マナー

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■概要
人数:5人
時間:10分

■ジャンル
舞台・漫画原作、現代、コメディ

■キャスト
沖田 薫子(おきた かおるこ) 29歳
田中 颯太(たなか そうた) 25歳
幸三(こうぞう) 56歳
袴田(はかまだ)※部長 47歳
店員 ※年齢自由

■台本

〇社内
パソコンでメールを打っている薫子と颯太。
薫子が手を止めて、伸びをする。

薫子「んー!」

隣の颯太が思い切り、欠伸をする。

薫子「……」

薫子が颯太の頭にチョップする。

颯太「いたっ! 何するんですか、薫子先輩」
薫子「あのねぇ。仕事中に堂々と欠伸しない。せめて手を抑えるとか、控えめにやりなさいよ」
颯太「えー、面倒っすよ」
薫子「面倒じゃなくて、マナーよ、マナー。あんた顧客の前でもそんなことしてるんじゃないでしょうね?」
颯太「まままさか! 顧客の前ではちゃんとやりますよ、マナー」
薫子「ほんとにぃ?」
颯太「ホントっす、ホントっす!」

部長が机に座った状態で呼びかける。

部長「おい、沖田と田中。ちょっと来てくれ」
薫子「はい」
颯太「うぃーっす」

薫子と颯太が立ち上がり、部長の元へ歩いていく。

部長「今夜なんだが、この接待、任せてもいいか?」

部長が名刺を薫子に渡す。

薫子「……うわ。大手じゃないですか。部長、この会社と取引してたんですか?」
部長「ああ、まあ、な。で、今日、本当は一緒に食事するつもりだったんだが、別件が入っていてな。こっちを任せてもいいか?」
薫子「はい、大丈夫です」
部長「あー、実はこの人はマナーにうるさくてな……」

部長がチラリと颯太を見る。

部長「いや、やっぱり、先方には断りの電話を入れておこう……」
薫子「いえ、大丈夫です! やれます!」
部長「……ホントに大丈夫か? 無理なら無理って言ってくれよ?」
薫子「こう見えて、ちゃんとマナー研修は受けてますから」
部長「そうか。じゃあ、頼んだぞ」
薫子「はい」

〇街中(夜)
薫子と颯太が歩いている。
薫子はスマホを見ていて、ある店の前で止まる。

薫子「あ、この店よ、この店」

和食『さや』という看板が立っている。

薫子「19時、ギリギリね。早く入るわよ」
颯太「ういーっす」

颯太がドアを開けて入っていく。

〇店内
薫子が店員に話しかける。

薫子「あの、袴田で予約していた者ですけど」
店員「ああ、袴田様ですね。こちらです」

〇同
部屋に案内される薫子たち。
ドアが開くと、中にはすでに幸三が座っている。

薫子「あ、もう着ていらしたんですね」
幸三「……ああ。10分前にね(ちょっと怒ってる)」
颯太「へー。10分前行動って、学校みたいっすね(座りながら)」
薫子「(店員に)それじゃ、料理を持ってきてください」
店員「承知いたしました」

〇同
テーブルの上には天ぷらなどの和食が並んでいる。
颯太がガツガツと食べている。

幸三「……」
薫子「……」

薫子がハッとして、テーブルの下の颯太の足をつねる。

颯太「いで!」
薫子「(幸三に)ちょっと、失礼します」

薫子が颯太の腕をつかんで立ち上がり、部屋を出ていく。

〇廊下
薫子「あんたねぇ。今日の取引先はマナーにうるさいって言われてたでしょ!」
颯太「え? 俺、なんかマナー違反してたとこ、あったっすか?」
薫子「全部よ、全部! ボロボロこぼしてるし、汁ものも音を立てて飲んでるし、迷い箸してるし! いいとこ探す方が難しいわよ!」
颯太「うっ! そう言われても……」
薫子「いい? あんたはもう、何も食べるんじゃない!」
颯太「ええ! そんな!」
薫子「そんな、じゃない! ったく。この後は私が完璧なマナーで挽回するから、見てなさい!」
颯太「う、ういっす……」

〇室内
薫子と幸三が料理を食べている。
颯太は正座して、食べるのを我慢している。

薫子「……」

口に運ぶときに、手を添える薫子。

薫子「……」

わさびを醤油に溶かす薫子。

幸三「……」

時間経過。
料理がほぼ無くなっている。
薫子が箸を食器の上に置き、食べ終わった食器を重ねていく。

幸三「……」

最後に使った割り箸を袋に戻す薫子。

薫子「今日は、ありがとうございました」

ぺこりと頭を下げる薫子。

幸三「あ、ああ……」

〇社内
机で朝食をガツガツ食べている颯太。
出社してくる薫子。

薫子「おはよー」
颯太「うぃっす」

薫子が席に座る。

颯太「にしても、昨日はさすが先輩っすね。完璧なマナーだったっす」
薫子「でしょ?」

そのとき、後ろからさっそうと部長がやってくる。
そして、薫子と颯太の肩をガッとつかむ。

薫子「あ、部長。おはようございます……」
颯太「お疲れ様っす……」
部長「お前ら、やってくれたな……」
薫子「へ?」
部長「だから、無理するなって言ったんだー!」

頭を抱える部長。

〇ラーメン屋の店内
颯太と薫子がズルズルとラーメンをすすっている。
二人がドンブリを持って、汁をごくごく飲み干し、ドンとテーブルにドンブリを置く。

颯太「ぷはー!」
薫子「うまいわー!」
颯太「やっぱ、飯は何も考えずに食うのが一番うまいっすね」
薫子「そうね」

終わり。

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