誠也「笑いごとじゃないっす」
昴「先のことなんて考えるなんて無駄だってことだ」
誠也「……それにしても、なんでパトロールナンスか? なにか事件の手がかりでも探すんすか?」
昴「いいか、誠也。俺たちはいつも、事件が起こってから、犯人を捕まえる」
誠也「それが仕事っすからね」
昴「いや、違う」
誠也「え?」
昴「本来、俺たちの仕事は犯罪を未然に防ぐことだ」
誠也「そんなの理想論っす。犯人が犯罪を犯すかもしれないって、事前にはわかんないっすよ」
昴「そんなことはないさ。事件って言うのは、なにかしら、シグナルを発する。それを見逃さないことだ」
誠也「……なんすか、シグナルって」

ドアが開き、辰徳と将司が店に入ってくる。

辰徳「ダブルビーフバーガー1つ。あと、水」
昴「……」
誠也「どうしたんすか?」
昴「いや……」
誠也「あの親子がどうかしたんすか?」
昴「……」
辰徳「おら、水でも飲んどけ」
将司「……うん」

辰徳はハンバーガーを食べ始める。

誠也「うわ。親の方がハンバーガー食って、子供は水だけって……。虐待っすかね?」
昴「……ちょっとカマかけるか」

昴が立ち上がり、辰徳たちの方へ歩いていく。

昴「今日は平日ですが、その子の学校は?」
辰徳「なんだ、お前?」
昴「補導員ってところだ」
辰徳「……ちっ。あれだよ、開校記念日ってやつだ。な?」
将司「うん! 今日は学校、お休みなんだ!」
昴「そっか。邪魔したな」

昴が引き上げる。

誠也「いいんすか?」
昴「……」

突然、将司が歌い出す。

将司「か、も、めーの水兵さん~。な、らんだー、水兵さん」

将司は手拍子も付け加える。
しかし、その手拍子は全然、曲に合ってない。
(トントントンツーツーツートントントン)

誠也「……変な子っすね。全然、歌と手拍子が合ってない」
昴「……」
辰徳「おい、やめろ!」
将司「……はい」

ピタリと歌と手拍子を止める。

辰徳「おら、行くぞ」

将司を連れて、店を出ていく辰徳。

場面転換。
車の中。

誠也「……倉庫に入りましたね」
昴「よし、行くぞ」

場面転換。
足音を立てないように歩く昴と誠也。

昴「……お前は裏口へまわれ」
誠也「了解っす」

場面転換。
ガチャリとゆっくりとドアを開けて部屋に入る昴。

将司「……あっ」
昴「しー!」
将司「……」
昴「もう一人、人質がいるんだろ? どこだ?」
将司「あっち……」
昴「よし。俺が助け出すから、安心して待ってろ」
将司「うん……」

場面転換。
ガチャリとドアを開く昴。

昴「いたいた」
隆「あ、あの……」
昴「お兄ちゃんは助けた。もう安心だ」
隆「ホント?」
昴「ああ……」

そのとき後ろから辰徳がやってくる。

辰徳「なっ! お前はっ! ……うっ!」

どさりと辰徳が倒れる。

昴「ナイスタイミングだ」
誠也「先輩が引き付けてくれたからっす」

場面転換。
パトカーの音と、大勢の警官たちの声。

誠也「……先輩、なんで、あの子供が誘拐だってわかったんっすか?」
昴「今日、開校記念日の学校なんてないからな」
誠也「……全部、把握してるんすか?」
昴「まあ、な。開港記念日なんて、嘘つく常套句だろ?」
誠也「けど、なんで、人質が2人いるってわかったんすか?」
昴「あの子の手拍子だ」
誠也「……?」
昴「あの手拍子はモールス信号だ」
誠也「へ? そうなんですか?」
昴「トントントンツーツーツートントントン。つまり、SОSだ」
誠也「よくわかったっすね」
昴「あの子が歌った曲がかもめの水兵さん、だったからな。それでピンときた。モールス信号は海軍で、よく使われるんだ。……あの子の父親は海上自衛隊だったんだろ?」
誠也「はい、そうみたいっす。けど、それで、なんで人質は2人だってわかったんすか?」
昴「1人なら、あの場で騒げばいいだろ」
誠也「あっ!」
昴「いいか。何気ないことでも、シグナルは出るものだ。それを見逃さないようにする。それが俺たちの仕事だ」

終わり。

〈前の10枚シナリオへ〉  〈次の10枚シナリオへ〉